桐山登士樹が選ぶ 注目のデザイナー

COLUMN 樹幹通信 桐山氏の近況やデザインの話題をお届けします

2013年12月

左から林信行さんと森永邦彦さん左から林信行さん、森永邦彦さん

この一年多くの時間を費やして来たのは2015年5月1日~10月31日、イタリア・ミラノにおいて「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマに開催される「2015年ミラノ国際博覧会」日本館の広報・行催事の企画業務だ。12月17日に正式に発表されるので先に綴る訳には行かないが、私は終始一貫参加型の万博を提言してきた。もちろん箱や展示のデザインも大切な要素だが、重視するのは自分たちのテーマとして理解し、参加し次のアクションに昇華ことだと思っている。昔、師匠の黒木靖夫氏が「ウォークマンが何千万台も売れることより、ウォークマンで何を聴くかが重要だ」と何度も話されていたことを思い出す。機会をアクションに変える持続可能な万博が創出できたら関わった意味がある。
先日、長くお世話になっている某社の勉強会の講師にITのジャーナリストで5カ国語に精通する林信行さんと、毎回アバンギャルドなプレゼンテーションを行っているファッションデザイナーの森永邦彦さんのお二人を御呼びした。異色の組み合わせではあるが、それぞれが生命線として拘る企業の在り方、デザインの在り方に共通項が見出すことができ有意義だった。とかく目先のプロジェクトのみに力点が置かれる傾向が強いが、時代を透視すること、世の中をいい意味で裏切ること、そしてキャッチアップさせることなど、たくさん刺激をいただいた。デザインの可能性、デザインの役割を改めて強く感じる時間であった。

2013年11月

10月28日上海にて、ルイジ・コラーニ氏10月28日上海にて、ルイジ・コラーニ氏

移動の多い一ヶ月間だった。様々なプロジェクトが重なり、同時にレクチャーやファシリテーターを計7回行った。人も驚くが自分でもこれほど動けるとは驚きだ。しかし、スタッフの支えがあるから出来る事でもある。
富山県で21年間行って来たデザインプロデュースは、まだ志半ばではあるが確実に発芽しつつある。これまで足掛け4年注力してきたKanayaは、来年には開花できるところまできた。商品開発のスピードアップとメンバーのビジネスに対する欲がもっと募ればいい。三協アルミ社内にSACLAB(サクラボ)というラボラトリーを立ち上げた。もちろんネーミングは私が考えた。これからの日本企業の開発部門はラボラトリーにすべきだと思っている。異脳の交流、環境そして創造こそが、最も重要な時に差し掛かっている。SACLABは外部方の参加を積極的に受け入れ、新たな開発スキームに確立したい。今回アトリエ系の建築家5名に参画いただき、ご提案いただいたデザインは来春に製品発表を予定している。
この春のミラノサローネでお会いしたベニス・ムラーノで500年の歴史を数えるVistosi社の依頼を受けて、日本ではじめての展示会をAXISで開催した。ハンドメイドの高価な製品ではあるが、顧客との継続的な関係構築が日本市場のビジネスを左右する。また、某プロジェクトでは、上海に飛びルイジ・コラーニ氏と会議を持った。25年振りの再会でしたが85歳の年齢を感じさせない風格とエネルギーが漂っていた。
こうした様々な機会を通じて学ぶことは多い。ぶれないこと、継続すること、環境変化に柔軟なこと、そして何よりデザインは楽しいこと。そんな想いを綴りながら次のミッションの目的地ミラノへ向かっている。(機内にて)

