ヨーガンレール丸の内　2003年6月竣工　店舗

全体を六つの小部屋に分割して、それぞれの部屋の床・壁・天井すべてを一色で塗っていく。そして、部屋同士の境界線では、ぶつかりあう色をぼかしてみた。すると色が色に感じられなくて、空間が色のついた照明で満たされたようにみえてくる。小部屋を横断しながら移動すると、ピンクやブルーなど、それぞれの色のもつ雰囲気に気分が満たされ、軽い酔いのような心地よさに＜いつのまにか＞浸っているのだ。しかし、ふと目にはいる商品は、日光に近い色温度の照明によって、いわば天然カラーに輝いている。部屋といういれものと、その中にはいっているものとが、違う色の光でそれぞれに照らされているかのよう。そんな日常的にはありえない光景が、さらに酔いのような気分を少しだけ深化させる。

• 撮影：阿野太一

• 217.61平米
• 東京都千代田区丸の内3-4-1　新国際ビル1階

アパートメントI　2007年3月竣工　集合住宅

東京都心にある約48平米の敷地に、1フロア約25平米の床を5層重ねた集合住宅を設計した。階段と廊下の面積を最小限にしたところ、コアの位置が階によって変化し、ロの字型とコの字型平面が交互にあらわれるプランが生まれた。それを利用して、南面に隣家がせまる下階の生活の重心を道路側（北側）にシフトさせたり、エレベーションに多様性をあたえたりしている。外周はすべてガラス貼りとし、ガラス側にも生活の道具等が並ぶようなインテリアを想定した。室内と街の風景を視覚的に隣接させることで両者を一体的にみせ、それにより、どちらもすこし乱雑であることがむしろ楽しげに思えるようなインテリアをつくりだそうとした。

• 撮影：阿野太一

• 127.54平米
• 東京都渋谷区

スモールハウスH　2009年7月竣工　別荘

「敷地」はセカンドハウスとして利用されている古い農家の母屋の裏庭。そこには見たくないほどでもなく、積極的に見たいほどでもない中途半端な景色が広がっていた。母屋、その奥の離れ、緑色のフェンス、黒いフェンスと手前に石灯籠といった要素がお互いに無関係にただただ存在しているだけ。そこで、これらの要素の「無関係の関係」を断ち切ってみることにした。風景の中にいろいろな変化点をみつけ、それらにあわせて正方形平面を配置した。さらに中を対角線で間仕切ることで、例えばルーム1からは小川のみが広がり、バスルームからは黒いフェンスと灯籠のみの風景が広がるといったように、4つの部屋から見える風景がそれぞれに明確な特徴をもつようにした。海や山などの主役になるような要素がない中で、周辺に広がる風景のすべてを受け入れつつ、その中の要素を分類・編集することで、360度すべての方向に対してピクチャーウィンドウをつくりだそうとしたわけだ。そうしてできた、外に対して驚くほどに開かれた開口部から見える風景は、最初に出会った時からは想像できないほど生き生きとした魅力にあふれるものに変わった。

• 42.25平米
• 群馬県高崎市

Dior Ginza　2004年10月竣工　外装

この計画は内外装の改修で、ファサードは穴をあけた10ミリのアルミ板で覆われている。穴は2種類あり、大きさの違いでカナージュとよばれるディオールのパターンを表し、奥にある壁にも同様のパターンを小さくしたものをシルク印刷しているので、夜になると大きさの違うパターンが折り重なって見える。外装はある程度の規模を超えると、施工や風圧や地震などといった要因に対してシステマティックな工法が必要になるが、このファサードではそうした仕組みのためのディテールをほとんど見せていない。支持材が隠れる程度の開口率におさえること、アルミ板は下地を必要としない厚みを選択すること、目地の存在をかき消す穴の大きさを選び取ること、またその穴を通してパネルのファスニングを可能とすることなど、建築的な「部分」を隠蔽するためのあらゆる手段をオーバーラップさせながら、建築の大きさをもつ面をつくりあげようとした。

• 撮影：阿野太一

• 東京都中央区銀座5-6-1

ハウスO　2009年　住宅

都内に建つ家族4人のための住宅。戸建て住宅と小さな会社や工場が混在し、規模やボリューム感に統一感がないようなコンテクストに対応するため、一方からは真四角の建築、それ以外の方向からは大きな屋根をもつ建築にみえるような形態とした。陸屋根のボリュームから落ちる陰の形をそのまま外部と中庭の屋根の形態に適用しているため、ある時間帯だけ周辺や中庭がとてつもなく明るくなる。のっぺりとした風景の中で、メリハリのある時間が流れる家になればと考えている。

• 撮影：乾久美子建築設計事務所

• 168.30平米
• 東京都大田区

フラワーショップH　2009年11月竣工　店舗（日比谷花壇日比谷公園店）

都心の公園に建つ小さな花屋。老朽化した店舗を同規模のものに立て替えた。敷地のある日比谷周辺には石貼りのゆったりした規模のビルが建ち並んでいるが、そのビル群をミニチュア化したような計画だ。とはいっても高さはかつての店舗に揃えた7.5mというささやかなもの。そして広さは、やはりかつての店舗の床面積100平米弱を細切れにした小さな建築群なので、階高7.5mの空間が、内部からは、まるで大規模なアトリウムのように感じられるものとなっている。

• 撮影：阿野太一

• 189.12平米
• 東京都千代田区日比谷公園1

浅草文化観光センターコンペティション案　2008年　東京都台東区

通常は1カ所に固めて計画されるエレベーターや階段のコアを、小さく細切れに分解した。そしてそれぞれのコア（一般的には垂直方向に一直線にのびる）を各階でずらしながら配置して、各階のコアの配置を全て異なるような計画にした。各階にばらばらとばらまかれたコアは、一見すると邪魔なものにみえる。しかしこれらのコアは、各階の平面を複数のエリアに分節する壁の代わりとなる機能を果たしている。例えば3階では、コアが観光客のための展示室を囲んでおり、そのまわりにある空間は台東区役所の支所となっている。あるいは6階では、区民のための会議室がコアによって囲まれており、そのまわりには観光客のための展望室がとりまいている。

• 撮影：乾久美子建築設計事務所

Tasaki Ginza　2010年4月竣工　外装（田崎真珠銀座本店）

ファサードの改修。全体を覆う2.1m×0.9mのプロポーションのサッシュはどれひとつとして同じものがない。枠の見附、見込み、仕上、ガラス種類をそれぞれに数種類用意し、それらを掛け合わせながら千以上もの種類のサッシュをつくろうとしている。生物の種の中にも多様性があるように、同じようでありながらも少しずつ違うサッシュが並べることで、周辺の雑多な風景の中にとけ込みつつ、際立っているようなものにすることを考えた。

• 撮影：阿野太一

• 東京都中央区銀座5-7-5