ライゾマティクス代表齋藤精一が選ぶ
ドイツのモノ・コト

齋藤精一 プロフィール

1975年神奈川県生まれ。株式会社ライゾマティクス代表取締役。建築デザインをコロンビア大学建築学科で学び、2000年からNYで活動を開始。その後、ArnellGroupにてクリエイティブとして活動し、2003年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのを きっかけに帰国。2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブ作品を制作。
http://rhizomatiks.com/

“ドイツにはアートやクラフトに対しての社会的な敬意がある”

ミース・ファン・デル・ローエ

  • ミース・ファン・デル・ローエ
  • ミース・ファン・デル・ローエが建設した「Neue Nationalgalerie」(© visitBerlin | Scholvien)

ミースはドイツでの実作というよりは、バルセロナ・パヴィリオンとファンズワース邸がすごい有名で、これはもう建築のバイブルですね。と言いながら、大学に入るまではまったく知らなくて。大学の授業で建築模型つくるんですけど、最初はなんでこんなものつくらなきゃならないんだと思って(笑)。初めてファンズワース邸をつくった時に、「あ、建築ってかっこいいかも」と思ったんですよね、これとバルセロナ・パヴィリオンがほぼ同じコンセプトでつくられていて、それでドイツの建築はかっこいいと思うようになりました。 

やっぱり、ディテールのつくりこみがすごいんですよ、形はシンプルなのにその中に様々な要素が入ってて。ミースが言った「レス・イズ・モア」とか、神はディテールに宿るとか、ああいう考え方がドイツ人らしい。ドイツの建築の教育を受けている友だちはみんな超実践的ですね。ニューヨークの建築事務所に勤めていた時に、すべてのニューヨークの建築オフィスからドイツ人の建築家が消えたら建物が建たないなんて冗談話で言ってたんですけど、それくらい教育のところからすごく違う気がします。ミースが建てたものもそうなんですけど、一発アイディアではなくて、一発アイディアにどれだけ精巧なデティールを入れられるか?みたいなところが教育にたぶん組み込まれているから、こういう文化がつくれるという感じはすごい受けました。

あとは議論をするとややこしいかもしれない(笑)。我が強いというか、自分の意見を絶対に通す。それもあって、こういうデザイン建築とかに反映されているような気がします。やっぱり職人気質なんでしょうね。

カールステン・ニコライ

  • カールステン・ニコライ

カールステン・ニコライとライゾマのメンバーは付き合いが長くて、日本に来た時によく会ったりしています。彼こそいわゆるドイツの現代アートの代表的な存在で、彼の作品を見てるとメディアアートという枠組みが関係なくなるというか。アカデミックなんだけど、つくる音楽とかはすごい感覚的で。我が強いから、これはやりたいけど、これはやりたくないとかがはっきりしている。そうでないとああいう作品つくれないと思うんですよ。とてもドイツらしい、僕の一番好きなアーティストのひとりです。

ドイツというかEU全体だと思うんですけど、アーティストに対しての社会的な敬意があるというか。前にカールステンと話してた時に、世の中でアーティストとして活動している人の中で、それだけで食べれる人なんてたぶん2%か3%しかいない。いまはアート作品だけで食べていけるからこそ、良い作品をつくり続けたい、と言っていたのが印象的でした。

あと面白かったのが、「東京の街で何が一番好きか?」という聞いたら、「中銀カプセルタワービル」がすごい好きだと、あれを壊すなんてあり得ない!という話をして。フランクフルトにしてもシュトゥットガルトにしても、良いものをちゃんとレガシーとして残していくような文化がありますよね。

CICLOPE

  • 「CICLOPE INTERNATIONAL FESTIVAL OF CRAFT」会場

つい先日、「CICLOPE」というベルリンで開催されたフィルムフェスティバルに行きました。実はこれを日本に持ってこようとしているんですけど。毎年開催していて今年で4年目かな?純粋にクラフトだけを賞賛するアワードなんですね。どれだけフィルム的にストーリーとして面白いとかも大事なんですけど、とにかくつくってる人たちをリスペクトして賞賛するんですよ。メイン会場に古くからあるシアターを使っていて、それがまた素敵なんですよ。けっこう錚々たる人たちが来るんですけど、1000人弱くらいのキャパシティのサイズ感がちょうど良くて。朝から晩までレクチャーがあって、合間にエントリー作品をみんなで劇場で見て、最終日に審査結果を発表。その後はみんなでクラブに行く、というようなイベントなんですけど、すごく良い雰囲気でしたよ。

ドイツにはやっぱりクラフトマンシップがあるからこそ、クラフトというものに対してみんな真剣に考えているんだなと思います。日本はどうしてもクリエイティブなアワードだと、全体がアワードされるじゃないですか?僕がずっと気になっているのは、本当はつくっている人が偉いわけであって、言い出しっぺだけが偉いわけじゃないんですよ。「CICLOPE」の正式名称は「CICLOPE INTERNATIONAL FESTIVAL OF CRAFT」なので、もっと日本でモノをつくっている人たちをリスペクトしたり、そこに注目がいくようなきっかけになると良いなと思っています。こういうアワードをイチから日本でつくろうとしても難しいので、それならばドイツのフォーマットを拝借して、同じオペレーションでやろうという話で進んでいます。