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プロダクトデザイナー鈴木啓太が選ぶベストバイ2016
“土地に根ざしたものって、おもしろいし魅力的”
プロダクトデザイナー 鈴木啓太

1982年愛知県生まれ。幼少期に古美術蒐集家の祖父が集めたコレクションに魅了され物作りを始める。2006年多摩美術大学プロダクトデザイン専攻を卒業後、2012年にPRODUCT DESIGN CENTER、THE株式会社を設立。過去から脈々と受け継がれてきた「物の歴史」を考証し、デザインにより「物の歴史を一歩進める」ことを目指している。好きな音楽はブラックミュージック。

http://www.productdesigncenter.jp/

竹のスツール

先日、台湾で買ってきたものです。台湾の街中で日常的に使われている竹製のスツールで、雑誌の『民藝』にも掲載されている一品です。柳宗悦が台湾民藝の視察に出向いた際に発見して絶賛した椅子で、その後、河井寛次郎やシャルロット・ペリアンにも影響を与えていきます。前から欲しくて探していたのですが、先日ようやく生産している工房に辿り着き、職人から直接買うことができました。

この椅子はとても良くできていて、使われている素材は竹だけ。竹を切って曲げ形作り、組んで構造にしています。とても軽くて、とても丈夫。捨てれば土に戻ります。余計なものが何もない、プリミティブな美しさがあります。友達のデザイナー達も「よくできているね」とビックリしています。台湾の南投県は「竹山」と呼ばれていて、いたる所に竹が生えていて、竹工芸が盛んな地域だから、こういう日常使いの簡素な椅子が生まれたのだと思います。

土地に根ざしたものって世界中にたくさんありますよね。例えばスペインには「バル」という文化があって、一軒一軒ハシゴしていくグラスホッパーのために、一杯だけサッと飲めるように、背の低いグラスが使われているのをサン・セバスチャンで見かけました。台湾を始め東南アジアは屋台文化があるためか、スツールが普及している。そういう風に、土地の文化風習から生まれた物はおもしろいし、魅力的だなと思います。誰のデザインでもない、長い時間の中で「できてしまった」デザインは本当に愛おしい。

■いま探しているもの・欲しいもの
ずっと欲しいと思って探しているのは時計です。今年スイスの高級機械式腕時計メーカー「HUBLOT(ウブロ)」の工房に招待され、見学してきました。すごく緻密で良く出来ていて、これは高価なはずだと納得しました(笑)。その時に思ったのは、機械式時計は工業製品でありながら土地に根ざした工芸品だなと。他に、イタリアの家具も同じ理由で、イタリアを代表する伝統工芸と言えるのだと思います。

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