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思考と創造プラットフォームの形成を模索する、京都初の現代芸術の国際展「PARASOPHIA: 京都現代芸術祭2015」
PARASOPHIA-【京都府京都文化博物館別館】森村泰昌/【京都芸術センター】アーノウト・ミック
2015/04/08
JDN編集部
【京都府京都文化博物館別館】
森村泰昌氏「侍女たちは夜に甦るV:遠くの光に導かれ闇に目覚めよ」
名画の人物や映画女優、20世紀の巨人などに扮装する「自画像的」な写真作品を一貫して制作してきた、森村泰昌氏の「侍女たちは夜に甦るV:遠くの光に導かれ闇に目覚めよ」と「Hermitage 1941–2014」は、「PARASOPHIA」において、展示場所がもっともしっくり来ていた作品かも知れない。国の重要文化財である、京都府京都文化博物館別館は旧日本銀行京都支店の建物を利用した施設で、三条通を中心とする「界わい景観整備地区」におけるシンボル的な存在だ。この歴史ある瀟洒な洋館建築に、閉館後の静まったプラド美術館を舞台にした「虚像」としての作品が整然と展示され、森村氏自身の少々聞き取りづらいモノローグが響きわたる。このコントラストがある種の居心地の悪さを感じさせる作品だ。
【京都芸術センター】
アーノウト・ミック氏「異言」
烏丸通を1本隔てただけとは思えない閑静な場所にある、芸術の総合的な振興を目指して2000年に開設された京都芸術センターは、元々は明治3年に開校した旧明倫小学校だった施設だ。ここで展示されていた、アーノウト・ミック氏の「異言」は個人的には白眉といって良い展示だ。もともと、講堂だったスペースに何面にもわたるモニターが設置され、大規模な映像インスタレーションが上映されている。そこに映し出されるのは無音の自己啓発セミナーのような大企業の社内行事だ。300人の俳優を使って撮影された映像は、株主総会や社員研修のような様相を呈しながら、宗教的なモチーフや儀式が見え隠れする。集団が生み出す異様な“熱”を捉えたものだが、これまでのミック氏の作品と大きく異なるのは、使われる映像はフィクションだけでなく、ブラジルの宗教儀式を撮影したドキュメンタリー映像も組み合わせていることだ。前知識なく見るとそれとはまったくわからず、理解しがたいものの差異を判別するのは難しい。それよりもこの作品を独特なものにしているのは、薄暗く静まり返ったスペースで“高揚”の記録が無音でひたすら流れ続けている点だ。その光景が「異言」そのものではないだろうか。