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「山口小夜子 未来を着る人」、未だ終わらない物語

「山口小夜子 未来を着る人」、未だ終わらない物語

時代の寵児、トップモデルとしての「山口小夜子」

2015/05/20

JDN編集部

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神秘的な東洋の美を体現するトップモデルとして世界のモードを席巻、国内に向けても日本女性の新たな美を提示した「山口小夜子」。モデルとして一世を風靡した後も、「着る」という行為をパフォーマンスにまで高める表現者として活動してきた。しかし、晩年の数年間、若い世代の先鋭的な表現者たちと、ファッション、音楽、映像、演劇、朗読、ダンスなどが混在する実験的な試みを行っていたことは、これまで十分に紹介されてこなかった。現在、東京都現代美術館で開催中の「山口小夜子 未来を着る人」は、「ウェアリスト(着る人)」と名乗った彼女の生涯を紹介しつつ、時代の先端で表現を続けてきた文化的遺伝子を未来へと渡すものとなった。

本展覧会は大きく2つの要素で構成されている。ひとつは、世代やジャンル、東洋と西洋、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドなど、異なるものを繋ぎ「SAYOKO」というジャンルを築いた「山口小夜子」の軌跡を辿るもの。もうひとつは、宇川直宏氏、山川冬樹氏、生西康典氏、掛川康典氏、エキソニモなど、彼女の身辺で活動した後、現在のシーンにおいて影響力を持つ表現者たちが、小夜子に捧げる新作インスタレーションだ。5章に分かれた展示内容をそれぞれ紹介する。

撮影:横須賀功光「資生堂『ベネフィーク』雑誌広告のためのオリジナルプリント」
撮影:横須賀功光「資生堂『ベネフィーク』雑誌広告のためのオリジナルプリント」
撮影:横須賀功光「資生堂『ベネフィーク』雑誌広告のためのオリジナルプリント」(2)
撮影:横須賀功光「資生堂『ベネフィーク』雑誌広告のためのオリジナルプリント」

序章 山口小夜子とは誰か

「小夜子のブレイン・ルーム」と呼ばれる展示スペースには、人形、本、スクラップブック、レコードなど、彼女が大切にした品々が並ぶ。学生時代からアンダーグランドなものへ傾倒し、独自の美意識を磨いていたことがうかがい知れる。

  • 「小夜子のブレイン・ルーム」展示風景 (1)
    「小夜子のブレイン・ルーム」展示風景
  • 「小夜子のブレイン・ルーム」展示風景 (2)
    「小夜子のブレイン・ルーム」展示風景
  • 「小夜子のブレイン・ルーム」展示風景 (3)
    「小夜子のブレイン・ルーム」展示風景

第1章 時代とともに—トップモデルとしての小夜子

「山口小夜子」の登場はまさしく彗星のようであっただろう。服飾学校の授業の延長でモデルを始め、本格的にデビューした翌1972年にパリコレクション出演、1974年にはアメリカ「ニューズウィーク」誌で「世界の4人の新しいトップモデル」として紹介され、あっという間にファッションアイコンとなった。時代はまさにオートクーチュールからプレタポルテへの転換期、高田賢三、三宅一生、山本寛斉といった日本人デザイナーの個性が欧米のファッション界で注目を集めた。ストレートの黒髪、切れ長の眼、少女と女性の間を移ろう「山口小夜子」の妖艶さは、多様化の時代においてクリエイターをひときわ刺激した。

  • 自身のポートレートと雑誌をコラージュ
    自身のポートレートと雑誌をコラージュ
  • 山本寛斎1979-80年秋冬パリ・コレクションのためのヘア&メーキャップ・デザイン画
    山本寛斎1979-80年秋冬パリ・コレクションのためのヘア&メーキャップ・デザイン画
  • 「ファサード」誌にて、ミック・ジャガーと。 (1)
    「ファサード」誌にて、ミック・ジャガーと。

前述のファッションデザイナーのコレクションをまとっての、沢渡朔氏や横須賀功光氏ら写真家とのセッションは、抜き差しならない真剣勝負の鬼気迫る迫力を感じさせる。

撮影:横須賀功光「資生堂『ベネフィーク』雑誌広告のためのオリジナルプリント」
撮影:横須賀功光「資生堂『ベネフィーク』広告のためのオリジナルプリント」
撮影:沢渡朔「山口小夜子」
撮影:沢渡朔「山口小夜子」
資生堂練香水「舞」ポスター
資生堂練香水「舞」ポスター

第2章 美をかたちに—資生堂と小夜子

前田 美波里氏やラッツ姉妹など、西洋的なルックスの「ハーフモデル」が占められてきた資生堂の広告に、黒髪おかっぱの日本人的容姿の「山口小夜子」が起用されたことで時代の空気が一変する。1973年、高田賢三氏デザインの赤いスーツを着た初々しい姿で、冬の「シフォネット」のポスターで登場以降、資生堂との専属契約は1986年まで続く。ここで、注目すべきはアートディレクターの中村誠氏の徹底した「美」へのこだわり。「山口小夜子」の美しさをいかに引き出すか、トリミングひとつとっても格闘の跡がにじみ出る。こうして振り返ると、この時代がクリエイターと企業とが研鑽しあった蜜月で、これらの作品は広告および印刷文化のひとつの頂点を極めたものだろう。

資生堂香水のポスター (3)
資生堂香水のポスター
中村誠氏によるトリミングの様子が伝わる (1)
中村誠氏によるトリミングの様子が伝わる

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