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デザインのチカラ

デジタルスケープ

携帯電話であり学習機能を持ったロボットでもある「Polaris」

砂原哲氏とpolaris

── 今回、新たにコンセプトモデルも発表された。松井龍哉さん率いる新興のロボットメーカーである、フラワーロボティクスとiidaが共同開発したプロジェクト、「Polaris(ポラリス)」だ。

「『AIBO』や『ASIMO』といった日本人が大好きなロボットは、これまで結局生活のなかに根付いてきませんでした。そこを変えたいと考えています。いま携帯電話は非常に愛着をもって扱われるプロダクトのひとつで、ロボットも本来なら愛着をもたれるべき存在なんだけれどもそうなっていません。そこで携帯電話とロボットを結びつけることで愛着のあるプロダクトにならないだろうかというところがスタートでした。
もうひとつ念頭にあったのが、通信会社としてロボットを考えたときにどうなっていくのか、ひとつの像を描き出していきたいという点。エンターテインメント産業ではソニーがあり、車ではホンダがある、という状況において、そうではない新しい世界が携帯電話会社として描けるんじゃないか、と。5〜6年前から温めていたアイデアで、ロボティクスに真摯に取り組む松井龍哉さんにお願いしてプロジェクトをスタートしたのは2008年の初頭。個人的にアイデアを温めていた時間を含めると、実は長いプロジェクトで今回ようやくコンセプトを発表できるようになりました」

── 携帯電話本体にはGPSによる移動履歴やその日の運動量、ネットショッピングの購買履歴などをライフログとして記録。帰宅後に部屋に置いてあるロボット本体へ携帯電話を格納すると記録した情報を分析し学習した結果をテレビモニターに表示し最適なアドバイスを提供してくれる仕掛けになっている。エンターテインメントではないので無意味には動かず、すべて目的に沿った開閉や本体の動きのシステム化を目指した。光と音により総合的に演出した状態で様々な動きをし、左右のタイヤが回転して走るロボットだ。

polaris

「松井さんのこだわりは、テレビと繋がる点にあります。学習機能が備わったロボットが情報を様々に処理し、ユーザーに最適な情報をテレビ画面に表示してくれるという想定です。たとえば記録情報から野菜不足だと自動的に判断されると有機野菜のウェブサイトにリンクし、テレビ画面を通じてリコメンドしてくれるような、生活に溶け込んでいくものとして考えています。
携帯電話はほとんどの場合、充電のために1日のうち家では1度くらい充電器に載せる行為が発生するので、このロボットも生活のサイクルに取り込めるような、必然性をもったロボットとして開発しています」

── 自身の感性とプロジェクトの方向性の合致点を探り、そこに最適なクリエイターを見いだすのも砂原氏の役目だ。感覚的に見極めるためのアンテナは常に高感度を保たなくてはならない。

「デザイン系のイベントはもちろん足を運びますし、美術展もできるだけ時間をとって行きます。デザイン雑誌やライフスタイル雑誌、購読しているものから本屋で立ち読みするものまでたくさん目を通しますね。デザイナーへは、誌面や実際に作品を見て依頼するケースもありますし、レセプションや海外の展示会で直接本人に会って話をする場合もあります。
au design project時代からだと、僕より世代が上で尊敬するデザイナー、深澤さんや吉岡さんといった方々に依頼するのが8年ほど続いていましたが、その一方で、今回の神原さんもそうですが、参の3人や坪井浩尚さんといった僕よりも下の世代のデザイナーにデザインを手がけてもらうことも多くなってきました。

気負いなく世界に出ていって、横のネットワークを大切に良い意味でつながりながら活動している感じが、彼ら世代特有のおもしろさ。もっている空気感、雰囲気が上の世代とまた違って、そのおもしろさといっしょに何かやってみたいと考えています。僕より下の世代ですがクリエイターとして尊敬しているし、彼らのもっている能力を最大限に引き出せれば良いですね。
ただ、まだまだ若いなあって感じることも多々ありますよ(笑)。今はそこもおもしろかったりするんですが。そいういう時は深澤さんや吉岡さん、岩崎さんの凄さ、素晴らしさを改めて認識しますね(笑)」

── 年齢やデザイナーとしてのキャリアを問わず、尊敬できる相手としっかり組むには、自身の心構えも問われる。

砂原哲氏

「なんだかわからないけど有名だから付き合いましょう、ということは絶対自分の気持ちが入りませんよね。逆に、この人と絶対にプロジェクトを成功させたいと思う人としか組んでいないので、そこは一番大切です。その人の作品を見て感銘を受けたとか、強烈な印象に残ったという感情を持てなければ、上手くいかないでしょうね。本当にいいなと惚れ込み、その人の世界観と我々の思いや理念を結合させて、いかに携帯電話という形に結実させるか。それが実現できないと意味がありません。
リスペクトできるクリエイターと仕事をすること。そこさえ守れれば、それぞれ性格が違うデザイナーとは、やりとりや進め方が違っても、最終的に納得できる結果につながると信じています」

── 日本を代表する前衛芸術家のひとり、草間彌生氏によるアートエディション携帯電話という独自の展開も好評を博し、今回の新製品およびコンセプトデザインの次にも、注目しているデザイナーやアーティストへアプローチ中だという。同時代的なフィット感と、一歩先へ導く刺激を与えるiidaブランドはまだ始まったばかりだ。

» 若手デザイナーの感性から生まれる「LIFE STYLE PRODUCTS」

砂原氏より読者へ

なんだか次の新しい時代が芽吹きはじめたような、地に足の着いた正しい時代がやってきそうな感覚を1年くらい前から感じるようになりました。僕より下の世代、今日のケータイ文化を先導してきたいわゆるポスト団塊ジュニア世代(1975〜1982年生まれ)のデザイナーやアーティストと話しをしたり、作品を見たりしているとそう感じます。この世代の方は読者にも多いと思うのですが、彼ら彼女らのこれからが楽しみです。僕は出来る限りの応援をしていければと思っています。

プロフィール

砂原哲 すなはら さとし
KDDI株式会社 プロダクト企画部 コンセプト企画グループ
1970年埼玉県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業後、映像制作会社等を経て、日本イリジウム入社。
2000年よりKDDI。iidaの前身となるau design projectの全モデルのプロデュースを担当し現職。

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