クリエイションの発火点

minna / デザインチーム

デザインのチカラをみんなのチカラに-minnaインタビュー(1)

自分たちで出来ることには限度があるけど、みんなでやれば無限大

聞き手:瀬尾陽(JDN編集部) 構成・文:齋藤あきこ 撮影:葛西亜理沙

「minna(ミンナ)」は、デザイナーの角田真祐子と長谷川哲士を中心とするデザインチーム。公私ともにパートナーの二人は、2009年の設立以来、グラフィックやプロダクト、空間などのジャンルを問わず、商品や企業のブランディング、地域関連のプロジェクト、イベントプロモーション、車のコンセプト開発など、数多く手がけている。この多岐にわたるプロジェクトを手がける彼らは、いったいどういった形で仕事に関わり、思考して、クライアントと向き合っているのか?自らを「おせっかい」と称する「minna」のおふたりの仕事への情熱に迫る。

デザインが全く足りていない現状を変えていきたい

− まずは、「minna」結成の経緯について教えてください

長谷川:僕らは武蔵野美術大学の同級生で、僕が工芸工業デザイン学科、角田は空間演出デザイン学科出身です。僕の猛烈なアプローチで付き合いはじめて(笑)。在学中は一緒に仕事をすることはなかったんですが、卒業後1年ぐらいしてから「minna」をはじめることにしました。

卒業後、そもそも何のために仕事をするのか、どういう状態で居られれば自分たちは幸せなんだろう……ということをよく話していました。もともとの考えは共通するところが多いし、将来結婚もしたいと思っていたので、「仕事と人生を一致させる」という目標のためにも組んだ方がいいのではないかと。

長谷川哲士さん(minna)

長谷川哲士さん(minna)

角田:2009年に結成し、2013年には法人化しました。「minna」というチーム名には、「みんなのためにみんなのことをみんなでやっていく」という意味がこめられています。世の中には、デザインが溢れている部分もあるいっぽうで、全く足りていない部分の方が多い。それを変えていきたいんです。

− 「デザインのチカラをみんなのチカラにしたい」というのが信念ですよね。

長谷川:デザインはもっと世の中のためになれるのに、まだ全然役に立っていない。すごく限られた領域に関して繰り返し行われています。教育や政治、医療など、いまだデザインが入りきれていない領域もすごく多いし、そこでは興味が無いとか、わからないということが理由でデザインを使いこせていない。それはデザイナー側にもすごく責任があることなんですけど。

角田:「かっこいい」ことを表現するだけのデザインでは、もう世の中には響かないと思っているんです。だったら、世の中に響く考え方は何だろう?と考えた時に、「みんな」という考え方が出てきました。世の中のデザイナーは、必ずしもデザイン界のピラミッドのようなものに登りたい人ばかりじゃないし、そのピラミッドを嫌だって思っている人たちもいる。そもそも、デザイン界のピラミッドと無関係な人たちには「デザイン」そのものが届いていない。

角田真祐子さん(minna)

角田真祐子さん(minna)

長谷川:今あるピラミッドを登るのではなく、別のフィールドを広げていく。それの方がminnaらしいなと。

− これからデザイナーには「自治」のようなものをつくることが必要なことになっているのかも知れませんね。そういう意味では、minnaがやっていることは、いわゆるデザイン業界と違ったところでも共感を得ていると思います。

長谷川:僕らの名刺の肩書は「デザイナー」になっています。そこにけっこう考えが集約されていて。例えば、「ポスターをつくってください」という依頼が来たときにヒアリングしていくと、そもそもポスターにする商品がまずいから、商品開発した方が良いんじゃない?と提案する必要性が生まれることもある。そこで「僕はグラフィックデザイナーだから商品の責任は持てない」と言うのはかんたんですけど、そうやってグラフィックとプロダクトの間に壁を作る必然性はないんです。みんなが必要としていることをデザインの力で解決できることならやろう、という「ボーダーレス」にデザインを捉えるというのが僕らの活動の軸です。

− まさにそうした活動が共感を得ている理由ですよね。

長谷川:クライアントとは、「パートナーシップ」というチーム体制をつくります。お客さんとデザイナー、クライアントとデザイナーという関係性だと、どうしてもそこにある依頼に応えるという形態になる。そうするキャッチボールがうまくいかないことがあるんです。でもチームになれば、いつでも話し合いができるし、共通のゴールに向かって目的地に行ける。自分たちで出来ることには限度があるけど、良いチームが出来れば無限大だと思っています。

− そうしてつくった「チーム」がまた他の人に影響を及ぼしていくでしょうね。minnaの仕事を見てていつも思うのは、言い方は悪いんですけど”手離れの悪い”を仕事をしているなと(笑)。

長谷川:仰るとおり(笑)。

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− 「商品だけをデザインして終わり」では、もう何も生まれないとみんな感じていますよね。

角田:ちょっと前までは、デザイナーは商品の見かけをデザインすることだけが仕事とされ、それで終わりでした。つくったモノを商品としてちゃんと売れる、人に届くところまでをディレクションする、というのは確かに手離れが悪いけれど、絶対に必要なことだと私たちは考えています。

長谷川:最終的には、「体調が悪くなったら病院に行こう」と思うように、何かやりたいことがあるけどわからない、という早い段階でデザイナーに相談することが当たり前の社会になってほしい。その一番の窓口になりたいんですよね。

− どうしてそのように考えるようになったんですか?

長谷川:僕らへの依頼の形態が、単品のモノなどだけでなく、「困っているけどどうしよう」というような全体に対しての依頼に少しずつ変わってきたからですね。僕らにとってのデザインを一言で表現すると、「思いを共有して、最適な手段を用いて、魅力的に可視化する」ということになります。

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