2013年10月

三協アルミ社の工場を視察する永山祐子、鈴野浩一、原田麻魚の各氏三協アルミ社の工場を視察する永山祐子、鈴野浩一、原田麻魚の各氏

建築家やデザイナーにお会いする機会が多い。日々この人達のスキルをもっと活用したいと思い、さまざまな仕掛けを試みている。その一つがまもなく発表するラボラトリーのSACLAB(Sankyo Alumi Creativ Laboratory)、通称サクラボである。企業のデザイン部の枠を越えた新たなスキームを求めて、この初頭から練り上げて来た。
高岡に拠点を置く大手アルミ建材の三協アルミ社は、この街の経済にも大きな影響力を持っている。地域零細企業の多くが鋳物の型や部品、塗装等を担って来た。この会社が飛躍する事が高岡を支える事になる。どの地域でもそんな側面があるはずだ。
このラボの初回のメンバーとして声を掛けさせていただいたのが千葉学さん、鈴野浩一さん、禿真哉さん、永山祐子さん、納谷学さん、納谷新さん、原田真宏さん、原田麻魚さんの5組みの建築家である。春から工場見学や会議でそれぞれの考え方を共有しながら議論を行い、時に酒を交わした。そんなプロセスを辿りながらプロジェクトは自ずと密度を増して行った。建築家の意向を受けて三協デザイン部の面々も日増しに良好な関係が出来て来た。この新たなスキームから次に繋がる商品を生み出したい。
この春にMITメディアラボ所長の伊藤穣一さんにお会いした時、伊藤さんは「セレンディピティー(serendipity)」という言葉を何度も口にした。スマホに依存する情報化時代の中で、時に集まり、人の話に耳を傾け、自分の考えをのべる、そして新たな関係性を構築する事が重要だ。これからは仕掛けをどんどんプロデュースして行きたいと考えている。

【ご案内】「5組の建築家と考える“新しい境界”とエクステリアデザイン」
10/21(月)17:30−19:30(開場:17:00)
六本木アクシスギャラリーでフォーラム、その後パーティーです。詳細・お申し込みは下記にお願い致します。
http://www.axisinc.co.jp/building/eventdetail/268

2013年9月

メゾン・エ・オフジェ ジェトロ「J STYLE+」の会場構成メゾン・エ・オフジェ
ジェトロ「J STYLE+」の会場構成

8月の猛暑が終わり一息つく間もなく、今月からは目まぐるしく移動しなくてはならない。月曜日の富山での審査会から始まり、ロンドン、パリ、黒部、ミッドタウン、香港と9月半ばまで自席を暖める暇もない。9月のメゾン・エ・オブジェは、キュレーションした国内14社の海外進出の布石になるか結果が問われる。ミッドタウンのデザインハブで9月12日より24日まで行う「メインド・イン・トヤマのデザイン展」は、県内企業と首都圏デザイナーや大手企業との新しいカタチのマッチング会である。香港の「Hong Kong Jewellery & Gem Fair」は、業界各社の海外マーケット開拓の為に日本ジュエリー協会が行うプロモーションである。それぞれにビジネスを拡大し成長させる為の機会である。ボゥダーレス時代となり、構えているのではなく攻める機会としなくてはならない。
私は、デザインを活用した関係性を構築する展示会やプロモーションを担う事が多くなった。特に依頼される行政機関や団体・企業からは効果的な実施案とスキームが求められる。気を抜かず頑張りたい。また、最近こうしたケーススタディを本にしたいと思っているが、執筆の時間が何時取れるのか、共同で担ってくれるサポートなしには難しい。かつて「ニッポンのデザイナー100人」(朝日新聞社刊)を出した時の様に数名と組めば可能かもしれない。そして、12月の正式発表を目指して、ミラノエキスポのプランを日夜着々と進めている。

● Maison&Objet
http://www.maison-objet.com
● メイド・イン・トヤマのデザイン展
http://www.toyamadesign.jp/support_program/event.php
● Hong Kong Jewellery & Gem Fair
http://exhibitions.jewellerynetasia.com/9JG/

2013年8月

建築家の長坂常さん建築家の長坂常さん

9月6日から始まるメゾン・エ・オブジェでは、ジェトロ「J STYLE+」のキュレーターを担うことになった。会場は、もっともトレンディな場所であり、スペースの確保が難しいホール8「NOW!」に決定。会場デザインは、この機会を有効なものとすべくスキーマ建築計画の長坂常さんにお願いした。
ミラノもフランクフルトも世界の見本市は、ほぼ6日間の会期。この期間中に世界中の目の肥えたバイヤーさんを唸らせなくてはならない。彼らに「絶対扱いたい」と思わせなくてはならない。しかし、世界中どこでもモノが溢れ、こと先進諸国は消費疲労と経済の低迷が顕在化している。こうした中で長坂さんに依頼したものは、彼の時代を捉えるセンスであり、原石を磨きだす様な独特のデザインだ。最初の提案からお互いに熱い議論を繰り返し、最終プランは流石、長坂さんというデザインに辿り着いた。
これまでミラノサローネほか世界の主要都市で、様々なスペースプレゼンテーションを行って来た。こうした先進諸国で行う場合は、特にハイレベルで関心を呼ぶ上質なデザインと射抜く感性アプローチが必要となる。このコンテンツとスキームづくりが一番悩み苦しむ所である。
この後も東京、香港、ミラノでのプロジェクトを抱えている。共通するのは予算の少なさ。しかし、少ない予算でどう的中させるか、今日も悪戦苦闘の日々が続く。

