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思考と創造プラットフォームの形成を模索する、京都初の現代芸術の国際展「PARASOPHIA: 京都現代芸術祭2015」
PARASOPHIA-【鴨川デルタ】スーザン・フィリップ/【堀川団地(上長者町棟)】ピピロッティ・リスト氏
2015/04/08
JDN編集部
【鴨川デルタ】
スーザン・フィリップス氏「三つの歌」
賀茂川と高野川が合流する鴨川デルタで展開されるのは、スーザン・フィリップス氏の「三つの歌」だ。 毎時00分と30分に、合流前の賀茂川にかかる出町橋、高野川にかかる河合橋、合流後の鴨川にかかる加茂大橋、それぞれの橋に設置されたスピーカーから、フィリップス氏自身による歌唱が再生される。フィリップス氏の作品はバス停や高架下、スーパーマーケットなどの日常的な騒音が混在する場所に設置され、選ばれる歌はしばしば政治的や社会的な意味を持つものが多いが、憂いを帯びた優しい歌声が風景に溶け込んで、メッセージ性云々よりもそれ自体が鑑賞者の感情を強く揺さぶるものとなっている。本作は2014年4月と7月に京都で行った調査に基づき、歌舞伎のルーツと言われる阿国歌舞伎と同時代のイングランドの舞曲や民謡で構成されている。
【堀川団地(上長者町棟)】
ピピロッティ・リスト氏「進化的トレーニング(堀川――不安は消滅する)」
二条城の北側に位置する堀川団地は、1950年代初めに建てられた店舗併存集合住宅のはしりのような建物だ。ここで展示される、ピピロッティ・リストの「進化的トレーニング(堀川——不安は消滅する)」は、「PARASOPHIA」のメインビジュアルのひとつとしても使われていて、本展覧会においては数少ないビジュアル的なキャッチーさを持った作品だ。それぞれ、3分37秒と12分20秒のループ映像は、ひとつは天井に、ひとつは布団に投影される。快楽原則を刺激するような、豊かな色彩を持つ先鋭的で瑞々しい映像に引きずり込まれるように魅了された。かつて誰かの部屋だった生活感あふれる場所での展示は、リラックスして鑑賞する場を提供する意図があったようだが、むしろ家主の不在感のようなものが妙に気になってしまった。
京都で開催される現代芸術祭と聞いて、すわ寺社仏閣などのステレオタイプな京都をイメージしたが、実際のところはまったく異なるものだった。京都市美術館や鴨川デルタはさておき、堀川団地や崇仁地区は観光客がわざわざ足を運ぶ場所でないし、それぞれの会場から会場へのアクセスが良いとは決して言えない。まして、「新しい京都の魅力を発見」といった類のものではない。これはこの場所だからこそ構築できる世界観と、わかりやすい物語の提示を避けることを選択した結果だろう。次回以降の開催があるかどうかは不明だが、「思考と創造のプラットフォーム」をつくるための足がかりとしての第1回になったのではないだろうか。何度か京都に訪れたことのある人にとっては、これまでとは異なる側面から京都の歴史と場をとらえるきっかけになるかも知れない。
PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015
http://www.parasophia.jp/