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INTERVIEW 23 Sony 「ファッションのデジタル化」を目指して-First Flight「FES Watch」

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INTERVIEW 23

Sony 「ファッションのデジタル化」を目指して-First Flight「FES Watch」

ソニー株式会社 新規事業創出部 杉上雄紀氏(Fashion Entertainments プロジェクト リーダー)

2016.01.29

ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」、その名の通りアイデアの「種」を促進させるプログラムだ。2015年7月にオープンしたクラウドファンディングとEコマースのサイト「First Flight(ファースト・フライト)」は、そこで生まれた事業を積極的に展開するためのプラットフォームであり、すでにいくつもの革新的な試みが商品化を実現している。

身につける楽しさをテクノロジーで体験、「ファッションのデジタル化」を目指して

SAPを通じて形になり、「First Flight」でユーザーに認知されたアイデアのひとつに、「FES Watch(フェスウォッチ)」がある。文字盤とベルトが電子ペーパーでできた腕時計で、ボタン操作で時計全体の柄を変えられるという不思議なアイテムだ。「First Flight」で大きな支持を得て、2015年11月からはリアル店舗での販売もスタートした。

ボタン操作などで時計全体の柄を変えられる「FES Watch」

ボタン操作などで時計全体の柄を変えられる「FES Watch」

新規事業創出部Fashion Entertainments プロジェクトのリーダー杉上雄紀氏は、エンジニアとして入社以来、ホームエンタテインメントのソフトウェア開発や新規商品を開発する仕事に携わってきた。「ファッションのデジタル化」というテーマを見出したきっかけのひとつは、2012年の東京ゲームショーだった。

杉上雄紀(以下、杉上)「熱気に溢れる会場を出てからふと、ほんの数十年前まではアナログだったゲームはいまやデジタルとなり生活にも浸透しているな、と思ったんです。それならきっと同じように、すでに人々が常に注目していても、デジタルになりきっていない業界があるんじゃないかと。その場ですぐには思い浮かばなかったのですが、翌日に東京ガールズコレクションのニュースを見て、ここには素材からデジタル化できる何かがあるかもしれない!と直感しました」

新規事業創出部 Fashion Entertainments プロジェクト リーダー 杉上雄紀氏

新規事業創出部 Fashion Entertainments プロジェクト リーダー 杉上雄紀(すぎうえゆうき)1982年8月生まれ、東京都出身。2008年東京大学大学院工学系研究科を卒業後、同年ソニー(株)入社、ホームエンタテインメント部門へ配属。テレビと連携するスマホアプリや新規商品の開発に携わる一方、ボトムアップの部門内アイデアコンテストのスタッフとして精力的に活動する。2014年4月から新規事業創出部で、社内スタートアップ「Fashion Entertainments」として活動を開始し、事業開発に邁進中。

そこで以前から注目していた電子ペーパーと、「ファッションのデジタル化」というテーマが結びつき、「電子ペーパーを布地のように身にまとうものになればおもしろいはず」というアイデアへと発展していった。とはいえ、すぐに事業化できるほど甘くはない。まずトライしたのが、社内で開催されたアイデアコンテストだった。

杉上「ソニーがファッション業界へ参入する要素はまったくありませんでしたし、できない理由はいくらでも挙げられます。でも、そこで諦めるのではなく、どうやったら実現できるかだけを考え、コンテストに出すことにしました。最初から優勝を目指していました」

しかし優勝することはできず、声をかけた仲間ともいちどは解散した。その後、ひとりで細々と開発を続けてプロトタイプも完成し、2度目のアイデアコンテストの挑戦では受賞することができた。それとは別に社長へプレゼンする機会も得た。「商品化したいから続けさせてください」と直接願い出た熱意を買われ、ちょうど立ち上がりの時期にあったSAPで取り組むチャンスをつかんだ。

杉上「当初から意識していたのは、電子ペーパーを素材に使う腕時計として、あえて便利じゃない方向にすることでした。なぜなら、テクノロジーを使って、身につける喜びや楽しさを体験してほしいから。僕らはファッション性を高める方向に、テクノロジーを活用したいと考えています」

時計全体の柄が変わる技術を駆使しつつも、外観の形状には腕時計の中立的なシルエットを残した。キャンパスとしての素材感を追求している。

「ファッションのデジタル化」が変えていけること

文字盤とベルトまで柄が変わる「FES Watch」のアイデアは、開発のスタート時から変わらない。一般的に四角いディスプレイを帯と丸とで構成される時計のシルエットの形状に加工する難しさや、曲げると柔らかくしなる仕上げの技術など、商品化するまでのハードルはいくつもあった。クオリティを高めるために、デザインファーム「TAKT PROJECT」など外部デザイナーの力も借りた。

「FES Watch」のパターンアイデア

「FES Watch」のパターンアイデア

杉上「SAPはオープンイノベーションの考え方を推奨していることもあり、デザインファームのTAKT PROJECTには、コンセプト構築段階から加わってもらっています。2014年秋の東京デザインウィークでは『Any Tokyo』に参加し、2015年4月には『ミラノサローネ』に単独出展しました。展示場所のランブラーテ地区のテーマが、”ファッションとテクノロジー”だったので、これは何としても!って(笑)。什器の制作はTAKT PROJECTに手伝ってもらって、輸出入の手配をしたり、現地では自分たちで展示壁を設置したり。デザイン文脈でどこまで通用するか、リアルな反響が一番刺激になりました。今後はまた海外での挑戦も視野に入れています」

社外での力試しによって商品化への道は確実になり、2015年7月「First Flight」のローンチと同時に予約販売をスタート、在庫を追加するたびに売り切れてしまうほどの人気ぶり。現在ではMoMAデザインストアや伊勢丹新宿店での取り扱いなどもはじまっている。さらに、ファッションのデジタル化を目指すプロジェクトは次の展開を視野に入れているようだ。

杉上「ファッションの要素は、色、柄、質感、形の4つ。将来的には、目に見えるすべての景色を色や柄として身につけられる体験を提供したいと考えています。街を歩いているときに景色が素敵だなと感じたら、その様子をすぐさま腕時計に模様として搭載できるような…。何気ない日常の捉え方を変えてしまう世界を実現してみたいですね」

「FES Watch」の構想段階のデザインワーク資料

「FES Watch」の構想段階のデザインワーク資料

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株式会社イマジカデジタルスケープ

1995年の創業以来、デジタルコンテンツのクリエイターの育成・供給、及びコンテンツ制作サービスをコアビジネスとして展開。現在では国内最大規模のクリエイター人材のコンサルティング企業として、企業とクリエイター、双方への支援を行っています。http://www.dsp.co.jp/