インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る
深澤直人氏インタビュー「INFOBAR A03(インフォバー エー ゼロ サン)とスマートフォンのデザイン」
初代から12年が経ち登場した6代目、どのような考えでデザインされたのか
2015/03/11
JDN編集部
― A02発表の時「この時点で、ほぼ完成形に近い」とおっしゃられていました。A03については、今、どのような感想をお持ちでしょうか?
深澤:A02で求められたのはiidaUIの操作感でした。ユーザーインタフェイスに最適化したハードを作るというのが最優先課題だったので、シングルハンドで使えるというところに相当こだわりました。中村勇吾さんとも膝詰めでやりとりをしましたし、完成形かと思います。
今回は、INFOBARのイメージということで三つのキーが復活しました。スマートフォンとしての完成形はA02かもしれませんが、もっとINFOBARにふったのが今回のA03でしょうか。そして今回のキーはファンクションよりはファッションを打ち出しています。
12年前にINFOBARが出たとき「こんな携帯を待っていた」と賛同された人が多かったと思います。その驚きを捨ててはいけないのだろうと。
― INFOBARといえば色、NISHIKIGOIですが、色の選定にはどの程度関わってらっしゃいますか?
深澤:どっぷりと。
NISHIKIGOIが一番人気なのですが、それは何故か分かりません。プロトタイプの時にたまたまできた良い色で「ニシキゴイみたいだね」でNISHIKIGOIになりました。マーケティングデータ上も捨てることができない色で、これを中心にカラーバリエーションを組み立てます。
今回のNISHIKIGOI以外の3色は、南青山界隈のファッションストリートを見ていると「今、こういう色があるな」というのが見えてきて、それが影響していると思います。前にピンクを出したときは、「えー」という反応もありましたが、今回のSAKURA IROについてはそういう声はないですね。もはや、ハイブランドにも並んでいる色ですし。
MOCHA BROWNは、女性のコンパクトを開けたときのパレットをイメージしました。一つの色だけを見ると地味ですが、組み合わせるときれいです。ケースとスタイラスを使う方も増えているので今回は一緒にデザインしましたが、ケースと一緒ならMOCHA BROWNが最も成功していると思います。
― これからのスマートフォンの可能性、特に外観をコントロールする立場から考えていることはありますか?
深澤:OSとアプリの使い勝手が圧倒的に広がって、ここでコミュニケーションを取るだけでなく、全ての機器をコントロールするようになるのだろうと思います。その広がりは、計り知れないし、読み切れない。コントロールに必要とされるフィードバック、使う人への知らせ方は、目に見えるのか、振動なのか、別の何かなのか。ジェスチャーで、見ないでも全てコントロールできるようになるのか。
ほぼ確実かなと思えるのは、目で見えるスクリーンから身体でコントロールするデバイスになっていくということでしょう。ゆるやかにウエアラブルになっていくのでしょう。ただ、全てが時計やイヤホンになるかかというと、そこには疑問があり、基本的なオペレーションのプラットフォームはスマートフォンにしばらく存在するのではないかなと思います。
そのせめぎ合いが今なされていて、iPhoneも6で大きくなったが、今後は小さくなるかもしれないし…。
使う用途によって違ってくるのかもしれませんし、そこは両立でしょうか。また、ウエアラブルと聞くと装着するイメージがありますが、そうではないインタラクションがどのような形になるか、このあたりがスマートフォンのあり方を決定していくのかもしれません。
― 様々なプロダクトをデザインされています。携帯電話、スマートフォン、INFOBARについての思いは?
深澤:マルニ木工の「HIROSHIMA」、±0の「加湿器」、MUJIの「CDプレイヤー」、そしてINFOBAR。僕のデザインの象徴的なアイテムとしてあげられるものです。それぞれのデザインに賛同する人が多くいて、それだけのコミュニティができた、という証なのかと思います。結果、デザインクラシック、デザインアイコンになっていったのでしょう。たかだか35年で、複数のこうした存在を作れたことは幸せです。
特にINFOBARは、流れが速いハイテク分野ですので、他のプロダクトとは異なる難しさがあると思います。KDDIの彼らとずっと一緒にやってこれたこと、時代にも飽きられずに続けられたことは有り難い限りです。
インタビュー・執筆:JDN編集部、撮影:小林ユキノブ