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12カ月のパリ
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 12カ月のパリ
 


第2回 (1)
Les Journées européennes du patrimoine
ヨーロッパ遺産のウィークエンド (9月21日〜22日)

 update 2002.11.13
レポート : 浦田 薫 / アート&デザインジャーナリスト 



19回目を迎える恒例イベント、ヨーロッパ遺産のウィークエンド。UNESCO世界遺産協定30周年とフランス環境省のキャンペーン「車の無い日」5周年と重なった今年のメインテーマは「遺産と国土」。通常、9月第3週目の土・日の2日間、指定されている史跡や公的機関を無料で一般公開する。国をあげての大イベントであるのだが、去年は、テロ事件の直後のため見送られた。


フランス銀行

このイベントは、ヨーロッパが統合をしてから規模が拡大しており、WEBサイト上で詳細を事前に調べた上で行動を開始しないと、途方もない旅になってしまうことであろう。
フランスにおいては、地方都市も含め、文部省の公認サイト http://www.culture.gouv.fr にて検索すると、1,700の参加場所が地方や街毎に閲覧できる。又、パリ市においては、PALAIS ROYAL (パレ・ロワイヤル) の中庭にキオスクが設けられ、1週間程前から新聞 Le Parisien により提供された号外を入手することができる。
当然、計画性もなく、散歩がてらにふらりと訪れるのも粋な時間の過ごし方かもしれない。

「遺産と国土」。地方や街を象徴する遺産を、全面的に紹介する趣である。遺産とは、環境と人類のあらゆる活動の証であることを提唱し、各遺産のアイデンティティーの確立、新しい建造物との共生を歴史の中で語り継いでいくものであると考える。そうした意味において、国土規模の尺度から、遺産の偉大さ、多様性を紹介する。(文部省提供資料より抜粋)

パレ・ロワイヤルは、ルーブル美術館を見学した人々が足を延ばして憩う場であり、ダニエル・ビュレン作の白黒ストライプ模様の柱が、中庭に定期的なリズムを成している。今日では、行政機関として文部省、国務院、憲法擁護院が執務に携わる公の建物である。歴史的背景には長いエピソードがあるのだが、1875年に国務院がこの場所に就任したことにはじまる。同年に文部省が異動してきて、VALOIS (ヴァロワ) 通り側翼の空間の大半を所有することになる。国務院に付属する憲法擁護院の異動は、フランス第5共和国の時代に突入してからである。

文部省の内部へ
それでは、文部省の内部の様子をご紹介しよう。
どの建造物も正面玄関での綿密なチェックを受け、入館が許可される。行政機関であるので、内部の撮影は一切不可能である。配布された地図を片手に決められた順路を辿っていく。
受付は、店舗デザインなどで知られる AGENCE CANAL (アジャンス・キャナル) の内装。ガラスのデスクがオレンジとブルーの壁面に囲まれている。テレビが9台程壁面に設置されてニュースを伝えているのだが、今日においては少々新鮮さに欠けるような印象を受ける。
まずは、文部大臣の書斎に向かうのだが、辿りつくまでに通り過ぎる (ではなくて、通らなければならない、という表現のほうが正解かもしれない) 部屋の数と装飾品の数々は、まるで宝物といえるものばかりである。
上階へと迎え入れる階段には、ELISABETH GAROUSTE (エリザベット・ギャルースト) と MATTIA BONETTI (マシア・ボネッティ) のウォールランプ。1階の踊場突き当たりには、BERTRAND LAVIER (ベルトラン・ラヴィエ) の“WALT DISNEY PRODUCTIONS”の一作でもあるモダンな彫刻が、台座にさりげなく置かれてある。次に、控の間。ここは、PIERRE ALECHINSKY (ピエール・アレシンスキー) により装飾されたブルー柄の壁紙とベージュのカーペット。応接セットは、LE CORBUSIER (ル・コルビュジエ) 作のLC2の1人 & 2人掛け。そして、現在のジェロームの間には(昔はオルレアン公爵夫妻のパレードの間と名付けられていた)、ジェローム王の胸像、軍隊のトロフィーや第1帝政時代の装飾品がふんだんに配置されている。厚地のタピストリーの上には、2日間の動員数を懸念し、擦り減っても良い業務用カーペットが敷かれている。従って、全面のモチーフを拝見することができないのは少々残念であるが、いたしかたない所であろう。

