桐山登士樹が選ぶ 注目のデザイナー

COLUMN 樹幹通信 桐山氏の近況やデザインの話題をお届けします

2006年12月

展示風景「イタリアデザイン界のマエストリ達展」の展示風景。21人のイタリアの巨匠デザイナーを紹介。展示品は、デザイン好きにはたまらないラ・トリエンーレ・ディ・ミラノのお宝(パーマネントコレクション)が展示されている。

12月1日汐留シオサイト5区イタリア街の一角に「Shiodomeitalia クリエイティブ・センター」がオープンした。建築・デザイン関係者であれば知らない人がいないくらい有名な「ラ・トリエンナーレ・ディ・ミラノ」の世界初進出の常設展示場が整備された。こけら落としの展覧会は、「エットレ・ソットサス 定理に基づいたデザイン」、「イタリアデザイン界のマエストリ達」、「1960・ミラノ:日本デザインの挑戦」の三本、入場料は三展で一般1200円である。この9日(土)14時からは、「1960・ミラノ:日本デザインの挑戦」と題したフォーラムも開催される。当時坂倉準三建築研究所に所属し、この展示会を担当した85歳の現役デザイナー長大作さんと私のトークセッションである。今とは違って1960年当時は、世界へ向けてデザインや技術、製品を発表する場が限られていた。国を挙げて企業もデザイナーも一丸となって心血を注いだ日本のデザイン界の挑戦であり原点でもある。

2006年11月

広島オリエンタルホテルのロビーにて広島オリエンタルホテルのロビーにて
横森美奈子さんと内田繁さん

今年のTDWは一度も足を運ぶことなく終わってしまった。個人的に最も忙しい時期と重なったことが理由の一つだが、イベント自体に遊びが多くなり興味が沸かなかった。多くの知人・友人から案内を頂きながら申し訳なく思っている。参加デザイナーのスキルを問題にしているのではなく、このイベントの目的やテーマに新たなエネルギーを感じないからだ。私たちの先輩達が溢れんばかりのエネルギーを発し、日本の発展を夢見、独創性を競った時代はもう過去のものなのか?こんな自問自答が脳裏を横切る。同時代性の乾いた環境下で取り戻す為のバックボーンは、1952-1960年の先達の心(精神)を知るところにヒントがあると思っている。

アエラデザイン「ニッポンをデザインした巨匠たち」でお世話になったと内田繁さんからお電話を頂いた。電話の内容は、広島のオリエンタルホテルを手がけられ、そのオープニングパーティに招待してくれるという。当日、お会いした面子は、年齢不詳の著名人がほどよい人数で介する会であった。空気はモダンで、熱き心を持つセンスの良い大人の会に加わることが出来て嬉しかった。翌日案内された上田宗箇流の茶室の素晴らしさは、さらに感動的であった。エネルギーは良質の環境で生まれることを実感した次第である。

2006年10月

安藤忠雄氏がリノベーションしたヴェネチアのパラッツォ・グラッシ安藤忠雄氏がリノベーションしたヴェネチアのパラッツォ・グラッシ

9月10日ヴェネチアビエンナーレ第10回国際建築展の初日、アーセナル会場のチケット売り場に真っ先に並ぶ。チケットを買い求めて会場に入るとCITTAの文字が大きく飛び込んできた。今年は都市がテーマと知る。なかでも印象的だったのは東京の人口3500万人と記された表示である。正確には首都圏エリアの総人口であるが、ロス、上海、ロンドン・・・どの都市と比べてもこの密度は際立っていた。緑化率、オゾンなどなど、高密度な東京は、まさに世界の先端都市、実験都市であることを知る。初日だったせいか、まだ人も少なくゆっくり展示を見れたことは幸いだった。一方、日本館では都市のカオスとは一線を画す藤森照信氏らによるユニークな展覧会が行われていた。また、私の好きな美術館の一つパラッツォ・グラッシが安藤忠雄氏の手によりリノベーションされ、ピノーコレクション(仏)が展示されていた。ピノーのコレクションは個人的にはあまり好きではないが展示構成は空間とマッチングしており素晴らしかった。今回も3泊の短い旅行であったが、内容の濃い打ち合わせと丸一日のヴェネチアの休日(夏休み)を堪能した。目線が上がる機会と休日の必要なことを強く実感した次第である。

