インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る

紙の可能性を追求する、「かみの工作所」のものづくりにかける想い (3)

紙の可能性を追求する、「かみの工作所」のものづくりにかける想い

想いを伝える新しい試み「ペーパーカードデザインコンペ2015」

2015/07/29

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廃番はひとつもなし、デザイナーやアーティストの想いごとお客様に届ける

ものづくりの過程においてはもちろんですが、販売の面でも私たちが大切にしていることがあります。これは5つのプロジェクトすべてに共通することですが、それぞれのブランドにデザイナーやアーティストがいて、個々に、作品ごとに伝えたい想いも異なります。私たちは、企画の段階からつくられた過程を一部始終見ているので、デザイナーやアーティストの想いを大事にしたいという気持ちが自然と強くなります。彼らの伝えたいものは、あくまで「製品」であり、「商品」ではありません。デザイナーやアーティストの伝えたい想いをしっかり受け止めて、お客様に伝えることが、私たちが販売するうえでの役割だと思っています。

世界の名作椅子を1/16で再現する「onetosixteen」(デザイン:安積朋子氏)
世界の名作椅子を1/16で再現する「onetosixteen」(デザイン:安積朋子氏)

また、これも自社でコントロールできるから可能なのですが、今までの製品(約200アイテム)の中で、廃盤はひとつもありません。動かないものも多いのですが、当初の製品からずっと売り続けています。それはやはり、一緒につくってきたという想いがあるからにほかなりません。店から注文が来ないものは、百貨店や美術館でフェアを開催して、自分たちで場所をつくり、店頭に立って販売します。さらに、かかわってくれているデザイナー自身が広告塔となって海外に発信してくれたりもするので、海外からの受注も入るようになりました。自分たちで販売できる場所をつくることで、できるだけ多くの製品を見てもらえるように、というのはいつも心がけています。

紙の可能性を一緒に追求する「ペーパーカードデザインコンペ2015」

「かみの工作所」では現在、一緒に製品をつくっているデザイナーを審査員に迎え、「ペーパーカードデザインコンペ」を開催しています。これは、紙でできることの可能性をより広げたいという想いから生まれたもので、気持ちが伝わるメッセージカードを、デザイナーや学生と一緒につくり製品化をめざすものです。

「ペーパーカードデザインコンペ2015」の応募者に向けて工場見学会が行われた
「ペーパーカードデザインコンペ2015」の応募者に向けて工場見学会が行われた

大手メーカーが打ち出しているノートや文房具が確立されているなか、私たち素人がそこで戦ったとしても勝負できる訳がないので、これまで「かみの工作所」ではステーショナリーの制作を意識的に避けてきました。でも、一昨年「紙のゲームからはじまるコミュニケーション展」という展示会を渋谷のヒカリエで開いたときに、顔も知らない来場者同士が作品を介して会話しているのを見て、紙でのコミュニケーションの可能性を肌で感じたんです。さらに、ディストロビューターの方から、「海外ではグリーティングカードや封筒を付けないとものは売れない」などの話を聞く機会もあり、メッセージカードの存在を意識しはじめました。よく見ると、販売されているメッセージカードって何万という種類があるのに、トーンはある程度一定ですよね。その流れから、メッセージカードで新しい提案ができないかと考えたんです。会社などでも、たまに手書きの手紙をもらうと感激しませんか? 気持ちを伝える手段として、手軽なメールが主流になっている今だからこそ、あえてアナログでやるおもしろさがあると思っています。

福永紙工は特色印刷や厚紙印刷などを得意分野としている
福永紙工は特色印刷や厚紙印刷などを得意分野としている
これまでにつくられた膨大な数の型は可能な限り保管されている
これまでにつくられた膨大な数の型は可能な限り保管されている

コンペという形をとっていますが、今まではブランドを確立させることに必死だったので、持ち込みもいっさい閉ざしていました。でも、立ち上げから10年が経とうとしている今だからこそ、そろそろ間口を広げる話を萩原さんともしていて。あえてストライクゾーンを広げることで、可能性も広がるのではないかと考えたんです。普通の手紙をもらうのももちろん嬉しいですが、その嬉しさが倍増したり、喜びが一層ふくらむような仕掛けがあったり…。皆さんに自由な発想で参加していただくことで、紙の持つ可能性を一緒に考えていけたらと思っています。

このようにさまざまなプロジェクトを展開していますが、軸にあるのは、これからも紙を通じて世の中にインパクトを与える企業であり続けたい、ということ。そして、デザインの力で多摩地域を盛り上げていければ嬉しいですね。

構成/文:開洋美、撮影:葛西亜理沙


紙の可能性を追求する「ペーパーカードデザインコンペ2015」

「かみの工作所」による初のコンペ、「ペーパーカードデザインコンペ2015」が現在開催中。テーマは「気持ちを伝える」。紙を印刷・加工することで、大切な人に気持ちが届くような、商品化を前提とした紙製品のデザインを募集している。

◯エントリー受付:2015年6月1日(月)~8月31日(月)
◯作品締切:9月30日(水)必着

http://www.kaminokousakujo.jp/compe2015/