文部大臣の書斎
そして、いよいよ文部大臣(2002年6月より、Jean-Jacques Aillagon (ジャン・ジャック・アイヤゴン) 文部大臣)の書斎。ルイ16世時代の様式を取り入れたクラシックな装飾。広さ40〜50平米程の床面積であるが、広場側から燦燦と差しこむ光は、天井高3m以上の空間に落ち着きと静けさを運ぶ。今日の為に、卓上の多大な資料を秘書に片付けるように命じたのではないかと想像する程に、整然としている。しかし、書斎デスク、小型円卓、コンソールテーブル、椅子のセットは、フランスが誇るデザイナー Sylvain DUBUISSON (シルヴァン・ドゥビュイソン) が、当時の文部大臣 Jacques LANG からの熱烈な依頼を受け、国有調度品のアトリエで1990年に作成した1点ものである。当然、これらの作品を見るために訪れている観客も大勢いるので、そうした配慮は有難いことである。機能的というより、象徴的な表現が先行している印象を受けるが、DUBUISSON のデザインは、職人の仕事に似ていて、1点ものや数量に限定したシリーズを生産することで高い評価を受けている。シカモア材を用いた大臣の書斎セットは、天板と足が一体化で構成されており、床から天板に向けて広がりを持つ足の部分は曲面である。パステルグリーンの皮張りで覆われた天板と座面。DUBUISSON のデザインは、デザインすることの全ての段階に意味を持たせ、常にインスピレーションを参照し、構想を造形に置き換えていくアカデミックな手法である。現代における国有調度品の在り方を目の当たりすることができた。1990年から代々の文部大臣の執務を支え、その役割を果たしてきた重みが漂う。装飾品としては、知る限りでも RICHARD PEDUZZI (リシャール・ペドゥジ) の陶器の花瓶やデッサン、MARC COUTURIER (マーク・クトゥリエ) の墨の一筆作品が窓際に飾られている。

パリ1区・2区といえば、フランス銀行、商業株式所・商工会議所本部、株式取引所と、フランスの経済を支える歴史的建造物が集中している。長い歴史を語る空間に足を踏み入れ、日常生活と接点の少ない次元ではあったが、すっかりと重厚な雰囲気に浸ることができた。

問題意識が高いパリ市民
「車の無い日」というキャンペーンは、交通規制を心がけ、排気ガスの制限を試みることが目的であり、パリ市においては、交通を完全にストップすることは不可能である。しかし、その裏には、POLICIER (警察官) の出動員を増やすなどの努力と環境問題を一番身近に感じているパリ市民の理解があったからこそ、実現することができたのである。
街というのは、本来、そこに生活する市民が事情を他の誰よりも把握しており、保全、維持、改善も自らの手で行うべきであろう。パリ市民は、問題意識を常に抱えており、与えられた機会に問題提議をし、行動に移すことを本能的にも備えられているようである。こうしたイベントは、社会、教育、環境といった全ての分野に関係している。参加した一人一人が何かに興味を示し、新たな問題意識が生まれる。街の形成は、試行錯誤なしに成立はしない。パリ市は、絶えず市民の興味を引き出し、それを一つの原動力として還元しているリサイクル方式の街づくりを目指しているといえよう。

商業証券取引所


DUBUISSON がデザインした文部大臣の書斎。デスク面は現在淡いグリーンの皮。


palais royal 内部の広場。D.Buren のアートワークをこの角度からの眺められるのは公開日のみで、貴重なショット。


どの場所でも、列をしての入場。厳密な荷物チェックがある。


イベント情報キオスク。


場所によっては、専任スタッフが説明をしてくれる。





roller-brade 協会が、「車の無い日」をアピール。バスティーユ広場から一斉にスタート!

バスティーユ広場で、歩行者、自転車、ローラーブレードが交差する。一時、大混雑!?

7月14日パリ祭の行進でも花形の騎馬兵たちの特別パレード。

 
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