2006年9月

世田谷美術館「クリエイターズ」会場にて世田谷美術館「クリエイターズ」会場にて
長大作さん

世田谷美術館で「クリエイターズ - 長大作/細谷巖/矢吹申彦 まだ見ぬ日常への案内者たち」が今月24日まで開催されている。三人の先達の創意工夫の結晶の作品を集めた展覧会であり、さらに今も日々実践しているリアリティに驚嘆する展覧会である。まだ若いが姿勢が凛々しい学芸員の野田尚稔さんが担当された。足を運んで欲しい展覧会の一つである。昨日、世田谷美術館の酒井忠康館長にお会いした。酒井館長の語る文化論に時間を忘れて聞き入ってしまった。現実と本来あるべき姿、マスの解釈、慣例と打破など、文化に関して更なる持論(軸)が必要なことを強く実感し刺激を受けた会見だった。その夜、オペラ演出家の岩田達宗さんにお会いした。劇場という限られたホールの中で密度の高い演出に欠かせないのは、インターラクティブであると話された。いまのマスメディアにない双方向性の密度の濃い関係性の構築こそ、高い文化創造に繋がる。そしてこのことは、他のジャンルにおいても充分応用できるキーワードである。

2006年8月

ALICE'S TEA PARTYの会場風景ALICE'S TEA PARTYの会場風景

5回目となるOZONE夏の大茶会は、無事に終了した。今年は金沢21世紀美術館で好評を得た「T-room project」(隈研吾、岩井俊雄、原研哉、深澤直人)やデザイナー集団nendoによるリプトン来航10周年記念の「ALICE's TEA PARTY」など、これまでと違ってOZONEらしい企画も取り入れた。このプロデュースが終わるとやっと前半戦が終わる。いつのまにか節目の祭事になってしまった。この大茶会からは様々なことを学んだ。茶の意味(参考までに8月の日経新聞「私の履歴書」は、小堀宗慶遠州茶道宗家の連載である。一読されると茶人の心を知ることが出来る)、同時に茶室や茶道具の意味や歴史観など、先たちによって重層された日本人の精神性を知る機会となったことは大きかった。

商品化を目標としたデザインコンペ「富山プロダクトデザインコンペティション」は今年で13回目となる。気がつくとずいぶん長く続いたものである。コンペの賞金額はグランプリ50万円と、他のコンペと比べると少ないものの入賞作品を商品化すべく、その後の試作をデザインセンターが面倒を見ている。過去の商品化実績やデザイナーの登竜門としてデザイン業界に寄与できたことは自信となっている。今年のテーマは「ホスピタリティのあるオフィス用品」である。関心のあるかたは応募して欲しい。

2006年7月

shiodomeitaliaクリエイティブ・センターのプレパーティの仮設会場shiodomeitaliaクリエイティブ・センターのプレパーティの仮設会場

大阪ATCのデザイン振興プラザで開催した「ニッポンデザイン界のマイスター展」は、会場始まって以来の来場者で溢れかえった。最終日の入場者は700名だったそうだ。この展覧会の基となったのは、朝日新聞から発行し爆発的に売れた「ニッポンのデザイナー100人」である。引き続き監修した「ニッポンをデザインした巨匠たち」もお蔭様で好評に売れているらしい。新潟のウルシヤマ金属工業から発売した調理器具「ireco」の発表会には、多くのマスコミおよび関係者に集まっていただいた。地方の会社のデザイン開発は忍耐を要するが、やりがいのあるプロジェクトである。

27日には「shiodomeitalia クリエイティブ・センター」の記者発表兼プレパーティを開催したところ600名もの人たちに集まっていただいた。気合を入れて、この日のためにテント会場を設営し準備を行った。結果は大成功で久々に懐かしい顔とも再会できた。この11月末のオープンに向けて、集中力を高めていかなくてはならない。

7月13日からは5年目になる「OZONE夏の大茶会」が始まる。また、13日には品川のコクヨホールで「PRODUCT DESIGN FORUM 2006」に出演。すでに夏がはじまっている。

