- 高木 友史 たかぎ ともひと
オフィスプロダクトチーム デザイナー
2004年入社。複合機やプリンター、デジタル手書き入力ペンなどのプロダクトデザインに携わった後、ユーザーインターフェースデザインを担当。中国市場向け商品デザイン全般の推進にも携わる。
ユーザーインターフェイスを主体に複合機のデザインを手がけているデザイナーの高木友史氏は、2010年頃から中国市場に注力した機種の開発を担当。2012年5月に発売された DocuCentre S1810/S2010は、現地で詳しい実態調査や各種の検証を重ねて開発されたモノクロ複合機シリーズだ。
高木:中国では富士ゼロックスの知名度は高くありませんでした。特に低価格帯のモノクロ複合機市場でのシェアが競合他社と比べて低かったことから、ここにテコ入れすべくプロジェクトが立ち上がりました。まずは、社内で働く中国人と中国事情についてざっくばらんに話す会に参加して、中国のオフィスの様子や働き方を知ることから始めました。中国のオフィスでは、日本であたりまえのように設置されているA3用紙サイズ対応の複合機は、主流ではありません。そのかわり、A4用紙を出力する小型プリンターやファクス機などが、個々の机の上やオフィスのあちこちに置かれ、コピー機は純正ではない市販のキャビネット上に置かれています。さらに、オフィスの照明が暗いなど、日本との違いがいろいろわかってきました。そうした中、現地の開発チームや営業部門のメンバーと協力しながら販売店やエンドユーザーに現行の複合機について聞いていくと、「操作パネルの使い方がよくわからない」、「排出紙がとりにくい」などの声があがりました。新しい中国市場向けの複合機開発では、ユーザビリティの徹底的な改善と、中国の人に富士ゼロックスというブランドを知ってもらうことが急務でした。
低価格帯の中国市場向けモノクロ複合機、という制約の中で開発するには、操作パネルの表示方法を工夫し、的確なユーザーインターフェイスを実現しなければならない。
高木:大画面タッチパネルでユーザーインターフェイスを提供することは価格設定上不可能だったので、厳しい制約条件の中でどのようなユーザビリティを確保するのかが大きな課題でした。悩んでいたとき、操作に必要な情報を表示する方法として「体重計や一眼レフカメラなどの表示パネルを参考にしてみたら」と社内の先輩がヒントをくれて、なるほどと気づき、そこからアイデアがどんどん出るようになりましたね。一番こだわったのは、複合機の状態や設定を直感的に伝えることです。部数や用紙/原稿サイズ、倍率などの情報を一度に表示することが必要と考え、限られたスペースの中での配置をコンマ数ミリまで検討しました。さらに視認性向上のため、関係者を説得して輝度の高い黒背景LCDを採用しています。また、スタートできる状態や次の原稿をセットするタイミングが一目でわかるように、ボタン周囲にLEDを設けて点灯や点滅で伝える配慮をしました。現地メンバーを含めた開発チームと、現行の複合機での改善点を挙げ、スケッチや動作するプロトタイプを見せながら何度も議論し、解決する方向性の感覚を全員で共有して商品開発に臨んだことが成果につながったと思います。
富士ゼロックスの個性にもなっているブルーのボックス形状とウェーブを施した外観デザインや操作パネルのシルバーの縁取りを踏襲するなど、上位機種で定着しているイメージを低価格帯の商品に持ち込むことで、ブランドの認知度を高める効果も狙った。
高木:外観デザインは、ブランドの表現手段のひとつであるフロントのウェーブ状のデザインをうまく活用して、排出紙を取り出しやすくしました。紙がはっきり見えるようになったことで、どんなキャビネットの上に置かれても自然にそこへ手がのびる効果もあります。プロダクトとしての審美性と機能性を兼ね備えたデザインができたと実感しています。
日本の機種をそのまま採用するのではなく、中国市場の要求に適した変更部分と富士ゼロックスとして守るべき一貫したブランドイメージの部分とのメリハリがある。反響は大きく、中国の大手IT系Webサイトで紹介されるなど、発売から2年近く経つ現在も好調な売れ行きを記録し、中国でのシェアを確実に伸ばしている。
株式会社イマジカデジタルスケープ
1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/