抽象的な作風でありながら、どこかで見たことあるような懐かしさを感じる、阿部未奈子の風景には、そんな魅力がある。それは、私たちの五感や情景を捉え、「記憶のなかの風景」を見事に再現しているからである。

一貫して山や森などを描いた作品は、まるで夢の中を描いたかのように、マーブル模様に風景が溶け出す幻想的な特徴がある。この独自の表現は、自然の風や光、匂いといった、写実では表すことのできない、人が感じる記憶のなかの風景を描きだしている。

油彩に用いる道具にも独自のスタイルがある。絵筆ではなく、マスキングテープでガードした上に、ローラーで色彩をのせる作業を何度も繰り返すことで、奥行きを描き出す。この同じ動作を丹念に繰り返す日本工芸のような職人技は、海外でも評価され、ドイツ、スペイン、香港など世界各国のコレクターを魅了する。

阿部未奈子による公共施設で初めてとなる本展覧会では、10年間の集大成ともいえるべく今までの作品と共に、未公開の新作もご紹介する。