街の未来への標榜となる新しいのれん
今回の取り組みは、日本橋の街のイメージとして定着している“伝統”や“歴史性”に、“先進性”を加え、新たな地域発信を目指す試みでもある。今回制作した未来ののれんは、『未来ののれん展』と題して、コレド室町、にんべん日本橋本店、マンダリン オリエンタル 東京、三井ガーデンホテル日本橋プレミアの各店舗で、2018年11月1日から11月11日まで実際に飾られる。若手クリエイターとエリアの代表店舗・施設の協創によって、日本橋の街に新たな息吹を吹き込むことになる。

11月1日から11月11日(1並び!)まで開催される『未来ののれん展』
ワークショップは、講師となる各クリエイターによる「ファッション×イノベーション」「インターフェースデザイン」といったテーマの講義からのインプット、そして若手クリエイターと各店舗の代表者で構成されたチームでの、アイデアのぶつけ合いによるグループワークで構成される。毎回、ワークショップの最後にはメンバー同士でアイデアをまとめた成果をプレゼンテーションする。一連のワークショップを通して制作されたのれんは、参加店舗・施設に実際に飾られる。店舗のブランド力を高める制作物が求められるので、ワークショップでアイデアのクオリティを高めていくという流れだ。
第一回:日本橋をクリエイティブな街に
2018年8月4日 @Clipニホンバシ
のれんを街と店舗のインターフェースととらえ、まずは日本橋という街、そして都市とクリエティブの関係について知らなければならない。初日の講義は、世界のイノベーションをテーマに、HEART CATCH代表の西村真里子さん、株式会社JDN取締役の山崎泰が登壇した。

西村真里子さん(HEART CATCH)
テクノロジーを用いたクリエイティブ作品に精通している西村さんは、若手クリエイターに向けて世界各国の数多くの事例を紹介。また、のれんが路面に展示されることと絡めて、最近関心を持っているストリートアートについても語った。JDNの山崎からは、イタリア・ミラノで開催される世界最大規模のデザインの祭典、「ミラノデザインウィーク」についてレクチャー。ミラノと東京の地図を重ねて比較し、都市にクリエイティブを実装した際の規模感を若手クリエイターに具体的に伝えた。

山崎泰(JDN)
アイデアを重ね合わせてプレゼンテーションを
それぞれのアイデアを出し合うワークショップは、前述のコレド室町、にんべん日本橋本店、マンダリン オリエンタル 東京、三井ガーデンホテル日本橋プレミアの4チームに分けて進行する。公募から厳選された16名の参加者は、それぞれの分野でのこれからの活躍が期待される若手クリエイター。自分のアイデアをアウトプットするためのここぞというチャンスとなる。
「クリエイティブな街」というテーマに、日本橋をブランディングするアイデアを出しあうワークショップが行われた。まだ初回ということもあって、コミュニケーションに少々の遠慮やたどたどしさもあるが、自分の意見を出せる場面では興味深い発想が数多く飛び出した。今回は、日本橋の街に江戸時代の参勤交代を現代に適応させたアイデアが優勝。どれも豊かな発想で講師陣を楽しませていた。

nihonbashi β projectの代表の朴正義さん(バスキュール)
第二回:ブランド×イノベーション
2018年8月25日 @31 Builedge YAESU
2日目の講義の登壇者は、グラミー賞を受賞したヒップホップユニット、ブラック・アイド・ピーズの舞台衣装なども手がけたファッションデザイナーの中里唯馬さん。のれんという布を扱ったプロダクトという共通項もあり、素材への向き合い方への知見が披露され、ところどころ挟まれる中里さんの個人史が参加者を勇気づけた。

中里唯馬さん(YUIMA NAKAZATO)
今回の大きなテーマである、未来ののれんの”未来”の捉え方については以下のように語った。
「服をつくる経験から学んだことですが、これまで不可能だったことができるようになるのが、ある意味未来だと思っています。ただ、制作をする面で発生する問題のひとつが、コストです。例えば、衣服のマスカスタマイズは、コストが大きな問題となり、これまで実現が成されなかったと思います。針と糸を使った従来の製作プロセスを見直し、コストの概念を変える事が必要だという結論にたどり着きました。自分はプロダクションシステムそのものを開発することで、マスカスタマイゼーションの未来に挑戦しています」
エンターテイメントの世界でも活躍する中里さんに、「nihonbashi β」のように多様なバックグランドを持つクリエイターが集まることに価値についてコメントをいただいた。
「参加されている若手の方々は、いろいろなバックグランドを持っている。ディスカッションするだけではなく、即興のチームを組んで共通のワークショップをしていくのは、なかなか大人になってからはできない経験。日本橋は、その歴史や格式による敷居の高さから、これまで若いクリエーターには“触れにくさ”があったのではないでしょうか。だからこそ、守られて来たものがあるのかもしれませんが、これから先、よりオープンになっていくことで、歴史と新しいカルチャーが融合し、化学反応が起きるのではないでしょうか」
視点を変えることでブランディングのヒントに
今回のワーククショップでは、日本橋の既存の老舗店を題材としてブランディングとイノベーションについて考えていく。本プロジェクトを企画するバスキュールによって、ワークショップ自体がしっかりとデザインされており、参加者の発想を補助するアイテムも登場した。アイデアとなる要素を書き加えたトランプのようなカードを、ランダムにピックアップして、わかりやすく無作為にアイデアを想像させる仕組みをつくっている。
そして、プレゼンテーションの前に、アイコニックな仮面を使った講評が行われた。普段の自分と違ったペルソナになりきることで言いにくいことも言いやすくなり、気兼ねなく批評し合うことで作品の質も上がっていく。
ワークショップの最後に各チームから、想像力を飛躍させた老舗の店舗を活気づけるアイデアのプレゼンテーションが行われた。この段階では実際に制作しないので、実現化に向けた制約をいったん取っぱらった予想もしないようなアイデアが数多く飛び出した。
- 1
- 2