インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る

自由な変化を許容する「舞鶴赤れんがパーク」の新ロゴマーク

自由な変化を許容する
「舞鶴赤れんがパーク」の新ロゴマーク

北川一成のデザイン思考

2015/04/01

JDN編集部

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使うときの長さは自由。赤と青であれば色も自由──。一般的なロゴマークとはまったく異なる、前代未聞の規定で運用されることになった「舞鶴赤れんがパーク」のロゴマーク。そのデザインを手がけたのはアートディレクター、北川一成氏(GRAPH)。日本海に面した、豊かな自然と歴史を有する舞鶴市と、その中心的な観光スポット「舞鶴赤れんがパーク」を広くアピールし、地域を活性化するために北川氏が試みたことに迫る。

北川 一成(きたがわいっせい)
北川 一成(きたがわいっせい)アートディレクター。GRAPH取締役社長。1965年兵庫県加西市生まれ。1987年筑波大学卒業。1989年GRAPH(旧:北川紙器印刷株式会社)に入社。「捨てられない印刷物」を生み出すための技術を追求する一方、経営者とデザイナー双方の視点をもって「経営資源としてのデザインの在り方」を提案。地域の中小企業から、海外の著名ブランドまで、多くのクライアントより高く支持されている。

海を舞台とした長い歴史をロゴマークに。

最初にこのプロジェクトのお話をいただいたのは、2013年の4月。2015年7月に京都市と舞鶴市を結ぶ京都縦貫自動車道が開通し、人の行き来が活発になることを見越してのお話です。舞鶴市といえば、当時から海上自衛隊の拠点があることで知られていたため、自衛艦目当てに足を運ぶ人はたくさんいました。しかし僕らのような外部の人にしたら、他にも魅力的な観光資源がこの街には溢れていたのです。

たとえば豊かな食文化。舞鶴漁港は舞鶴ガニやブリをはじめとした海産物の宝庫です。すごくいい農産物だってとれます。こういったものが地元では何気なく売られていますが、ていねいにアピールし続ければ富山県の越中ブリ、香住のマツバガニに匹敵するブランドに育ってもおかしくはありません。古代史好きの僕にしたら自衛艦よりもはるかに魅力的だったのは、日本最古の船着き場と丸木舟が、舞鶴で発掘されていたという事実です。ほかにも土偶をはじめとした縄文時代の遺物がたくさんあるのに、積極的なアピールはされていませんでした。縄文時代といったら今から16,000年以上も前の話です。いくら京都市が「ここには古い歴史があって……」と主張したところで、実は舞鶴市のほうが断然古いのですよね。

舞鶴市の観光の中心的存在「舞鶴赤れんがパーク」
舞鶴市の観光の中心的存在「舞鶴赤れんがパーク」

そもそも舞鶴港になぜ自衛隊がいるのか。ここは天然の入江であって、港のコンディションがいつも安定しています。だからこそ旧海軍の軍港として栄えました。だからこそ今でも自衛隊の拠点であり続けています。いずれにしても舞鶴市の歴史は、海や港とともにあって、非常に奥が深い。そこで舞鶴といえば「旧海軍が使用していた赤レンガ倉庫と海」というイメージを定着させながら、この土地に関するストーリーが広がっていくロゴマークを生みだすことにしたのです。

自由な変化を許容することで、ロゴマークの増殖を促す。

赤は「赤レンガ倉庫」、青は「海」と「船」をモチーフに。「海の京都」を代名詞とする舞鶴らしいロゴマーク。
赤は「赤レンガ倉庫」、青は「海」と「船」をモチーフに。「海の京都」を代名詞とする舞鶴らしいロゴマーク。
使用する場所や媒体などに応じて、長さや色などに自由にアレンジできる。使用規定を緩めることで使用を促進した。
使用する場所や媒体などに応じて、長さや色などに自由にアレンジできる。使用規定を緩めることで使用を促進した。

マークのモチーフに採用したのは「赤レンガ倉庫」と「船」です。通常ロゴマークは、使用規定が厳しく定められており非常に固定的ですが、これに関しては自分なりの解釈を加えて自由に使うことを許容したのがポイントです。長さも自由。赤と青の組み合わせであれば、色も自由。現代的なデザインにするなら、今っぽい青と赤をセレクトするといいでしょう。地元の食材を使ったお弁当に使うなら、優しい赤と青を選んでローカル感を色濃くしてもいい。センス良く映れば何でもOK。自由度を高めることで、汎用性を高めました。

要するに「参加型のロゴマーク」ということ。ロゴマークが増殖していく仕組みをデザインしたわけです。従来型のロゴマークだと「絶対にこの形、この色で使ってください」という風でしたが「決められたルール通りに使う」では、いつまで経ってもロゴマークが市民(使い手)に共有されません。だったら、これくらいルールを緩やかにすると何が起きるのか。きっと「好きに使っていい」なら「適当に貼っておこう」という姿勢ではなく、使い手が「どう使うか」について能動的に考えだすはずです。これまではルールに則って何も考えずに使っていたから、ロゴマークに愛着すらわかなかったはずですが、こういうルールならロゴマークとの向き合い方も変わります。やっぱり自分で考える余地が残されていることは重要です。

変幻自在のロゴを体現するプロダクト第1弾のオリジナル扇子、表面の2本線は北川氏の手描きによるもの
変幻自在のロゴを体現するプロダクト第1弾のオリジナル扇子、表面の2本線は北川氏の手描きによるもの
裏面は1823年創業の宮脇賣扇庵の職人のよる霞柄
裏面は1823年創業の宮脇賣扇庵の職人のよる霞柄

過去にこういったことを試みたブランディングのプロジェクトは見あたりません。たしかに実験的な取り組みだと思います。しかし、これは10年先、20年先を見据えながら進めていくプロジェクトだからこそできるものです。人によっては、これをロゴマークだとは思わないでしょう。けれどもロゴマークだと思われることが第一義ではないので、気にする必要はありません。いろんな商品に、いろんな形で使われるうちに、徐々にブランドイメージが定着していく。それが理想的な展開だと考えています。