あのヒトが選ぶ、BEST BUY 2017

飛田正浩が選ぶベストバイ
“中途半端だからこそ、そそられる”

アートブック

この2冊は、表参道のブックショップ「ユトレヒト」にふらっと立ち寄ったときに買いました。

右の本は、セットをつくって写真を撮影しているカメラマンさんのアートブックです。でも完成した状態ではなく、セットの裏やセットを組んでいる途中に面白みを見出して撮影しているみたいなんです。常々、僕も偶然性のきれいさに憧れているので、このアートブックには共感しました。左は、Ruth van Beekというアーティストの本。ページをめくった瞬間に作品の質感にそそられて、じっくり見ずに即買いしました。

アートブックは、つくっている人が好き勝手にやっている感じがいいなぁと昔から思っています。その人そのものが出やすく、内に秘めたものが吐露しちゃう感じがありますよね。期待させたりゾクゾクさせるとかは、音楽とか映画よりも強いかなぁ。ダイレクトに伝わる瞬発力という意味では、即効性があると思いますね。

アートブックを選んだ理由を考えてみると、ルックスで選んでいるっていう意味では、少しお洋服に近いニュアンスもあるのかなと。「あのときあそこに赤を1色入れたのは、あの本から影響されたのかな?」とか、かつて見たイメージの集積が少なからず影響しているんだろうなと思う時があります。

僕自身も昨年に森岡書店で展示を開催したんですが、その際にアートブックを出しました。アーティスト兼小説家のミヤギフトシさんと共同で開催したんですが、彼の言葉とうちのテキスタイルにおけるグラフィックで本をつくりました。お客さんに自分で好みのプリントを選んで本を綴じてもらい、世界にひとつだけのアートブックができ上がるような展覧会でした。

途中感みたいなものは服にも注入していきたいなって思っていて…。「クソみたいな服つくりたい」っていつも言っています。じゃあクソみたいな服ってなんだ?って真面目に考えてしまったり、そのさじ加減は難しいんですけれど…(苦笑)。色々なクリエイターと話している時に共通するのが、制作時の「やめ時」の大切さ。どこで手を止めるかはセンスのみの勝負なので、一手を加えて「あ~!さっきまでの方が良かった!」って思うことは少なくありません。その「やめ時」をキャッチし、偶然や中途半端を内包したかっこよさに憧れます。

■いま探しているもの・欲しいもの
モデルさんはいつも探していますね。もちろんプロのモデルさんもですが、どこかの展覧会で見かけた人とか、レセプションでお会いした人とか。何か一緒に物語をつくっていきたいなぁっていう人がいると、ついついそういう目で見ちゃうこともありますね。

photo : Norifumi Fukuda(B.P.B.)
ファッションデザイナー 飛田正浩

埼玉県生まれ。多摩美術大学卒業。染織デザイン科在学中からさまざまな表現活動を「spoken words project」として行う。卒業を機に「spoken words project」をファッションブランドに改め、1998年東京コレクションに初参加。手作業を活かした染めやプリントを施した服づくりを行っている。PUMAなど他ブランドとのコラボレーションや新ブランドの立ち上げ、芸術祭参加などその表現領域は多岐にわたり、アパレルブランドの枠を超えて活躍中。
http://spokenwordsproject.com/

photo:Norifumi Fukuda(B.P.B.)