桑沢デザイン研究所に受け継がれる創造者育成のメソッド

桑沢デザイン研究所に受け継がれる
創造者育成のメソッド

2013/04/03 UPDATE

Vol.3進化し続ける桑沢の育成メソッド

毎朝筆をとるという浅葉氏
毎朝筆をとるという浅葉氏
したためた文字は「転」
したためた文字は「転」

アートディレクション、グラフィックデザイン、タイポグラフィーの知識と技法。この3つの高次元でのバランスが、優れたデザイナーには必要不可欠な資質だと浅葉氏は言う。
「偏っていてはダメですが、全てをいきなり高い完成度で成し遂げるのも難しい。だから僕のゼミの学生に、書道、楷書を学ばせています。合宿では3食用意するけど寝ないで書く(笑)。そうすると、夜中に神が降りてきて、手の中に入ってくる。完全なグラフィックデザインと言っていい中国伝来の文字を書き続けることで、技術はもちろん、文字や言葉の深い関係を知り、これをどう表現するかという発想につながってくるのです。朝起きたら中心から外に向かって、筆で右巻き、左巻きの渦を書く。どんな完成度の高いグラフィックも、スタートは1本の線からだという精神を身に付ける訓練。筆触(ひっしょく/筆と紙の摩擦)が思考する感覚を覚えていくのです」

環境破壊、天災被害、経済危機など問題が次々と押し寄せる現代社会。浅葉氏は今こそ、デザインの力で明日を生き延びる知恵を提示すべきだと学生達に説く。さらに強調するのは、日本人が持って生まれた資質を生かせ、ということだ。
「韓国の文芸評論家・イー・オリョンは、日本人の得意技を4つの“つめる”だと語っている。見つめる、思いつめる、息をつめる、根をつめる。そして僕は、この4つが、そのままデザイナーに求められる大切な行動だと思っているのです。日本人が持つ資質を存分に生かせばデザインが成し得る可能性はさらに高まると思うし、若い人の頑張りで世界をより良くできると信じています」

偉大な卒業生として、後進の育成に注力する浅葉氏。自身の現在の使命は教えることではなく、環境づくりだと改めて言う。

「創作や発想を、教えることはできません。僕がすべきは、それぞれの長所を見い出し、その力を本人に気付かせ、後押しすること。そのためにはものづくりにふさわしい環境が必要なのです。僕自身、桑沢生だった頃は錚々たる先生方が次々とやって来て、ここはまるで世界デザイン会議のようだと思ったし、そのような環境に興奮したものです。かつてグロピウスが来日した時のような興奮を、今の学生にも味わって欲しいと思っています。
講演会やイベントをどんどん増やしていって、桑沢の1Fホールを毎日人だかりができているような楽しい場所にしたいんです。学生達にはデザインで騒ごう、と言いたい。ここで学ぶことで、デザインってこんなに楽しいんだってことを改めて感じて欲しいですね」

「かつてグロピウスが来日した時のような興奮を、今の学生にも味わって欲しい」
「かつてグロピウスが来日した時のような興奮を、今の学生にも味わって欲しい」

浅葉氏が構想を練るデザインの授業は学内にとどまらない。今後は、国内外のフィールドへ遠征し、より多様な社会の空気、ニーズにも触れる機会を設けるつもりだ。 古い概念を打ち砕き、デザイナーが新しい着想を得るにはどのような教育が必要か。桑沢デザイン研究所が常に対峙してきたこの問いに、今後、浅葉氏がどのような解を繰り出してくるのか、俄然楽しみだ。

[ 浅葉克己 ASABA Katsumi/アートディレクター ]
桑沢デザイン研究所所長。ライトパブリシティを経て、1975年浅葉克己デザイン室を設立。以後アートディレクターとして、日本の広告史に残る数多くの名作ポスター、コマーシャル等を制作する。日宣美特選、東京TDC賞、毎日デザイン賞、日本宣伝賞・山名賞、日本アカデミー賞最優秀美術賞、紫綬褒章、東京ADC グランプリなど受賞歴多数。東京TDC 理事長、東京ADC 委員、JAGDA 会長、AGI(国際グラフィック連盟)会員。デザインアソシエーション会長。日本卓球協会評議員、卓球六段。

専門学校 桑沢デザイン研究所

INDEX

デザイナーに必要な感性をどう、磨けばよいか

VOL.1

デザイナーに必要な感性をどう、磨けばよいか

実験の連続が新しい発想を生みだす

VOL.2

実験の連続が新しい発想を生みだす

進化し続ける桑沢の育成メソッド

VOL.3

進化し続ける桑沢の育成メソッド

企業情報

専門学校 桑沢デザイン研究所

TEL:03-3463-2431(代)
http://www.kds.ac.jp/