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アムステルダム市立美術館のバスタブのような新館
赤レンガの歴史ある本館とバスタブのような斬新な新館が調和するアムステルダム市立美術館
2014/07/09
レポーター:テメル 華代
アムステルダムにある大小さまざまな美術館の中で、ひときわ異彩を放つのが、ミュージアム広場に建つアムステルダム市立美術館です。2012年のリニューアルオープンで斬新なデザインの新館がお披露目され、地元の人からは「バスタブ」の愛称で親しまれています。
19世紀の本館、21世紀の新館
アムステルダム市立美術館は、カレル・アペルやアンディ・ウォーホル、マルレーネ・デュマスらの作品を所蔵する近現代美術館です。赤レンガのファサードと尖塔が美しいネオルネサンス建築の本館は、アドリアン・ヴィレム・ヴァイスマンによって1895年に設計されました。自然光を取り入れた展示室や、荘厳なインテリアが有名です。
1954年には、美術館の近代化と国際化を推進したウィレム・サンドベルフ元館長により、新館が増設されました。今や世界中の美術館でおなじみの白い壁は、サンドベルフ元館長がアムステルダム市立美術館から流行させたものです。応用美術や音楽、映像など、コレクションのジャンルも広がりました。
2003年になると再び、老朽化した設備の修復と、スペース不足解消のための工事がスタートしました。デザインを担当したのは、アムステルダム出身の建築家メルス・クローウェルです。増床部が撤去され、19世紀のヴァイスマン建築が美しく蘇り、また現代のニーズに適う機能的な新館(愛称:バスタブ)が増築されました。
「バスタブ」の正体
真っ白で巨大なバスタブのように見えるのは、広大な展示スペースを備えた新館です。一見するとかなり未来的な建築物ですが、いたるところにヴァイスマン設計による本館との調和の工夫が施されています。
建築家のメルス・クローウェルは、新館が本館の赤レンガを隠してしまわないよう、バスタブを宙に浮かせて地階をガラス張りにしました。バスタブの庇の高さも本館に合わせています。インテリアも壁材やライトフィルターを統一して、本館と新館をシームレスな空間に仕上げました。
軽やかな印象のバスタブは、鉄より5倍も強い複合素材のパネルで覆われ、飛行機の塗料でコーティングされています。サンドベルフ元館長へのオマージュとして、鮮やかな白一色に塗られました。クローウェルが「つやつや、華やか、真っ白」と誇る新館は、赤レンガが美しいヴァイスマンの本館の最高の引き立て役となり、かつ新館自身も花形のランドマークとなりました。
ミュージアム広場とのコラボレーション
今回のプロジェクトでは、アムステルダム市立美術館とミュージアム広場の関連性も重視されました。クローウェルは美術館建築が広場の景観を損なわないよう、展示ホールの大部分を地下に建設しました。エントランスは広場側に移され、美術館と広場を行き来する人の動線もスムーズになりました。広場と一続きになった前庭では、インスタレーションやパフォーマンスなどの野外イベントが催されています。
2014年には、アムステルダム市立美術館に隣接するゴッホ美術館のエントランスも、ミュージアム広場内に移設される予定です。クローウェルは、「これからの時代はミュージアム広場が単なる『街の真ん中にある芝生』に終ってしまわないよう、美術館同士がコラボレーションや野外文化イベントで盛り上げていくことになるだろう」と将来の展望を語りました。
Profile
テメル 華代/イラストレーター
1977年山形県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。アムステルダム・ワッカース美術アカデミー卒業。2001年よりオランダに在住し、絵画やイラスト、絵本の制作を行っている。
