2013年10月、ソニーはカメラの新しい使い方を提案する「レンズスタイルカメラ」を発売した。スマートフォンに取り付けて使うレンズ型のカメラという、従来の常識を覆す新製品が生まれた根幹には、創業以来から貫かれたデザイン哲学がある。
プロダクトデザイン、UI(ユーザーインターフェース)、パッケージデザインを担当した山田良憲氏、柘植隆弘氏、赤川聰氏、野澤和倫氏にその背景をうかがった。
ソニーデザインでは、すべての製品の根幹をなすものづくりの精神として、5つのこだわりをソニー・デザインフィロソフィーとして掲げている。
・愉快をデザインすること
・心地をデザインすること
・本質をデザインすること
・突出をデザインすること
・前人未到をデザインすること
クリエイティブセンターでチーフアートディレクターを務める山田良憲氏は、このソニー・デザインフィロソフィーについて、次のように説明してくれた。
山田:これらはソニーデザインの歴史の中で培われてきた暗黙知を明文化し、“ソニーらしいデザイン”を創出していくためのデザイナーの心構えのようなものです。プロダクト、UI、コミュニケーション、どのデザインに対しても、またすべての製品やサービスにまで求められる、ソニーのデザイン哲学です。
デザイナー本人がワクワクしてものづくりをしないと、楽しい気持ちは商品に宿らない。「愉快」な気持ちで作っていこうという志。単純に機能を満たしている使い勝手ではなくて、五感に訴えかけるような「心地」を求める姿勢。物事の「本質」を際立たせて使いやすくし、強いメッセージを発する重要性。そして、個性をぶつけあって新たに生まれる「突出」したデザインを常に進化させ、「前人未到」の取り組みを続けること。
こうした精神から生まれたのが、2013年10月に発売された「レンズスタイルカメラ」だ。
山田:リスクを恐れずに新しいことに挑戦し続けて、世の中に新しい流れを生み出す。そんな「我々が原型をつくりました」と言えるような商品を、デザインを通じて表現していきたいと常に考えています。
レンズスタイルカメラ「DSC-QX100」と「DSC-QX10」は、本機をスマートフォンに装着してWi-Fi接続することで、スマートフォンの画面をモニターとして映像を確認しながら、写真や動画を撮影できる全く新しいデジタルカメラだ。さらに、スマートフォンから離して、手持ちで自由な角度に構えながら撮影もできるスタイルは、革新的なカメラライフの提案でもある。今回「DSC-QX100」と「DSC-QX10」の製品デザインを担当した柘植隆弘氏は、「時には遠回りをしながらやっとたどり着いた形」だと振り返る。
- 柘植隆弘 つげ たかひろ
プロデューサー/シニアデザイナー
1989年に入社し、テレビ、ウォークマン、Hi-Fiオーディオなどを担当。その後VAIO®のデザインマネージメントを経て、現在はサイバーショットのデザインを担当している。
柘植:スマートフォンとカメラを同時に使うというコンセプトは当初からありましたが、すぐ形になる訳ではなく、今の形状にたどり着くまでさまざまなアイデアや形を試行錯誤しました。簡易モックを山ほど作っては、どうやって持つのか、どうやってスマートフォンと連動させるのか悩んで。あらゆる可能性を視野に入れながら、使い心地や楽しさをデザインで追求すべきだと思っていますから。
まるでカメラから本体が消え去り、レンズだけの形状に進化したように感じられるデザインだが、実は最初からレンズスタイルに絞り込まれていたわけではなかったという。
柘植:従来のカメラという形状から解き放ちたい、と強く思う気持ちはプロジェクトメンバーに共通していたのですが、じゃあそれってどういうこと?って。もちろん、初期のアイデアからレンズだけ独立した形状はありましたが、どうやって取り付けて使うのか、といった具体案はありません。ユーザーが使う時のシナリオも考えましたね。ソフトウェア開発も重要ですから、実際の使用シーンをマンガで描いてみたり。レンズの形に集約されるまでにずいぶん時間をかけました。
デザイン開発時の苦労や課題点をどうクリアしていったのか。レンズスタイルカメラでは、プロダクトデザインに加え、ユーザーインターフェイス、コミュニケーションの側面からも従来にはない取り組みを実現している。
株式会社イマジカデジタルスケープ
1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/