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思考と創造プラットフォームの形成を模索する、京都初の現代芸術の国際展「PARASOPHIA: 京都現代芸術祭2015」
PARASOPHIA-【京都市美術館】リサ・アン・アワーバック/笠原恵実子/田中功起
2015/04/08
JDN編集部
リサ・アン・アワーバック氏「アメリカン・メガジン」
リサ・アン・アワーバック氏は、率直かつポップな批評性を感じさせる作家だ。2004年のアメリカ合衆国大統領選挙のときにメッセージを編み込んだニットの制作で注目を集めて以来、同様のニット作品を数多く発表してきた。カリフォルニアやアリゾナなどに点在する巨大教会の写真を掲載した、約150×100cmの巨大なZINE「アメリカン・メガジン」は、定期的に二人がかりでページをめくる展示方法をとっている。アワーバック氏の表現方法は、日常から生まれたシンプルな発想や疑問を起点に、さまざまな素材やメディアを駆使しながらも、自分の手で制作するD.I.Yの精神を一貫して重視している。フェミニズムやパンクなどの思想、ZINEなどのムーブメントを通過した、肌感覚での問題提起こそが彼女の真骨頂なのだ。大垣書店烏丸三条店のショーウインドーにも展示された「この織機を持って失せろ」は、一見すると街にすんなり浸透するような、ともすればお洒落ともいえるような作品だが、モデルとなっている作家自身が着ているニットにこめられたストレートなメッセージに注目。
笠原恵実子氏「K1001K」(正しくは最後のKが横向きに反転)
丹念なフィールドリサーチの記録、そこから展開するオブジェの制作という過程を可視化してきた、笠原恵実子氏の「K1001K」(正しくは最後のKが横向きに反転)。びっしりと床に敷き詰められた1001個の陶磁器のかけらのようなものは、白いセラミックの美しさがどこか冷たさを感じさせる。これは第二次世界大戦中に物資が足りないなかで苦肉の策として製造した、陶製手榴弾の遺物からインスピレーションを得た作品だ。笠原氏は「千人針」や「千人力」などの言葉から、「1000」という数字を個人の顔が失われる全体を代弁する単位と考え、そこに反動することのできるひとりの個を思い「1」を加えて「1001」にすることで、このプロジェクトを特徴づける数字と位置づけた。
田中功起氏「一時的なスタディ:ワークショップ#1「1946年~52年占領期と1970年人間と物質」」
田中功起氏が取り組んだのは、京都市美術館の場としての歴史を参照し体験する、「一時的なスタディ:ワークショップ#1「1946年~52年占領期と1970年人間と物質」」だ。第二次世界大戦後、京都市美術館はアメリカの駐留軍に接収されていた。現在の展示室にあたるスペースにはバスケットゴールまで設置されていたこともわかっている。また、1970年に行われた東京ビエンナーレ「人間と物質展」で、クリストがその展示室の床を布で覆っていたことも田中氏の興味をひいた。この2つの異なる事柄から着想を得て、ファシリテーター4名と高校生8名を参加者としてワークショップを開催。床を布で覆った展示室でバスケットボールをプレーし、その様子を記録した映像を制作。実際にそのワークショップで使ったバスケットゴールや布などが展示された空間で上映した。同じ場所で起きた状況を読み直して構築、ねじれた時間のズレや体験の差異を記録した作品だ。