インタビュー 編集部が注目するデザイナー・クリエイターのアイデアと実践に迫る

紙の可能性を追求する、「かみの工作所」のものづくりにかける想い (2)

紙の可能性を追求する、「かみの工作所」のものづくりにかける想い

「とにかく楽しむ」スタイル、目指すのはできないことを可能にする場所

2015/07/29

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第一号プロジェクト、「かみの工作所」

萩原修さん、そしてデザイナーの三星安澄さんとともにプロジェクトがスタートしました。最初に立ち上げたのが「かみの工作所」。デザイナーとコラボレーションしながら、紙を加工してできる「暮らしの中にあったらいいな」と思う道具の可能性を探るプロジェクトです。

最初はとにかく何かやってみようということで、いろいろなデザイナーの方に工場に来てもらい、勢いでつくりました。それをもとに会社をアピールすることで、新しい展開につなげられればと思ったのです。当時は販売や卸の経験なんてもちろんないので、どうやってDMを送ればいいのか、どこに送ればいいのかもわからず、自分たちがやりたいところ、扱ってほしいところに送ってみるといった、かなり無鉄砲なやり方でしたね(笑)。

建築家の寺田尚樹氏との恊働プロジェクト「TERADA MOKEI」
建築家の寺田尚樹氏との恊働プロジェクト「TERADA MOKEI」

はじめに制作したのは、ビジネスバッグにあるような厚紙の封筒など実用的なもので、企業や会社の資材部などにアプローチしました。でも、割ととんがったデザインだったので、企業もきょとんという感じで(笑)。反面、デザイナーやメディアの方には好評で、「おもしろい」という声をたくさんいただきました。それをきっかけに「つくし文具店」で、三星さんによる紙メガネや紙でできたファイルなどを展示する展覧会、「紙の道具展」を開催したところ、これも結構評価していただいて。その後お茶の水にあった美篶堂(みすずどう)のギャラリーで、「紙の道具展2」も開催しました。

規模は小さかったものの、展覧会を着々と重ね、いよいよ本格的に売り出そうという段階で、2009年、インテリアの国際見本市「インテリアライフスタイル」に初出展します。そして2010年、2回目の「インテリアライフスタイル」に、トラフ設計事務所とのコラボレーションで生まれた「空気の器」を出品したところ、いきなり海外のディストロビューターから製品を取り扱いたいとオーダーが来たり、金沢21世紀美術館から声がかかったり、置いてもらいたいと思っていた店からもオファーが来たりしました。

ヴィクトリア&アルバート博物館やメトロポリタン美術館でも展開される「空気の器」(デザイン:トラフ建築設計事務所)
ヴィクトリア&アルバート博物館やメトロポリタン美術館でも展開される「空気の器」(デザイン:トラフ建築設計事務所)

当初は今のように多角的に展開するイメージはなかったのですが、現在は「空気の器」のほかに、遊びを通じてコミュニケーションを促す「PAPER GAME」シリーズや、紙でできたメガネや名刺入れ、ファイルなどの「三星安澄」シリーズなど、デザイン性を重視した多くのコラボ製品の企画・販売に至りました。

どんなブランドでも、ブランドとして認めてもらうまでに最低でも3年はかかると思うんです。特に最初の3年間は、萩原さんと三星さんと私たちで、売り上げよりも「楽しい」ということが先に立ってつくっていたような時期です。何ができるのかを、本当に純粋に考えていた3年だった。同時に、クライアントと請負的な関係ではなく、双方が並んでものづくりができるのではないか、ということを模索した3年間でもありました。

真正面からぶつかって、楽しみながらいいものをつくる

「かみの工作所」の立ち上げから、今年で9年がたちますが、「とにかく楽しむ」スタイルは今でも変わっていません。ちょうど昨日も「かみの工作所」の新製品の打ち合わせがあったのですが、みんなで6時間ぐらい延々と話し続けていました。会社は見ての通り、そんなに大きい訳でもなく、資金が潤沢にある訳でもない。製品が売れたら、売上げに対してのロイヤリティをデザイナーに配分します。その限られた資金と環境の中で、いかに楽しめるかだと思うんです。みんな一生懸命なので、喧々囂々とぶつかることも多いのですが、そこは真正面からぶつかって、きちんと話をする。結局、いいものをつくりたいからぶつかるんですよね。

紙の組み立てキットの子ども向けブランド「gu-pa」ほか
紙の組み立てキットの子ども向けブランド「gu-pa」ほか

また、デザイナーと直接やりとりしながら企画を進めるのは私たちと萩原修さんなのですが、私たち自身がデザインやアートが好きなので、デザイナーと共感しやすいことも、よりよい製品を生む上でのひとつの強みかもしれません。間に第三者を挟むことなく、直にやり取りしながら、製品化・販売までの全工程を自社で行なう訳ですから、制作過程でのお互いの意図もストレートに伝わります。わからないものをつくる現場は、なかなかつらいですよね。作品に可能性を感じながらつくるのと、デザイナーが何か言っているから、じゃあやってみるかというのとでは、双方のモチベーションも大きく違うと思うんです。その点では、デザイナー自身も「言いたいことが言える」「自由でやりやすい」など、楽しんでやってくれているようです。

不可能を可能にする場所でありたい

「かみの工作所」は、展覧会を開催するごとに新しいデザイナー4~6名とコラボレーションしていく仕組みで、現在かかわりのあるデザイナーが25人います。グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、建築家などさまざまですが、中心となっているのが比較的建築家が多く、当然のことながら印刷のノウハウはあまり持ち合わせていません。そのため、これまでにやったことがない領域の相談がとても多いんです。「絶対にこれをつくりたい!」という熱い想いで来られるのでそこは大事にしてあげたいのですが、印刷の現場のほうからは、「技術的にできない」と言われてしまうこともあります。だからといって諦めるのではなく、どうすればつくれるのかを、現場の職人と一緒になって考える。福永紙工は、できないことを可能にする場所でなければならないと思っています。

デザイナーやアーティストの想いを実現するため、抜き加工にはとにかくこだわる
デザイナーやアーティストの想いを実現するため、抜き加工にはとにかくこだわる

そういった意味では、工場があることはとても大きな強みです。私たちの得意分野である特色印刷や厚紙印刷をはじめ、抜き加工や折り加工では、昔から多くの実績を積んできました。名刺やハガキの印刷は今も安定した受注があり、40年以上付き合いのある企業もあります。そうした印刷技術を、そのまま商品化にも活かすことができるのです。印刷工程はほぼ機械でまわしていますが、インクの入れ替え時には大変な時間がかかりますし、打ち抜きという工程には専門の作業員がつくなど、要所要所で人の目と手が欠かせません。現場でその日の印刷スケジュールを管理するスタッフと細かくコミュニケーションをとりながら、毎日たくさんの製品がここで形になっています。

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