第5回増田尚紀(デザイナー)
[桐山登士樹の推薦文]
筆者が増田尚紀さんのことを知ったのは、96年にニューヨーク近代美術館のキュレーター、パオラ・アントネッリが企画し好評を博した「ミュータントマテリアル・オブ・デザイン」の日本巡回展を手がけた時のことだ。この展覧会の為に編集された作品集のソフトカバーを飾っていたのが増田尚紀さんの作品「IQUOM」コレクション宝石箱であった。この表紙を飾った山形鋳物で造られた大小の器は、不思議な存在感を放っていた。生々しく有機的で、品がありずっしりと素材の重さを感じる作品であった。驚くべきことにこの作品が日本人の手によるモノだと知って、より印象を強くした。
地域に培われ継承されている技法をより高い価値に置き換えている増田尚紀さん。私たちが知らないだけで、日本にはそんな人がもっといるのかもしれない。この人たちの存在を筆者は、もっと身近にしたいと強く思っている。

増田尚紀 / Masuda Hisanori
[略歴]
1949年、静岡県浜松市に生まれる。大学卒業後、恩師である武蔵野美術大学教授芳武茂介氏のアシスタントとして5年間全国各地の地場産業のデザイン開発を手がける。1977年、山形市に移り住み、鉄、アルミニウム、ブロンズなどの素材を中心に鋳物のデザイン、製作、流通を一貫して手がける。1997年『鋳心ノ工房』を設立。
[展覧会]
- 1989年 AXISギャラリーにて「WAZUQU」展
- 1990年 「日本の美」展出品(フィンランド・レトゥレッティアートセンター)
- 1994年 「嗜欲の器」展出品(ギャラリーいそがや)
- 1995年 「現代美術とMutant」展出品(ニューヨーク近代美術館)
- 1995年 「Japanese Studio Crafts」展出品(ロンドンV&A美術館)
- 1995年 「DESIGN SAMPLING'95」展出品(トロント・ハーバーフロント・センター)
- 1996年 「refuse」展出品(マイアミ・ファインアートセンター、デトロイト、トロント、モントリオール、サンフランシスコを巡回)
- 1996年 「デザイナー×地場産業」展出品(松屋銀座店)
- 1997~99年 「refuse・ヨーロッパ」展出品(ドイツ、オランダ、ギリシア、スペイン他を巡回)
- 現在 社団法人 日本クラフトデザイン協会会員、東北芸術工科大学非常勤講師
[受賞歴]
- 1977年 18回全日本中小企業輸出見本市・中小企業庁長官賞
- 1985年 国際デザインフェア '85 キース・グラント賞
- 1990年 工芸都市高岡 '90クラフトコンペ奨励賞
- 1994年 美術工芸振興佐藤基金第11回淡水翁賞
- 1998年 第1回山形エクセレントデザイン・セレクション、エクセレントデザイン賞
[所蔵先]
- 1978年 オーストラリアナショナル美術館
- 1995年 ロンドンV&A美術館
- 1995年 ニューヨーク近代美術館
- 1996年 ロスアンジェルス工芸博物館