|
|
昔ながらのおばあちゃんの味覚で知られるMamie Nova(マミ・ノヴァ)は、スーパーなどの量販店で販売されるヨーグルトのメーカーである。
フランスでは、誰もが知る名称とロゴ。白い襟のブラウスに、エプロン姿をして白髪の頭に微笑む姿。最近、近所のスーパーで見かけて買ったヨーグルトもMamie Novaだった。Mamie Novaを手にして、味わうと、発見と思い出が交差する。 【 写真 1 】
日本では当り前のように、個別の容器をしたヨーグルトやアイスクリームには、小さなスプーンが付いている。フランスでは、このような消費者のために配慮されるサービスが非常に少ない。辛うじてスーパーのお惣菜コーナーで、セルフサービスのサラダや果物を購入すると、フォーク・ナイフセットが付いてくる。大抵のスーパーでは、乳製品コーナーが10メートル以上に及び、陳列棚に置かれたヨーグルトだけでも、数えたことはないが、全脂肪、低脂肪、牛や山羊の乳をベースにしたものなど凡そ数百種類を下回ることはないだろう。
農業国フランスを誇ることは、乳製品の種類を見たら納得する。
しかし、旅行者が4個・6個とパックになっているヨーグルトを購入しても、ホテルに戻り、「スプーンを貸してください。」とお願いをしてからでないと、食べられない。
旅行者だけではない。春から夏に向けて気候がよくなってくると、セーヌ川沿い、サンマルタン運河沿い、広場のベンチなどには、ピクニックをする人々が多くなる。平日は、会社員や学生が、サンドウィッチとペットボトルを持参でランチをする姿が目立つ。
話が飛躍してきたが、Mamie Novaはそんな人々を思ってくれているのだろう。以前から気になっていたヨーグルトGOURMAND(グルマン)シリーズは、17種類の味覚があり、1個の小売をしている。そして、最も感激したことは“折りたたみ式スプーン”が付いていることである。早速、3個ほど買って帰り、試食をしてみた。
味覚を表現する原材料の写真で覆われた、つるつるとしたテトラパックの内容量は150g。それを、この折りたたみ式のプラスチックスプーンですくうのだが、スプーンを手に取り、広げてみると、きっちりと溝に固定して、立派な道具である。念のため、もう一度折りたたむと、携帯できる状態になる。
今年の1月、南仏の過疎化した町に行った時の夕食を思い出した。夏場は、それなりに観光地として賑わうのだろうが、オフシーズンとなれば、閑古鳥が鳴くほどに静かで、町の全ての活動が停止していた。事実、町の中を散策してみたが、営業をしているレストランも1軒あるかないかという状態で、食欲をそそるメニューもなかった。そのまま寝るには翌朝まで悪夢を見そうで我慢ができない。メイン通りと思われる所に、スーパーを見つけた。急いで入ると、あと数分で閉店になるのだろう。床をモップで清掃する女性がいた。「何があるかな」と店内を巡る私の後から、モップを持って付いてくる。「さっさと買い物をして、帰らんか。この客。。。」という態度をおもむろに背後に感じながら、ぐるぐると何周もするが、テイクアウトになるような品を探すのに苦労した記憶がある。
Mamie Novaのカップを手にし、折りたたみ式スプーンのパチッという音を聞いた瞬間に、南仏のあの町のスーパーの光景が脳裏に蘇ってきたのは、単なる偶然ではない。次回、行く時にはフォーク・ナイフ、そしてスプーンを持参していくべきであると誓ったことと重複した。手のひらに包み込めるほどの、この小さなスプーンは、使い捨ての用途で、生産され、消耗されるのであるが、時と場合に応じては魔法のような存在に思える。
国を問わず、大都会で暮らしていると、常に何が生活に不可欠なのか、分からなくなることがある。あまりにも、物質が豊富で乱雑であるがゆえに、モノや道具の本質を見失う。今更、一本のスプーンについて述べることもないかもしれないが、工業製品の在り方は、我々のあらゆる角度に密着している。新しい食料品を企画すれば、それを吟味するための道具もデザインする必要があるのかもしれない。
【 写真 2〜9 】
|
|
|
【 1 】
Mamie Novaロゴ
【 2 】
1個売りの場合のみついてくる折りたたみ式スプーン
【 3 】
【 4 】
【 5 】
|
|