ミラノサローネ特集 さまざまな企業やデザイナーの出展情報や見どころを紹介

REPORT | RIVA1920 フィロソフィーからのものづくり

RIVA1920 フィロソフィーからのものづくり

計画伐採材や老朽化した木の杭の再利用など、環境に配慮した企業姿勢が共感を呼ぶイタリアの家具メーカーRIVA1920

2012/07/04

レポーター:高原美由紀

RIVA1920は古くから木工業が盛んなイタリアの町カントゥで、1920年にひとりの家具職人から始められた家具メーカーだ。当初から無垢材の自然な仕上げにこだわり続け、培われた木工技術や素材の確かさ、環境に対する配慮の姿勢が多くの共感を呼び、世界的建築家やデザイナーが商品開発に参画している。今年も多くのデザイナーの作品を見ることができた。

企業姿勢としての素材選び

RIVAの特徴はなんと言っても素材にある。扱う素材のすべてが環境に対する企業姿勢を表している。一つは世界の森林を管理している団体から認証された計画伐採材の利用。老齢の樹木の伐採により若い樹木の成長を促し、新たに苗木を植えるといった森林保護活動の中で計画的に伐採が行われている。伐採された樹木はRIVAの工場で次の世代に受け継がれる木の家具として形を変えるのだ。まさに生態系の一部のような家具である。ブリッコレとカウリ材以外の全てのRIVA製品がこの計画伐採材を利用して作られたものだという。

  • シダー材の原木の良さをそのまま生かしたPAOLO NAVAデザインの「GLOBE」
    シダー材の原木の良さをそのまま生かしたPAOLO NAVAデザインの「GLOBE」
  • MICHELA&PAOLO BALDESSARIデザインのクリップを意味する「MOLLETTA」
    MICHELA&PAOLO BALDESSARIデザインのクリップを意味する「MOLLETTA」
  • BRODIE NEILデザインの「CURVE」
    BRODIE NEILデザインの「CURVE」

ヴェネチアの杭の再利用ブリッコレ

もう一つが、水の都市ヴェネチアを支える木の杭を再利用したプロジェクト。ヴェネチアは潟の軟弱地盤の上に何千万もの木杭を打ち込み、その上に板を敷き並べてできている都市である。老朽化した杭を再利用し新たに命を吹き込んだ家具がブリッコレシリーズである。

今年のサローネ会場では、ブリッコレで作られた原寸大の車が来訪者の注目を集めていた。これは世界の車デザインに影響を与えてきたデザイン会社、ピニンファリーナの新たなコンセプトカー「カンビアーノ」の原寸モデルである。

今年のジュネーブモーターショーで発表されたカンビアーノの内装には実際にブリッコレが使用され、6月にはロンドンのインテリアデザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞している。今回展示された原寸モデルは資源再利用の新たな可能性を示すコンセプトモデルとして作られた。

天板を水面に見立てたマリオ・ベリーニの長男クラウディオ・ベリーニのデザイン。その名も「ベニス」
天板を水面に見立てたマリオ・ベリーニの長男クラウディオ・ベリーニのデザイン。その名も「ベニス」
ピニンファリーナのコンセプトカー「カンビアーノ」原寸モデル
ピニンファリーナのコンセプトカー「カンビアーノ」原寸モデル
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数万年前から生き続ける木材、カウリ

そして素材として驚くのがカウリ材である。カウリ材とは、ニュージーランド原産の巨大な針葉樹でヒノキの原種にあたる。氷河期の時代に洪水で泥に埋もれたものの、その環境の特殊性によって品質を損なわずに今日まで生き続けていた樹木なのだ。

右の写真は45,000年前のカウリ材をスライスしたものをそのまま天板に使用したテーブル。幅2.1m、厚み11cm、長さは12mある。数万年もの時を経て朽ちること無く生き続けている“木”という素材の圧倒的な生命力と力強さを感じさせる。

カウリ材テーブル 45,000年前のカウリ材の無垢の天板
カウリ材テーブル 45,000年前のカウリ材の無垢の天板

手作業で進められる工場内

日本でRIVAを取り扱うarflexの主催でサローネ期間中に工場を見学することができた。さほど大きくない工場内は生産のライン化はされておらず、ひとつの家具を1人の職人が作るような体制になっていた。すべての家具が手作業によるオイル拭きで仕上げられているため、いわゆる塗装工程がない。オイルフィニッシュは環境に有害な揮発性物質を含まず、また表面に塗膜を作らないため製品化後も木が呼吸し続けられるという仕上げである。塗装だけでなく接着剤や製造工程においても一切有害物質を使用せず、製作過程で残材となる木片はパーティクルボードや燃料として利用され、ゴミはほぼゼロとのことであった。

職人によるオイル拭き工程
職人によるオイル拭き工程

日本では反りや割れの心配から敬遠されることもある無垢材であるが、イタリアではそれも自然の姿と捉えられ、最近は木の節がある部分を選んで作って欲しいというオーダーが増えてきているという。自然志向の商品や展示が目立った今年のサローネであるが、あまりに自然なRIVAのプロダクトは会場の中でも存在感を放っていた。ただ商品を売るのではなく、その物に込められたフィロソフィーをも含めて購入し使って欲しいという姿勢がうかがえる。その価値は物にして物にあらず。一貫したRIVAの企業姿勢とそこから作り出される物に強く心惹かれた。

Profile

高原美由紀

高原美由紀/スペースデザイナー

人をとりまくスペースを最小単位の“環境”ととらえ、人の心理や五感、人体寸法やその行動と空間の関係から、心地良いしあわせな環境を導き出すデザイナー。建築設計からインテリアデザイン、ディスプレイまでトータルなスペースデザインを手がける。インテリア関連講座の講師を務めるほか、海外のデザイン動向を視察し新商品の開発アドバイスも行う。有限会社カサゴラコーポレーション一級建築士事務所 代表取締役
http://casagora.net/