デザインのチカラ

IMAGICA DIGITALSCAPE

INTERVIEW 17 Fuji Xerox お客様とともに創る「ヒューマンインターフェイスデザイン」

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INTERVIEW 17

Fuji Xerox お客様とともに創る「ヒューマンインターフェイスデザイン」

富士ゼロックス株式会社 商品開発本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部 木暮毅夫氏(部長)、高木友史氏(オフィスプロダクトチーム デザイナー)、松尾俊彦氏(オフィスプロダクトチーム チーム長)

2014.03.12

新しい複合機で目指したこと

松尾俊彦(まつお としひこ) オフィスプロダクトチーム チーム長
松尾俊彦 まつお としひこ
オフィスプロダクトチーム チーム長
1989年入社。複写機、プリンターなどのプロダクトデザイナーを16年間担当後、ユーザビリティデザインに携わり、人を中心にモノや環境、人との関わり方から新たな価値を創造し、デザイン提案を行っている

2013年11月に発売した新しいフルカラーデジタル複合機の主力ラインアップ「ApeosPort-V C」および「DocuCentre-V C」シリーズには、特筆すべき大きな特徴が2点ある。ひとつは、複合機がユーザー本人を検知する機能。人検知カメラと顔認識カメラの2つの目を持つ「Smart WelcomEyes Advance」によって複合機に近づく人を識別する。そしてもうひとつが、ユーザー個人専用の操作画面を表示する「かんたんUIパッケージ2.0」。ユーザーは複合機の前に立った瞬間に、自分がよく使う機能をすぐに使うことができる。開発に携わった松尾俊彦氏に話を聞いた。

松尾:ここ数年の社会情勢から、「省エネ」と「情報セキュリティ」はオフィスで重要視されています。そこで、複合機にも節電モードやICカード認証などの機能をご提供しているのですが、いざ複合機を使おうとすると、節電のスリープモードからオン状態に戻したり、ICカードをかざしたりするほんの数秒の操作が、忙しい時は面倒なんですよね。せっかくの機能ですが、広く普及するまでには至っていません。ユーザーは、1枚だけパッとコピーをとって、はやく自分の仕事に戻りたい。新しい複合機では「省エネ」と「情報セキュリティ」を両立しつつ、「使いたいときにさっと使えて、ユーザーの仕事の流れや思考をとめない」ことを目指しました。

「間合い」と「流れ」のデザイン

複合機の前を通り過ぎようとしているのか、使うために近づいているのかをセンサーとカメラが検知して使える状態にする
複合機の前を通り過ぎようとしているのか、使うために近づいているのかをセンサーとカメラが検知して使える状態にする
あらかじめ個人の顔情報を登録しておくことで、複合機の前に立った瞬間に顔認識で個人専用画面が表示される
あらかじめ個人の顔情報を登録しておくことで、複合機の前に立った瞬間に顔認識で個人専用画面が表示される
自分のよく使う操作の設定を、覚えやすい色・カタチのアイコンと好きな名称で登録できる
自分のよく使う操作の設定を、覚えやすい色・カタチのアイコンと好きな名称で登録できる

「Smart WelcomEyes Advance」は、オフィスにいる人が複合機の近くを通り過ぎようとしているのか、使うために近づいているのかの差を検知してスリープモードから立ち上がり、複合機の前にいるユーザーを特定する機能を装備している。

松尾:これを担当したユーザビリティデザイナーは、人と機器との「間合い」に着目し、数か月に渡って複合機を使うユーザーを観察しました。技術へ落とし込むためには、ユーザーにとって快適なタイミングを数値に置き換えて設計者など開発関係者と共有する必要があります。ユーザーの歩く速度や複合機前の立ち位置、靴の色とカーペット色の関係、時間や天候で照度差がある照明環境など、多様な環境要因を分析して、仕様をまとめました。確実な検知を実現するために、設計者とともに評価を繰り返しながら仕様を微修正するなど商品の作り込みにも参画しています。我々が「間合い」とよんでいる人と複合機との関係をデザインすることで、「使いたいときにさっと使える」つまり、より快適にお使いいただくことが可能になりました。

スムーズに立ち上がった操作画面には、ユーザー個人が自分好みの設定にカスタマイズした機能ボタンが並ぶ。「かんたんUIパッケージ2.0」では、「いつものコピーを3枚」といった一見ファジーに感じられる設定も登録が可能。コピーをとるとき、モノクロ文書が多いのか、カラーで画質重視なのか、原稿と異なるサイズにすることが多いのかなど、ユーザーの仕事の特性から操作画面を自由に作ることができるユーザーインターフェイスを提供している。

松尾:最新の複合機には何百もの機能が搭載されていますが、実際に日常的に仕事で使う機能は個人によって異なりますし、実は一人一人はそんなに多くの機能を使っているわけではないことをユーザーの行動観察から掴んでいます。複合機を使うたび、同じ設定をイチから操作するのは時間のロスです。この複合機の前に立っている時間をできるだけなくしたのが、カスタマイズできるユーザーインターフェイスです。担当したインターフェイスデザイナーが、ユーザーの仕事の「流れ」を複合機の操作によってとめてはいけないと考えたことが元になっています。

操作画面上の機能ボタンは、ユーザーがカスタマイズした設定の「目印」として、ハートや魚、サクランボなどの覚えやすいアイコンや色の数十種類から選択することもできる。複合機の前で操作する時間は意外と長い。オフィスの時間的コストにもデザインで解決策を見出した好例だ。

デザインしているのは「人と仕事の関係」

「コピー機はただの複写するための機械ではなく、コミュニケーションのためのツールです」
「コピー機はただの複写するための機械ではなく、コミュニケーションのためのツールです」

松尾:富士ゼロックスのデザイナーは、プロダクトやグラフィック、ユーザーインターフェイスを個々に担当していますが、ベースの考えとしては、人を中心にモノや環境、仕事をトータルに捉え、提供する商品やサービスがお客様の仕事の流れの中でどのようなサポート役になれるか、常にそこに着目しています。快適な仕事の流れを生み出すために、単なる道具を作り出すのではなく、効果的な役目を果たすデザインを提案するのが責務です。

さまざまな職種のユーザーを抱える複合機に求められる要求が高まる時代に、機能だけに特化しても意味はない。常にユーザーとの関係性が大切だ。

松尾:コピー機が生まれた50年前から、我々の商品はただの複写するための機械ではなくてコミュニケーションのためのツールであり、オフィスにおけるより良いコミュニケーションを実現していくという考え方が脈々と受け継がれています。デザイナーはモノのカタチを具現化するだけでなく、ワークやコミュニケーションの全体をとらえる視点を忘れてはいけないと思っています。

人を中心に考え、時代にあわせた新しい価値を提供するために、富士ゼロックスのデザインは進化を止めることはない。


取材協力:富士ゼロックス株式会社
http://www.fujixerox.co.jp/


インタビュー:高橋美礼 撮影:永友啓美

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株式会社イマジカデジタルスケープ

1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/