あのヒトが選ぶ、BEST BUY 2017

角田陽太が選ぶベストバイ
“発売から20年近く経ってもずっと頭の片隅にあった”

トランジット T20SCX

  • トランジット T20SCX

ブリヂストンサイクルから1998年に発売された「トランジット T20SCX」は、鈴鹿サーキットなどのレース場で移動したりするためにつくられたミニェヴェロです。カーボンモノコックのフレームとシャフトドライブで組まれた1台で、当時の日本の技術の粋が詰まっています。たぶん儲けは出てないんじゃないですかね。それこそブリヂストンサイクルのデザインチームの頭の中というか、デザイン力を発表するモデルだったので。だからこそ「グッドデザイン大賞」が獲れたと思うんですよね。発売当時はまだ学生で、そこそこ高価格だったから手が届きませんでしたが、発売から20年近く経ってもずっと頭の片隅では覚えているデザインでした。

自転車がすごくほしかったわけではなかったんですけど、運悪く前の自転車が盗難にあってしまいまして……。ずっと「トランジット T20SCX」のことは頭の中にあったから、「どこかで売っているのかな……?」と探してみたら、ある自転車屋がインターネットで販売していたので購入しました。いつもは買い物は骨董市など対面でしているので、意外とあっさり見つかってしまい、購入までのストーリーはドラマチックではないんですけど(笑)。事務所のあるマンションは、エレベーターがないので自転車をかついで昇り降りするんですけど、ミニヴェロは車体が小さいので持ち運びしやすいし、シャフトドライブなのでチェーンもないから洋服が汚れないし、結果的にですけど条件に合った自然な購入でしたね。

自分だったら、こういうデザインにはしないというか、だからこそずっと頭の中にあったんだと思います。基本的なトラスからきっちり組み立てて、細くできるところギリギリまで細くして、太くできるところは太くして……みたいなさじ加減でデザインすると思うんですよね。ちょっと違った興味を持たせてくれたというか、そういう意味では今年後半の一大買い物でしたね。ただ、変速できないのが少し難点ですね。もう少しギア比が重かったら理想的なんですけどね。

あと、代々木公園の骨董市で引いて歩いていたらすごく質問攻めにあって(笑)。「なにこれ?モーターが入っているの?」と。いまの電動自転車に見慣れた目だと、この意匠がものすごく新しいものに見えたみたいで。最新版のミニヴェロみたいな。それがおもしろかったですね。

■いま探しているもの・欲しいもの
やっぱりレコードになっちゃうのかなあ。ずっと買い続けていますし。特に好んで買っている80年代前半のブラジル産のソウルミュージックは、当時の生産数といまの需要のバランスが完全に崩れているから、けっこうな価格がします(苦笑)。ちょっと前はインターネットで探すことが多かったんですけど、最近はほとんど実店舗でしか買ってないです。実店舗に行くと「角田さんが好きそうなのが入りましたよ」といろいろと教えてくれるんですね。だからバイヤーのコンシェルジュ代も込みで買っている感覚です。

プロダクトデザイナー 角田陽太

1979年仙台生まれ。2003年に渡英し、安積伸&朋子やロス・ラブグローブの事務所で経験を積む。2007年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)デザインプロダクツ学科を文化庁・新進芸術家海外留学制度の奨学生として修了。2008年に帰国後、無印良品のプロダクトデザイナーを経て、2011年YOTA KAKUDA DESIGNを設立。国内外でデザインを発表している。2016年にはHUBLOT DESIGN PRIZEに日本人として初めてファイナリストに選出される。受賞歴はELLE DECORヤングジャパニーズデザインタレント、グッドデザイン賞、ドイツ・iFデザインアワードなど。武蔵野美術大学非常勤講師。

http://yotakakuda.com/