板坂留五さんが買った、こだわりの帽子とドイツの図録

こんなにモノが溢れる時代に、それでも私たちが「モノを買う」のはなぜだろう?物欲…?はたまた必要に駆られて…?「買う」という行為から、その人らしさや考え方が見えてくるような気がします。
本企画はいわゆる「私の定番アイテム」紹介ではありません。さまざまな職種の方に「さいきん、買ったもの」をうかがい、改めて「買う」ことについて考える…そんな大げさな話ではなく、審美眼のある方々に「買う」にまつわるお話をうかがう、ちょっと軽めの読み物です。
今回登場いただくのは建築家の板坂留五(いたさかるい)さん。2018年に東京藝術大学院 建築専攻を修了し、同年に独立、2021年には「Under 35 Architects exhibition 2021」でGold Medal賞を受賞されています。最近は「DESIGNTIDE TOKYO 2024」の会場構成を担当されるなど、若手建築家として注目を集める板坂さんが、最近買ってよかったものとは?
つばが特徴的な帽子

可愛いカーブを描く、つばのデザインがお気に入り
これは、デザイナー・木村浩紀さんによる「HATA WO TATERU」というプロジェクトの「KASA Hat」です。私は帽子が好きなのですが、以前使っていたものが破れてしまい、1年くらい探していてこの夏に購入しました。
自分のなかで、帽子は似合うものと似合わないものがはっきりあるので、お店で試着しないと買えないんです。でも帽子屋さんはあまり多くないし、品ぞろえが豊富なお店も限られていたりしますよね。「HATA WO TATERU」の帽子は、くしゃっと丸めて鞄の中にも入れられて、被ると立体的につばが出るのが可愛くて。ずっと気になっていたのですが、今年の6月に都内のセレクトショップ「TOYA」で試着できる機会があり、これに決めました。
カジュアルだけど、さらさらとした手触りがカジュアルすぎないんです。前後逆に被ってもいいし、屋内に入るときは紐を肩にかけて、帽子の中にものを入れてバッグみたいに使ってみたり。製品表示の白い紙が付いておらず、生地に直接印刷されているのも可愛いです。大きいつばの形が気に入っていて、被ったときに前髪がつぶれないのもいい。首元の紐を絞れば風に飛ばされにくいし、いろいろとちょうどいいところが気に入っています。
ドイツの小さいミュージアムの図録

ドイツ語の図録(右)と、英訳された図録(中央)。ポストカードも現地で購入
今年の5月から11月まで開催されている、「第19回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」に行く機会がありました。ついでにヨーロッパをまわりたくて、ヴェネチアからドイツのベルリンまで10日間で北上したんです。ビエンナーレに出展していて知り合った音楽家がベルリン在住で、おすすめされたのが「Museum of Unheard (of) Things(聞かれざるものの博物館)」というギャラリーでした。この本はそこで購入した図録です。
ベルリンには、20~21世紀につくられた工業製品を展示している「Werkbund Archive – Museum of Things」という博物館があるのですが、その名前をもじったような同ギャラリーは、街のはずれにあるこぢんまりとした空間でした。
ギャラリー内には日替わりでいろいろなもの――使い古されたフィギュアのようなものやオブジェ、コラージュされたもの、絵画などが展示されていて、それらが辿ってきた歴史やいきさつ、有りようを詳細に書いたキャプションがぶら下がっていました。一つひとつ読み進めていくと、それがつくりものだということがだんだん分かってくるんですね。でも、つくりものですとはどこにも書いていなくて。

「Museum of Unheard (of) Things(聞かれざるものの博物館)」の展示風景
館長はアーティストのローランド・アルブレヒトさんという方で、すべて彼の作品なんです。すごく想像力のある方で、面白くて。以前から、ドキュメンタリーとフィクションが同居しているものやことの面白さに興味があったので、帰り際に図録を購入しました。
展覧会で購入できる図録は、情報量が多い割に3,000円ほどで買えることも多いので、チェックして買うことがよくありますね。
買い物について
ネットでの買い物は、大きさや質感が分からなかったりして失敗しちゃうので苦手です。服や本は特に。お店は、古着屋さんとかセレクトショップによく行きますが、なにが置いてあるか分からない状態で行ってお気に入りを見つけるのが好きですね。こぢんまりとしたセレクトショップなんかは、お店の人が覚えていてくれたりするので、その人に会いに行っているような感じもあります。買い物に行くというよりも、リフレッシュのために散歩しに行くみたいな。
面白い本との出合いは仕事の刺激にもなっています。たとえば、これは大阪で雑貨や服を売っている「hibi」というお店で買った、写真家の渡邉庸平さんの写真集なのですが、1枚の写真に切り込みを入れて折っているんですよね。

「Color and Qualities」渡邉庸平(SAMY PRESS)
その写真というのが、立体のボックスに写真を貼り付けて、それをまた撮影したものなんです。出版元のSAMY PRESSさんは「支持体としての出版物」をリサーチ、制作されているのですが、渡邉さんの写真の構造を本の形態に応用しているところが面白いなと思って。コンテンツである写真に対して、本の形態でリアクションしているようなところは建築に対する姿勢とも近いなと思うんです。自分でゼロから発信するというより、そこにあるものに対してリアクションする。それで、シンプルに写真集としてかっこいいなと思いました。
お店のオーナーもこの写真集について自分の言葉でキャプションを書いていて、丁寧に説明もしてくれて。それも面白くて購入しました。
そんな感じで、仕事の区切りがついたり、ぼーっとしたいときなどに買い物に出かけて、予定していなかったものを買うことが多いですね。
タイトル画像:石田和幸 撮影:小野奈那子 聞き手:萩原あとり(JDN)