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ミラノ - Life is design -
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第9回 (2)
骨董市の中のイタリアンデザイン





そして、いろんなもので埋もれている一番奥に、Brionvega(ブリオンヴェガ)社のポータブルラジオ『TS 502』を発見 【写真 5】 。Marco Zanuso(マルコ・ザヌーゾ)とRichard Sapper(リチャード・サパー)のデザインのもの(1965年)。「ラジオはちゃんと聞こえる?」と思わず店主に尋ねてしまったが、今でもこのラジオは機能していた。大音量のおまけ付きでラジオを聞かせてくれたおかげで、一瞬みんなの注目を集めたくらいだ。コンパクトなボディから流れるラジオの音はなかなかの迫力であった。300ユーロ(約¥40,500)というその値段に、思わず心が傾きかけてしまいそうであった。店主は「とっても良心的な値段だろう?」と語りかけてきたが、確かに格段に高い値段がつけられているわけではない。ヴァレンタインが150ユーロ(約¥20,250)、レッテラ32が50ユーロ(約¥6,750)という価格を見てもそれは伺える。ちなみに、日本のネット販売価格は、新品が¥40,000〜¥44,000であった。


この店の片隅に電話コーナーがあり、懐かしい形の電話が数種類あった。そのなかでも、まず店主が持ってきてくれたのはSiemens(ジーメンス)の電話機であった。Grilloグリッロと呼ばれるこのモデルは、Marco Zanuso(マルコ・ザヌーゾ)とRichard Sapper(リチャード・サパー)のデザインのもの(1965年) 【写真 6】 。折りたたみの携帯電話の形を思い浮かばせる丸いその柔らかいフォルムは、なんとも親しみを覚える。思わず手で触れたくなるかわいらしい形(実際にはもう少し大きい)、プッシュフォンかと思わせる形をしているボタン(実際はダイヤル式)、閉じた状態だとなんだか大型のパソコンマウスのようである。毎回の骨董市でも電話機は人気のようであり、この日も電話機コーナーの所には人だかりが出来ていた。手頃な価格と持って帰ってそのまますぐ自宅で毎日使うことの出来る商品でもあるからだろう。


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【 7 】 骨董市の風景。アンティーク家具、古い食器、新聞や本、カーペット、絵画・・・と、とにかく何でもある。

これらは今回見つけたもののほんの一部。探せばもっとあるかもしれない。並べてあるこれらのものが35年以上前のデザインだというのがすごい。某化粧品メーカーのキャッチコピーに『さびない人』というのがあったが、まさに『さびないデザイン』である。そして30年以上前のそれらの製品が誰かの手によって使われ、またこの場所に存在することがなんとも嬉しいところである。ひとつの理由に、イタリア人は大変財布の紐が固いというのも、これらの工業製品は恩恵を受けているのかもしれない。それぞれの家庭の電化製品は、新製品が出たといって日本のように買い換えられることは極めて少ない。壊れるまで使う、壊れたら修理に出す、これの繰り返しである。未だに14インチの懐かしいテレビが一般家庭にまだまだ存在し、カセットテープが活躍している家庭もあるくらいである。


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【 9 】 ナヴィリオの運河を望む。ミラノの昔ながらの下町の町並みを残す地域である。

大量消費時代の現在、次々に新しいものが出現しては消えていく日本。日本でこのような35年以上も前にデザインしたものを簡単に見かけることは難しいかもしれない。イタリアと比較すれば一般の家庭の生活レベルははるかに日本のほうが高いと言える。しかし、物に対する愛着や価値観を考えると、日本の消費サイクルの早さは一考するべき点が多いように思う。息の長いデザインというものが生まれにくくなる。機能重視デザインの日本、対してプロダクトのデザインからものが作られていくヨーロッパ、双方には違いがかなりある。食文化ではスローフードに対する認識が高まってきているが、工業製品にもこの考え方が少し必要なのかもしれない・・・と、日曜の骨董市を眺めながらふと考えてしまった。


この骨董市は夏の7月、8月を除き(今年は8月も開催されていた)毎月最終日曜に行われている。ミラノをこの時期にちょうど訪れる方は、是非足を運んでいただければと思う。今の時期なら焼き栗をほおばりながら日曜日のいい散歩ができる事請け合いである。







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【 5 】 Marco Zanuzo(マルコ・ザヌーゾ)とRichard Sapper(リチャード・サッパー)がデザインしたポータブルラジオ〈1964)。Brionvega(ブリオンヴェガ)社製 TS502。このお店には赤があった。ちゃんとラジオが聞こえる。販売価格300ユーロ!

【 6 】 Marco Zanuzo(マルコ・ザヌーゾ)とRichard Sapper(リチャード・サッパー)がデザインした電話Grillo(グリッロ)、Siemens(ジーメンス)社製〈1965)。プッシュホンのように見えるダイヤルだが実際は回転式。二つ折りの携帯電話の元祖とも思えるデザイン。80ユーロ。

【 8 】 骨董市の行われているナヴィリオ運河の風景。運河の左側の屋根の低くなっているところは昔の洗濯場だったところ。

【 10 】 一見ガラクタに見えるがこの中に掘り出し物が・・・。骨董市のお店はこんな風。

【 11 】 別のお店。こちらは50年代、60年代からの電化製品などが並ぶ。




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