2006年6月

高井戸の渡辺力邸にて高井戸の渡辺力邸にて

5月23日高井戸にある渡辺力さんのお宅にお邪魔した。レイ・イームーズ夫人に贈った時計の復刻モデル(写真)について、力さんのデザインコンセプトを伺うのが目的であった。私の矢継ぎ早の質問に怪訝な顔をするではなく、ゆっくり思い出しながら口を開いた。特に1957年の第11回ミラノ・トリエンナーレでの事など、聞いておきたかった。偉大な先達に直接お会いできる機会もそんなに多くない。戦後の動乱の中で意匠による新たな価値を追い求めた獅子たちの話は、すべてが均質化し同質化していく時代のなかで大変参考になる。まもなく監修にした「日本をデザインした巨匠たち」が発売になる。前作「ニッポンのデザイナー100人」が好評を得た為、その続編として発刊される。現役のデザイナー35名に登壇いただいたこの本の編集にたずさわったメンバーからは、「実際にお会いしてお話を伺い、改めてその存在、凄みを感じた」と話してくれた。

今月は、塚本カナエさんにデザインを依頼した調理器具「ireco」を発表する。都会で前向きに働く女性をターゲットに想定した製品である。また、月末27日には、ミラノ・トリエンナーレのディレクターを初め、イタリア関係者が集まり11月に誕生する「汐留イタリア クリエィティブ・センター」のプレス発表会とプレパーティを予定している。大阪港南では、大阪デザイン振興プラザにて「ニッポンデザイン界のマイスター展」。(6月18日まで入場無料)を企画構成した。睡眠不足をのぞけば、心地よい緊張感の続く月である。

2006年5月

安藤忠雄さんの建築空間安藤忠雄さんの建築空間に行列の出来る人ごみと響き渡る人の声はマッチングしないと個人的には思っている。次に来るのは何時の日か?

2月のオープン以来、相変わらず人が途切れることのない表参道ヒルズに足を運んだ。今回が三回目である。最近人ごみに出かけるのが億劫になったが、開催されている「ヴィム&ドナータ ヴェンダース写真展」を見る為には仕方がない。焼かれた印画紙に写る静なる描写の奥に人や音、喧騒が聞こえてくるようであった。藤原正彦著「国家の品格」ではないが、時間を静止して、自身の環境に散見する行為や情緒を考える良い時期なのかも知れない。その後、ディエチ・コルソコモ コム デ ギャルソンで見た帽子デザイナーのスティーブン・ジョーンズ特別回顧展は、なかなかの力作で感心した。スティーブンのインスピレーションの豊かさと再現されている緻密さ、美しさは、単なる帽子の枠を超え、作家の内面(知識)の豊かさが滲み出ている。ファッションブティックの新たな可能性を探る意味においても、川久保怜さんのアバンギャルドが健在なことを感じる意味においても、うれしい一時であった。

2006年4月

施工が完了して発表を待つ「Tokujin Yoshioka × Lexus L-finesse」会場施工が完了して発表を待つ「Tokujin Yoshioka × Lexus L-finesse」会場

今年もミラノサローネの時期がやって来た。私にとって今回は20年の節目の年に当たる。フィエラ会場も新しくなり、サローネがかつてのようにデザインムーブメントを打ち出す祭事として蘇るのか、単なる表層的なデザインイベントで終わるのか大事な節目である。予想では日本での異常な取り上げ方に反して、イタリア企業は模様眺めといった気配が感じられる。滞在ホテル界隈では、4月5日からの本場に向けて、入れ替え陳列作業が日夜行われている。ちょっと覗くと確かに仕上げの美しさ、上質さなど洗練度は格段に上がっている。しかし、星の数ほどある家具がこれ以上いるのか?存在するならば明確な理由を示してほしいという気分である。

今年もレクサスの展示展覧会にアドバイザーとして参画、昨夜でほぼ施工が完了し4月5日のオープニングを迎えようとしている。参加アーティストは、吉岡徳仁、木本圭子の二人にフラグシップカーLSの構成である。この展示会では、次代の可能性を模索するイノベーティブなコラボレーションを試みている。会場は「ミュゼオ・デ・ペルマネンテ」、5日の夜会場でお会いできることを期待して、また来週の水曜日には速報を掲載予定。

2006年3月

あらたなデザインの役割にしてついて語る、ステファノ・ジョバンノーニさんとパートナーのエリーザさんあらたなデザインの役割にしてついて語る、ステファノ・ジョバンノーニさんとパートナーのエリーザさん

