桑沢デザイン塾第3期連続講座の最終回は、インダストリアルデザイナーの田中信吉氏です。 桑沢デザイン研究所を卒業した田中氏はアイワ(株)に勤務、退社後に渡欧。翌年にゼロワンデザインを設立し、現在に至っています。また、桑沢デザイン研究所では非常勤講師として教鞭もとっています。 「『戦略的デザイン手法』という大きなサブタイトルにとらわれず、私が今までデザインをしてきた中で感じたことを話したい」とスタートしました。
立場によって変わる『良いデザイン』
まず田中氏は、デザインと関わってきた経緯からはじめます。学生の時に、システムデザインの方法論に感銘を受けたことなどを話し、「我々が仕事をはじめた頃は、高度成長期の真只中。世の中にはデザインされていないモノが氾濫していた」。「デザインの専門教育を2〜3年受けた者が、デザイナーとして働ける時代だった」と当時を振り返ります。
そして「90年代になった今、世の中には情報が溢れている。デザイナーが『良いモノを作ろう』と思っても、何が良いモノなのか判断しにくくなっているのが現状です。製品は、売る側、作る側、使う側、そして、デザインする側と、4つの異なった軸があり、それぞれの立場によって良いデザインの基準は違ってくる」。「しかし、工業デザインでは、良さを画一化していくなかで、どこかにカタチを集約させる必要がある。それを担うのが工業デザイナーの役目です」と話します。
フォルムを決定するチーム作業の手法
田中氏はスライドで、My First SONYの製品、PROTEXのバッグ、ライターなど、様々な作品を説明します。そして、実際のデザインワークについて「フォルムをつくるブレーンストーミング(以下、ブレストと略)の手法を紹介したい」と興味深い手法の解説を始めました。
「基本的には、ブレストをスケッチで行う。4〜5人のグループでテーマを決め、まず各人が20分間スケッチをする。それを1人5分程度で発表する」。「ブレストでは、他人が考えたフォルムを利用しても構わない。相手の言葉やスケッチにインスピレーションを受け、さらにスケッチを進めていく」。この作業を3回繰り返すことでデザインが詰められていく。「全体で3時間程度。一人では何も決まらない時間だが、どんなに困難な課題でも、このやり方で基本的なフォルムが、ほぼ100%完成できる」と話します。
「デザインチームの目的は『エンドユーザーに良い製品を提供すること』。したがって『誰のデザイン』とか『誰の手柄』といった小さな考えは捨てる。もちろん最も重要なことは、イニシアチブをとるディレクターの力です」とポイントについて説明しました。
インディビジュアル・デザイン
最後に田中氏は「最近ブームのように『ユニバーサル・デザイン』といわれているが、私は違和感を感じる。高齢者やハンディのある人に対し、デザインの面からもアプローチをする概念は、我々が学生の時から一般的な考え方であった。現在のように流行として捉えることは間違っていると思う」と話します。
そして「ユニバーサル(普遍的、広範囲)の反対は、インディビジュアル(個々の、個人特有)。これからの社会では、むしろインディビジュアル・デザインの方が求められるのではないか。人の顔や性格は、それぞれに特徴があって多様なように、デザインも本来そうあるべき。スタイルでデザインをひとまとめにして、画一化させて語ることは間違っている」と結びました。
製品化しなかった作品も含めて、多数のスライドで自身のデザイン手法を解説した田中氏。今回の講演の直前も、非常にタイトなスケジュールの仕事を終えたばかりです。 「ひらめきは、考えようと思って出るものではない。考えはじめた最初の10分が勝負。これからもアイディアを整理する時間を短縮し、そのぶんデザインの濃度を深めていく手法を続けていきたい」と話し、2時間の講義を終了しました。
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田中信吉氏
日本インダストリルデサイナー協会会員。 多数くのGマークを受賞。
「自分中心の1人称のデザイン、会社、上司、依頼主の為の2人称のデザイン、その先の3人称のデザイン。これから我々が考えなければならないのは、3人称のデザインではないだろうか・・・。」
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