デザインのチカラ

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INTERVIEW 14 KEN OKUYAMA DESIGN いま、デザイナーに求められていること

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INTERVIEW 14

KEN OKUYAMA DESIGN いま、デザイナーに求められていること

KEN OKUYAMA DESIGN 代表 奥山清行氏

2013.06.19

ゼネラルモーダーズのチーフデザイナーを務め、ポルシェではシニアデザイナー、またピニンファリーナのデザインディレクターとしてフェラーリ エンツォやマセラティ クアトロポルテなどを手がけてきた奥山清行氏。現在は車にとどまらず、オートバイや船舶、ロボット、家具類、鉄道車両…と幅広いプロダクトをデザインしている。領域を問わないダイナミックな活動で工業デザイン界を牽引する人物だ。その奥山氏のデザインフィロソフィーに迫る。

秋田新幹線「スーパーこまち」

KEN OKUYAMA DESIGNがデザイン監修を務めた秋田新幹線「スーパーこまち」が今年3月から運行を開始した。ロングノーズタイプの先頭形状、「飛雲ホワイト」と名づけられたメインボディカラーと、車体上部の“なまはげ”をイメージした「茜色」が特徴のE6系。インテリアには、秋田の伝統工芸も活用されている。

奥山知之(おくやま きよゆき) 工業デザイナー / KEN OKUYAMA DESIGN 代表
奥山清行 おくやま きよゆき
工業デザイナー / KEN OKUYAMA DESIGN 代表
1959年山形県生まれ。ゼネラルモーターズ社(米)チーフデザイナー、ポルシェ社(独)シニアデザイナー、ピニンファリーナ社(伊)デザインディレクター、アートセンターカレッジオブデザイン(米)工業デザイン学部長を歴任。フェラーリ エンツォ、マセラティ クアトロポルテなどの自動車やオートバイ、鉄道、船舶、建築等数多くのデザインを手がける。2007年より山形・東京・ロサンゼルスを拠点に、企業コンサルティング業務のほか、各種プロダクトの製造販売を行う。

奥山:今まで色々なメーカーやデザイナーと仕事をしていましたが、率直に言うと、メーカーのデザイン部は力が弱いんですね。だから、メーカーから出てくるアイデアは作れるけどつまらない、デザイナーから出てくるものはおもしろいけど作れない上に費用がかかる。どちらも困った、という状況でした。
そこで、今回のスーパーこまちはKEN OKUYAMA DESIGNが監修という形で携わり、コンペに参加して勝ち残り採用されました。新規性と実現可能性、コスト、人間工学の面など工業デザインでは当たり前な点も含めて完成度が高かったことを評価されました。
僕らは「秋田という県に特化して、列車の中に文化を活かしていこう」と提案しました。新幹線は地方文化にとって一番いい、1時間に1回通る宣伝広告塔になれる要素があります。そういう目で捉えて、文化的な面を全面に押し出しました。これまで僕らが山形や多治見などで行ってきたことが活かされていますし、JR東日本でもそれだけ地方文化を全面に押し出した新幹線はいままでになかったから、みんなハッピーでしたよね。

JR東日本秋田新幹線の新型車両E6系「スーパーこまち」
JR東日本秋田新幹線の新型車両E6系「スーパーこまち」
秋田の伝統工芸、楢岡焼の釉薬の青色と川連漆器の茶色をイメージしたグリーン車車内
秋田の伝統工芸、楢岡焼の釉薬の青色と川連漆器の茶色をイメージしたグリーン車車内

外部デザイナーだからこそできること”

メーカーのデザインチームには、ディレクターもエース級のデザイナーもいるが、エンジニアたちに技術的な面からの指摘をされ続けていると、つい萎縮してしまいがちだ。そんな時こそ外部デザイナーである奥山氏の出番だ。

奥山:たとえば「これは今後数十年、残るものですよ。ここの部分は難しいかもしれないけれど、一緒に考えましょう。」と語ると、皆快く考え直してくれます。そして夜は一緒に酒を飲む、と(笑)。そういう関係性から築く事も大事です。

熟練したエンジニアや職人の言うことにはすべて理由がある。だから逆になぜそれが必要なのかきちんと理由を説明すれば、見事な仕事で応えてくれる。

「まずはエンジニアもデザイナーも、同じ目標に向かって言いたいことを言いあえる関係作りが大切ですね」
「まずはエンジニアもデザイナーも、同じ目標に向かって言いたいことを言いあえる関係作りが大切ですね」

奥山:よく、エンジニアとデザイナーの喧嘩、なんて言うけれど全くそんなことありませんね。逆に開発者同志の主張は矛盾する事があります。鉄道の場合は、空力を良くしたいとか、内装スペースはもっと広く、椅子はもっと掛け心地良くとか、もっと軽量化を図れないかとか。デザインモックの講評会や、プレゼンテーションの前段階で、そういった矛盾が出てくると、僕らが議長役になって、「あなたは何したいの」「どう考えているの」と聞いていきます。それでプライオリティを決めていくんです。

議論の場を作ることこそがデザイン

「きちんとプライオリティが決まると納得して次に進めます」
「きちんとプライオリティが決まると納得して次に進めます」

プライオリティを決められないときに間違えがちなのが、社長や責任者を呼んで決断してもらおうという解決方法。そんな状態で聞かれても社長だって決められるはずがない。何が重要なのかは皆できちんと理由を挙げて考えていく必要があると強く語る奥山氏。

奥山:ある程度まで理由がはっきりしていたら、自分のやってきたことが犠牲になるとしても、エンジニアも開発者も喜んで動きます。そこまできちんと議論することが大切。実はそれがデザインのプロセスで非常に重要です。それなのに開発の現場で意外とそれができていないんですよ。もっと言えば、議論の場を作るのがデザインです。視覚化して、物が全部出てきて、データも揃って、一挙にわかるわけですよ。で、「矛盾は何なんだ」という話をその場でします。ここで決めなければ先に進めない、という感覚を共有して、多数決じゃなくて、皆で納得して決めるんだっていうことを議論するんです。ひとつのベクトルが定まってきて、あるべき姿が見えてくると、サッと決まっていきます。その瞬間が気持ち良いですね! ものづくりの醍醐味はそういうところにあります。

問題は、何らかの理由で議論がないまま中止に追い込まれる場合だという。それは予算の問題ではないが、お金にまつわる状況が深く関わってくる。

奥山:僕はしょっちゅう「デザインはお金だ」と言っています。デザイナーは大きい勘違いに陥りがちですが、自分のお金じゃなくて人様のお金で物を作って、投資額を何倍にもしてお返しするのがデザインの仕事です。

そのためにデザイナーは、デザインするだけではなく、価値を伝える表現力を持たなければならない。

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株式会社イマジカデジタルスケープ

1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/