2013年7月

ミラノ在住のデザイナー、椎名香織さんミラノ在住のデザイナー、椎名香織さん

今年の1月から「2015年ミラノ国際博覧会」日本館プロデュースを何人かのプロデューサーの一人として担っている。私の中の万博は、アポロ11号が持ち帰った「月の石」で話題となった大阪万博(EXPO70)であり、「人間・居住・環境と科学技術」をテーマとした国際科学技術博覧会、俗に映像博といわれた筑波万博が強く記憶に残る。遡れば、1873年のウィーン万国博覧会で「ジャポニズム」がブームとなり、その後画壇に影響を与えたことはよく知られている。また、1990年のパリ万国博覧会では、日本の伝統工芸品が数多く紹介される機会となり今日迄の源泉となっている。また、万博の歴史を振り返ると建築、デザイン、アートの諸先輩も重要な仕事をされている。比べられるわけがないが、自ずと背筋が伸びる仕事である。2015年のミラノ博のテーマは「食」である。個人的には、多くの建築家やデザイナー、さらにはものづくりに従事する人が参加できるプラットフォームを築きたいと思っている。人間の英知により持続可能な社会を創りだすことを求められている時代である。自ずと20世紀型の万博とは違うものを創出しなくてはならない。
話は変わるが、たぶん最初に“デザインディレクター”という肩書きを名乗ったのは私である。最近は、ずいぶん仲間が増えて嬉しく思っている。沢山のデザイナーを有効に活用できるスキームやビジネス、時に文化と関わる監督の様な仕事がデザイン界には必要だと思って20年前に付けた肩書きである。最近も様々なデザイナーの悩みや相談に乗っているが、中にはプロデューサーやディレクターに転身した方がよいと思う人もいる。写真の椎名香織さんは、先日ミラノでお会いした時にデザイナーを辞して、プロデューサーで生きることを進めた一人である。その後のFacebookでのやり取りでは「いずれにしても、桐山さんは責任者です。」なるほど、親身になって相談に乗るということは、その人の人生に踏み込むことだと、でも不思議に言い切ってしまう自分を変えることはできない。

2013年6月

ジョルジェット・ジュージアーロ(左)とワルター・デ・シルバ(右)ジョルジェット・ジュージアーロ(左)とワルター・デ・シルバ(右)

和田智さんに誘われて、代々木体育館で行われたNewGolf7の発表会に参加させていただいた。アルファロメオ156のデザインで知られ、現在フォルクスワーゲングループ全体のデザインの責任者を務めるワルター・デ・シルバと初代の生みの親であるジョルジェット・ジュージアーロが登壇するというので心が踊った。二人とも言わずと知れたイタリア人である。二人の言葉から改めて、日本人の精神的な美と伝統の美や細部に宿る日本の美について考える機会となった。そうだデザイナーは、美に強く関与している事を忘れてはならない。

6月6日からの三日間、AXIS GALLERY SYMPOSIAで行った「デザインウエーブin富山」の23年間の活動と富山プロダクトデザインコンペティション20回の足跡を紹介する展示フォーラムイベントは、多くの方にご参加いただき交流の機会となった。21年前、富山インダストリアル・デザインセンターの企画部長として着任した時、当時のY副所長から「行政は赤字事業だけは困るんだ。赤字を出す事業だけは行ってくれるな」と強く釘をさされた事を今でも鮮明に記憶している。そこで起案したのが「富山プロダクトデザインコンペティション」だった。当時の所長の黒木靖夫氏も強く推奨してくれた。このコンペや同時開催のワークショップからは44ものデザインが製品化された。このコンペを機会に発展したデザイナーと県内企業との新たなスキームは、富山スタイルのマッチング方式となり企業の経営戦略の一翼を担うまでとなった。私がよく引用する「風が吹けば桶屋が儲かる」循環のシステムである。この独自のマッチングを更に多くの方にご覧頂く機会をこの秋に六本木のDESIGN HUBで計画している。