ミラノ滞在中の予定をやりくりして、ステファノ・ジョバンノーニさんのオフィスを訪ねた。ステファノは、おもむろに口を開き最近のデザインについて語り始めた。このところ台湾、中国に渡航する機会が増えていること。そして、取り出した台湾の新聞「民生報」には、故宮博物館のためにミュージアムショップで販売するキャラクターデザインをしていること。すでにアレッシーと第一弾として30アイテムの開発が進んでいることを話してくれた。これまでの「モダンデザイン」はスローダウンし、代わりに地域の特徴を生かした「ローカリティデザイン」が主流になると断言した。日本でも経済産業省のバックアップのもと、地域ブランドの活性化策が顕在化している事例を前号で紹介した。再度、私たちの足下を検証する時期である。

2月の渡航の主目的は、今年の11月に汐留に誕生する「Japan & Italy Design Center」の打ち合わせのためである。多くの歴史を作ってきた「ミラノトリエンナーレ」の海外初の拠点が東京・汐留に誕生する。365日、日本にいながらにして、トリエンナーレのデザイン文化を体感できる。ご期待下さい。

2006年2月

写真はメゾン・エ・オブジェの「BITOWA」ブース写真はメゾン・エ・オブジェの「BITOWA」ブース

今回メゾン・エ・オブジェに参加して、この展示会の規模がほどよく充実していることを実感した。誰もが感じるように椅子だけの展示会や溢れんばかりのテーブルウェアの展示会では見るのも嫌になる。その点、このパリ・メゾンは展示品の量、質感、会場のサイズ、レストラン等付帯設備の充実度などバランスとれている。市内からRERの鉄道ラインの汚さとパリの底冷えさえなければもっと気分はとても晴れやかだったはずである。次の課題としては、デザイナーの存在にもっとフォーカスを当てれば、ポテンシャルは間違いなくアップする。また、フランス人の上品な色彩感覚、装飾性もいまの時代にマッチンングしている。

「ホテルライクな上質な生活」をコンセプトに開発し展示した「BITOWA」ブランドの評価も上々でした。後は確実に流通ルート(特にコントラクト)をつくり、漆のハイエンドブランドとしてよく、ホテルやゲストルームなどで使っていただきたいと願っている。ほんとうにデザインがリソースの確認から始まり、コンセプト、デザイン、パッケージ、ツール、ネーミング、カタログ、ホームページ、プレスリリース、ショップデザインまで、トータルに関わらなくてはならないことを強く実感しました。

読者からデザイン展の解説・批評など様々リクエストを頂いています。できるだけ応える方向で考えます。

BITOWA ウェブサイト
http://www.aizu-cci.or.jp/BITOWA/

2006年1月

ベッド、テレビスタンドから小物まで28アイテムを新たに開発した新ブランド「BITOWA」ベッド、テレビスタンドから小物まで28アイテムを新たに開発した新ブランド「BITOWA」

新年明けましておめでとうございます。昨日の日経新聞朝刊にBALSの15段広告が掲載されていました。この広告の「デザインは価値を創り出す。」「デザインは信じられる。」という文案が目に留まりました。デザイン界の長嶋茂雄と尊敬している黒木靖夫さんは、「デザインは実践である。」というのが口癖です。デザインが期待され、その成果が問われる2006年であると自分なりに位置づけています。

1月末に開催されるパリのメゾン・エ・オブジェで、デザイナーの塚本カナエさんとご一緒してきた会津若松の漆器の新ブランド「BITOWA」を発表します。欧州の方々にどんなふうに映るのか、いまから楽しみです。「ホテルライクで上質な生活の提案」をコンセプトに歴史に磨きあげられた職人技とデザイナー、会津若松の将来を担う三・四十代の経営者達から成るスキームで、ほぼ計画通り遂行できたのは嬉しい限りです。貴重な体験となりました。

今年は、このメゾンでの発表に続き、新ブランドの開発が進行中です。また、秋には汐留に新たなデザインセンターが誕生します。今年も全力疾走の年になりそうです。新たなデザイン環境を作り上げる為に、ざまざまの方々と連携し共働したいと思います。どうぞよろしくお願いします。