生命の徴─滋賀と「アール・ブリュット」─

「アール・ブリュット」とは、もともと《生(き)の芸術》と訳され、正規の美術教育を受けず、発表や評価への願望からではなく、人間の生の根源にねざす創造の衝動から生まれてきた芸術を意味している。フランスの画家ジャン・デュビュッフェ(1901-1985)が定義づけたこの美術の概念は、こと日本国内において、独自の展開をしていることは注目に値する。アール・ブリュットのひとつである、障害のある人々の造形活動に目を向けてみると、滋賀県の福祉施設で行われてきた、これまでの取り組みが浮かび上がってくる。
1つの出発点として挙げられるのが、戦後間もない1946年に大津市に設立された近江学園での、粘土による造形活動である。その活動は、教育的な営みとして、かつ職業訓練の場として始まったが、活動の中からは知的障害児たちの手による驚くほどのユニークな造形が誕生していく。それは、粘土が自由な造形を導く素材であったこと、そして敢えて教えることをせず彼らの創造性を信じこれに委ねた優れた指導者が関わっていたことと、無関係ではない。
その表現に対して大きな可能性を感じていた施設の職員や指導者たちは、施設での造形活動を即売会や展覧会という形で発表していった。彼らの地道な取り組みはその後、アーティストとのコラボレーションによる新しい展開にも繋がっていく。また、1981年より始まった「土と色」展は、障害者の造形活動と、それに伴う指導のあり方について、今なお大きな影響を与えている。
これらの活動を経た90年代以降、福祉施設で生まれた作品の一部がローザンヌのアール・ブリュットコレクションなどの国外の美術館でも紹介されるまでとなった。
このような豊かな歴史を持つ滋賀県において、2019年、滋賀県立近代美術館は「アール・ブリュット」を新たなコレクションの核に加えた「新生美術館」として生まれ変わる予定である。
本展は、新しい美術館の誕生に向けたステイトメントを示す展覧会として、滋賀県の福祉施設のユニークな造形活動の歴史を概観しながら、その先進的な取り組みがどのように継承され、展開してきたのかを参照作品を含めて展覧するものである。表現という可能性を知り、それによって広がった作り手たちの世界。本展は、彼らの生命(いのち)の徴(しるし)である数々の作品とその魅力に出会う、素晴らしい機会となることだろう。
【関連イベント】
●講演会「右腕を失ってアール・ブリュットと三橋節子」
講師:椹木野衣(美術批評家、多摩美術大学美術学部教授)
日程:10月17日(土) 14:30~16:00
場所:滋賀県立近代美術館講堂
●トークイベント「滋賀の造形を語る」
講師:吉永太市(元一麦寮寮長)
座談会
講師:谷村太(元滋賀県立近江学園支援員)、山下完和(やまなみ工房施設長)
聞き手:服部 正(甲南大学文学部准教授)
日程:11月1日(日) 14:00~
場所:滋賀県立近代美術館講堂
開催期間 |
2015/10/03(土)~2015/11/23(月) ※イベント会期は終了しました
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時間 | 9:30~17:00(入館は閉館30分前まで) |
休館日 | 月曜日(ただし、10/12および11/23は開館、10/13は休館) |
入場料 | 一般1000円/高大生650円/小中生450円 |
参加アーティスト | 伊藤喜彦、小笹逸男、小川滋、鎌江一美、菊池一恵、小林祥晃、澤田真一、高嶺格、田島征三、谷口ちよ子、西川智之 他 |
会場 |
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会場電話番号 | 077-543-2111 |
会場URL | http://www.shiga-kinbi.jp/ |
詳細URL | http://www.shiga-kinbi.jp/?p=18971 |