● デザインウエーブin富山:http://dw.toyamadesign.jp/

2013年5月

COSMITのクラウディオ・ルーティ社長COSMITのクラウディオ・ルーティ社長

28年連続してミラノサローネに通うが、今年は次の時代を模索する大きな転換期であった。何と言ってもCOSMITの新社長のクラウディオ・ルーティ氏(Kartell社会長)の意気込みは強い。低迷、混迷しているイタリア経済の最中、ルーティ氏は、これまでのiSaloniからかつての正式名称Salone Internazionale del Mobile di Milano「ミラノサローネ国際家具見本市」(ビジネス対象)を強く打ち出しフォーリサローネとの違いを明確化しようとしている。事実、フラウグループも本会場の20号館に戻り、久しぶりにイタリア家具業界のオールスターが揃った。過去の栄光を取り戻せるか、年々激しくなる他国との見本市競争が起こっている。
一方、フォーリサローネでは4年ぶりにレクサスが復活した。街中では韓国勢の台頭が目についた。また、年々ランブラーテ地区やロッサーナ・オルランディは、場としての空気感を醸成させている。中心地では、ミッソーニ、エルメス、ヴェルサーチ、アルマーニといったファッションブランドやバカラなどが独自のブランディングを重ねている。サローネに集まる世界各国の富裕層やメディアに向けた展開はすっかり定着した。
デザインで一番興味深かったのは、トリエンナーレ美術館で行われたロス・ラブグローブのルノーのコンセプトカーである。ダッシュボードのメーター以外は、脇のスマホの様な端末しかない。こうした所にモノ(デザイン)と人間との新しい関係が刻まれている。既に成熟したモノ時代からパーソナライズ化された端末とそれを繋ぐ社会システムの新たな関係の時代にシフトしている。その関係性のデザインこそが、これからの重要なテーマである。

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  • RENAULTのコンセプトカーTwin’ZRENAULTのコンセプトカーTwin'Z

【お知らせ】 6/6、6/7、6/8の三日間、六本木・AXISシンポジアにて、「デザインウエーブ23年間の軌跡と展望」と題して、イベントを開催致します。また、プロダクトコンペティション20周年記念した会でもあります。詳細、およびフォーラム参加は下記URLからご予約下さい。
http://www.trunk-design.jp/2013dw.pdf

2013年4月

小野恵央さんと吉本英樹さん小野恵央さんと吉本英樹さん
五十嵐瞳さん五十嵐瞳さん

第一回目となるレクサスデザインアワードが発表され、選ばれた二組の若いクリエイターの作品がミラノペルマネンテ美術館で4月10日から始まる「LEXUS DESIGN AMAZING」で展示される。
「INAHO」(サム・ヘクト氏メンタリング)の吉本英樹さん、小野恵央さんと、「Making Porcelain With an ORIGAMI」(石上純也氏メンタリング)の五十嵐瞳さんの二組である。
会場で展示作業を行う三人と何度か話す機会を持つことができた。共通するのは、諦めない意欲とその上で自分たちの表現に拘り具現化しようとするエネルギーだ。また、将来展望を見据えて計画を立てているしっかり者だ。吉本さんは既にロンドンで活動の基盤を着々と作り、tangentという名で活動している。併せ、今回サテリテ会場にも出品している。一方、五十嵐さんは就職先の入社を一ヶ月遅らせていただき参加している。おまけに海外旅行が初だと言う。今回受賞したこの三人には、変貌するデザイン界を大きく変えるクリエイターの手本となって欲しい。同時にレクサスデザインアワードが海外で通用する人材の登竜門の場であり、交差するジャンクションとなっていって欲しいと切望する。
4年ぶりにミラノサローネに戻って来た「LEXUS - amazing flow -」は、企画チームと話し合い伊東豊雄さんに監修、平田晃久さんにデザインを依頼した。詳しくはサローネ速報で詳しく紹介したい。

● LEXUS DESIGN AWARD:http://lexus.jp/event/lda/result/
● JDNのミラノサローネ特集2013:http://www.japandesign.ne.jp/salone/2013index.html

