インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る

深澤直人氏インタビュー「INFOBAR A03(インフォバー エー ゼロ サン)とスマートフォンのデザイン」

深澤直人氏インタビュー「INFOBAR A03(インフォバー エー ゼロ サン)とスマートフォンのデザイン」

初代から12年が経ち登場した6代目、どのような考えでデザインされたのか

2015/03/04

JDN編集部

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― これまではNISHIKIGOIならば赤いラインが外周にありました。今回は、上と下のキャップでガラス面をサンドイッチして、正面から見た印象が大きく変わりました。

左がA03、右上A01、右中C01、下A02
左がA03、右上A01、右中C01、下A02

深澤:INFOBAR的な進化系とスマートフォンの進化系、という二つの方向があるだろうと思います。
スマートフォンの進化は、単純に薄くなり、丸くなり、三次元ガラスを使い、できるだけフレーム的要素を減らしていくのが自然な方向。画面はフレームに対してできるだけ大きくなろうとしますが、製造上の問題で限界があります。そうなると、フレームをデザインしなければいけないということです。

全部ガラスで囲まれているように見える今回のA03ですが、それでも端には違う素材を使っています。また上と下のキャップ部よりコンマ2ミリだけガラス面が下がっています。このことで落としてしまった際に上と下のキャップがバンパーになり、ガラスの割れ防止に役立ちます。KDDIの製品基準はかなり高いのですが、メーカーさんと一緒にそのレベルを達成しています。

― A03が採用した、特徴ある技術は何でしょうか?

深澤:ガラスだけのインターフェイスだと、キーを押すことはガラスを押すことなのですが、A03ではキーが実在していています。そのキーは物理的なキーではなくタッチセンサーです。光源が仕込まれていて光のフィードバックがあります。

塗装については、これまでのINFOBARは塗装の艶をその魅力としてきましたが、トレンドからするとメタリックなものが注目されています。今回はアルミとアルミ調の仕上げを組み合わせて陽極酸化処理で仕上げました。

また、上と下にキャップをつけてサンドイッチというデザインは、割とよくある手法ですが、製品化を進める過程で必ずどこかに破綻が出るものです。INFOBARについて言えば、破綻は許されない。上と下を切ってキャップをはめるという絵があるならば、その通りに作らなければいけない。作る方の苦労が凄いと思います。

「INFOBARをデザインの携帯電話、スマートフォンだと考えている人は、A03を見ても『ああよくできているね』という感じかと思います。ささくれはないと思います。ただ、そこまでいくのは簡単ではなくて、エンジニアの皆さんは苦労されています」
「INFOBARをデザインの携帯電話、スマートフォンだと考えている人は、A03を見ても『ああよくできているね』という感じかと思います。ささくれはないと思います。ただ、そこまでいくのは簡単ではなくて、エンジニアの皆さんは苦労されています」

― 普及しきっていない技術や仕上げをデザインで呼び起こす、ということでしょうか?

深澤:アップルは、樹脂成形や金型という加工方法が当たり前だった工業デザインの世界に、時計技術で培われた切削技術を持ち込んで大きな話題となりました。型と刃物では、その精度が全く違います。A03の精度は、切削と成形の良いところを採用し量産に適した形で実現しました。切削だけでやったiPhoneよりも、精度とコストのバランスという意味で、進化していると言えるかもしれません。

サイズについては、掌にすっと入る大きさと厚さじゃないといけませんね、というところから始まりました。少し大きめなプロトタイプも作りましたが、見た瞬間「これはないだろう」と満場一致でした。

「最初にデザインを示して、そこに皆が集約していく。それがないと太ってしまい、破綻が見えてきます」
「最初にデザインを示して、そこに皆が集約していく。それがないと太ってしまい、破綻が見えてきます」

INFOBARの場合、完全な大きさ、デザインを出してから企画が決定します。そこからメーカーさんに手を挙げていただきます。INFOBARにチャレンジするメーカーさんは大変なのですが、できあがったときにはものづくりの誇りを感じてもらえると思います。実のところ、発売の数日前まで「ここが甘いのでは」と細部の煮詰めが続いていました。たとえば、キーのスキマも隙っ歯に見えないようにですとか。同じアルミの色でも、光の屈折で同じ色でも部品が違うとわずかに違って見えるとか。

完成度が上がれば上がる程、細部の破綻が露出してしまう。全体のレベルが上がるので、構成する一つひとつのレベルが高くないといけない。そして、期待値はどんどん高まるので、プレス発表会でも通常は聞かれないような目利きなコメントも頂き(笑)。それは期待値の平均レベルがものすごく高いということだと考えています。