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デザインのチカラ

デジタルスケープ

コンランとのコラボを通して描くドコモの世界観

── スタジオ・コンランには、まずシリーズの紹介とターゲットの理解を求め、1年半くらいかけ、日本のマーケットにふさわしい提案を求めてきた。

堀田氏と笹原氏
堀田峰布子氏(左)と笹原優子氏(右)

 堀田氏 「日本とヨーロッパの違いはありますが、デザイン言語は変わらないので、大きなギャップはなく、むしろデザインに対する考え方が非常に合理的だと感じました。ちょっとしたこだわりのポイントとして、充電接点が普通は四角いところが丸形状だったり、スピーカーホールの穴をそろえたり、というデザインではセオリーですが日本のマスプロダクトでは実現しづらい形状を確実に実現されています。意味のある形が、ヨーロッパの合理的風土で生まれたという感じでしょうか。
 通話ボタンが端末のシルエットになっているのも、先方からの提案。キー全体には段差と傾斜がついています。普通であればナビキーの下にソフトキーがあり、テンキーが並ぶのが一般的な構成なのですがそうではなく、そのあたりの使いやすさとデザイン性をいかに両立させるかという点で、マシンインターフェースに注力しています。176度に曲がった形状は、手に馴染み、取り上げやすい利点もありました」

コンラン「L-04B」
「L-04B」

── コラボレーションモデルは、その世界観をどう表現するかが勝負どころだ。「L-04B」には、アイコンにも‘くすぐる’仕掛けがあるなど、ちょっとしたお気に入り感をもってもらうデリケートな工夫がある。

 堀田氏 「こういったコラボレーションモデルで一番大切にしているのは、どういうターゲットに向けてどういう効果を得るためにこのモデルを進めるのか、という最初のゴールの定義。その端末のミッションが明確であることです。その点がはっきりしていたので、この機種も、こういう人が買うんだよね、という“顔”が見えます。ミッションが明確だったからこそ、メーカーであるLGの開発担当者の方ともこの世界観を大切にしていこうという同じ方向を目指して、全員がマインドを高くもっていられました」

── 一般的に二つ折り携帯電話の開閉角度は165度。それよりは大きく開いた、愛嬌ある印象の仕上がりは、スタジオ・コンランがインテリアショップというバックグラウンドをもつ効果も大きいといえる。
 また、日本ではポピュラーなシャイニーカラーとは趣向の異なるカラーバリエーションも目を引く結果となった。

堀田氏
堀田氏

 堀田氏 「基本的に、年に2回カラー調査を実施し、夏と冬に毎回1200サンプル程度を集計しています。この機種は、ターゲットやシリーズごとに好まれる色のデータをもとに提案していただいたスタジオ・コンランらしいカラーと、具体的にターゲットをイメージする色、シリーズに見合った色を統合させて決定しました。マットやソリッドなカラーは特に、メタリックカラーが好まれる日本の市場にはなかった提案でした。最終的に採用したカラーも、パールが配合されてはいますが、マット調です。シャイニーなフィニッシュではないところには、ヨーロッパらしさも感じます」

── 結果として、特別な機能や操作性を備えているという機種ではないが、非常にベーシックな携帯電話に仕上がった。現在の市場では、「よくぞこのマイナスの思想で完成できた」との評価も高い。過剰な機能ではなく、ターゲットに合わせたUIを絞り込んだ結果だ。スタジオ・コンランが手がけた、待ち受け画面や一部の内蔵コンンツと共に、外観だけではないトータルな世界観を体現している。

コンラン「L-04B」
「L-04B」

 堀田氏 「私自身は、メーカー出身のプロダクトデザイナーなので、メーカーのデザイン担当者も優れたデザインができることは知っています。
 今回、コラボレーションという手法を採用したのは、ドコモのお客様にとって、現時点で最も有効な手法の一つだったからです。今後も続けるのか、時々に応じてコラボレーションするのかは、先の戦略次第だと考えています。
 我々のような部署ができたのは、ドコモが変わっていく流れの一端かもしれません。使い勝手はもちろん、お客様に提供できる価値を方向づけて発信していく大きな使命がある中で、端末を供給してくださっているメーカーの方に、ドコモの方向性やデザイン戦略を共通のデザイン言語で伝えることが、私の役割だと捉えています。たとえていえば翻訳者、でしょうか(笑)。ドコモの方向性を、うまくメーカーの方々に伝えていくことがミッションです」

笹原氏
笹原氏

 笹原氏 「スタジオ・コンランとのコラボレーションでは、“おもてなし”というポリシーが、机の上に置いたときの持ち上げやすさや、電話しやすさ、少しお辞儀をしたようなその愛着のあるフォルムにも表れていると思います。デザイン性を追求しすぎて使いにくい携帯電話ではなく、両者のバランスが大事。ユーザーインターフェース企画部署には、マシンインターフェースも含めて見ている人間と、プロダクトデザインを見ている人間が両方いるので、均整のとれた良い製品を目指せるのが利点です」

── 「0.5歩先」を意識したユーザーインターフェース企画は、携帯電話端末そのものだけでなく関連するすべてのものに反映されている。こうした取り組みが結果的に、業界全体を牽引する新しい流れを生み出していくに違いない。

プロフィール

株式会社NTTドコモ プロダクト部 ユーザーインタフェース企画担当
笹原優子 SASAHARA Yuko
1995年ドコモ入社。
1998年よりiモードのサービス仕様および端末のUI策定に携わる。
以降も端末の商品企画、サービス仕様策定やUI策定を主に担当し、2008年7月より現職。

株式会社NTTドコモ プロダクト部 ユーザーインタフェース企画担当
堀田峰布子 HOTTA Mihoko
2000年よりメーカにて、海外向け携帯電話のプロダクトデザインに携わる。
2006年から通信事業者にてPHS端末及びデザインに関わるディレクションに携わる。
2009年より現職。デザインマネージメントを担当。

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