2013年3月

カブール広場のカフェで水ともこさんカブール広場のカフェで水ともこさん

今年で52回を数えるサローネは、COSMIT新代表のクラウディオ・ルーティ氏の意向を受けて「ミラノ国際家具見本市」の名称に戻し開催される。この数年市内で開催されるフォーリサローネとゴッチャになっていた名称を正したいとする主催者の意気込みが伺える。ミラノサローネはビジネスの場として明確に機能させて行きたい様だ。
私は28回目のサローネとなるが、今年はいつもと違う気分で望む事になる。昨年まで5年間続いた「CANON NEOREAL」はひとまず幕を閉じた。今年は4年ぶりに復活した「LEXUS」をお手伝いしている。そもそも建築家を起用したスキームは、2004年にプランニングしキャスティングしただけに思い入れが人一倍強い。久しぶりの「LEXUS」を伊東豊雄さん、平田晃久さんのコンビに依頼した。最終局面を迎えスリリングな追い込みで心が躍っている。また、今年は久しぶりに他の会場もじっくり取材してみたい。
先週ミラノ滞在中、2001年のイタリア年からお世話になっているデザイナーの水ともこさんにお会いした。水さんは、私が企画した「幸のこわけ」のパッケージングの帯を文庫のしおりとして使っていただいていて感激した。何気ない繋がりが新たな闘志となる。

【お知らせ】 代官山のヒルサイドフォーラム&ギャラリーでクラウディオ・コルッチ 東京展『COLOURISTIC!』が開催されています(3月10日まで)。スイス人デザイナー、コルッチさんのデザイン思想"COLOUR × MATERIAL × DESIGN"「豊かに暮らすことは、豊かな色をもつこと」を軸に展覧会に協力しました。
クラウディオ・コルッチさんのご紹介ページはこちら

2013年2月

メゾン・エ・オフジェ、ホール8NOWのKANAYAブースメゾン・エ・オフジェ、ホール8NOWのKANAYAブース

補助金事業に何かと辛口の人がいる。当然国庫には金が少なく、この国の将来は決して明るくない。しかし、私は極めてポジティブである。補助金を有効に活用し、いずれ税金として納税出来れば良い。何時の世も投資家がいて、事業もアーティストも成長し街が国が繁栄したことを歴史が証明している。しかし、この投資を如何に有効なものとするか、持続可能なものにするか、その事業戦略は緻密でなくてはならない。
高岡銅器協同組合13社からなるKANAYAは二度目のメゾン・エ・オブジェであった。私が描く100点には、まだまだ満たない部分がある。8人のデザイナーと13社の企業が一枚岩になっているわけではない。永遠に無理なことかもしれないなと思う時もある。
今回のパリの結果は次の扉を開くのには充分な反応であった。特に伝統色の重厚な風合いと精度の高い品質に高い関心が寄せられた。しかし、デザイナーの要求を聞き入れなかった製品には、バイヤーはまったく関心を示さなかった。そうかと思えば、みんながよく知るブランドから大量発注に繋がる嬉しいオファーもいただいた。
今回の成果としては、GDPの伸びの著しい国が求める傾向が掴めた、世界的なブランドが求める製品の傾向も掴めた。国際見本市は様々な人と事が行き交う交差点ではあるが、自分たちが客観的な目を持っていれば恐るに足らない場所である。絶対成功するぞという思いが、パリ・メゾンで再び高まった。

2013年1月

参の松尾伴大さん参の松尾伴大さん

年末の28日に松尾伴大さんと久しぶりに意見交換した。松尾さんの本業は、ソニーのヘッドフォーンの音響エンジニアで日々技術革新に取り組んでいる。私も使わせていただいているMDR-EXシリーズはスタジオモニター用として、プロのミュージシャン用に開発され製品である。デザイン、音質、存在感がプロを満たすゾクゾク感がある。これぞ嘗てのSONYのDNAを継承する製品の一つと言えよう。技術者の純粋な発案、研究、拘りがデザイナーに伝播しSONYをつくりあげた。この会社の栄光を取り戻す為にも松尾さんには、技術者センスでカタチをデザインして欲しい。同時に新たなムーブメントを醸成して欲しいと期待している。一方、1999年学生時代に松尾さんと甲斐健太郎さん(ソフトウェアエンジニア)、下山幸三さん(インテリアデザイナー)の3名で結成されたは、新たな取り組みにトライアルしている。その詳細は、今年何処かで紹介される様なので楽しみにしたい。日本のデザインパワーを取り戻すには、技術とデザインの密なスキームを再構築することである。そして意欲的なトライアルを実践して行かなくてはならない。
最後に今年も出来る限り若い建築家、デザイナーを紹介していきます。また、日頃デザイナーのいろいろな相談にのっていますが、さらに多くのクリエーターと対話する機会を増やしたいと思います。どうぞ今年もよろしくお願い致します。