常に人を中心にした革新性を
── 現在、携帯電話市場にはAndroidをOSに採用する機種が続々と登場しつつある。スマートフォン開発には最適で、最新の技術を取り入れられるとあればさらに、Android携帯電話が主流となるに違いない。その中でどのようにソニー・エリクソンとしてのオリジナリティを表現するか。デザイナーだけでなく開発にたずさわる全員が、常にHuman Centric Designへ立ち戻りながら進んできたという。
鈴木氏 「プロダクト、カラー、UIすべてが重なりあってひとつの製品になるので、当然デザインも連携しながら作業を進めます。とはいえ、業務の進行上、必然的にプロダクトデザインからまとまっていくという仕方がない部分があるのも事実です。
ですから、スタートの前段階で出来る限りの議論を行い、どれだけコンセプトや意識の統一をはかってからはじめの一歩を踏み出せるかが非常に重要です。その意識次第で完成度には違いが顕著に表れます。今回のXperiaでは、完成したUI画面がプロダクトデザインのイメージとぴったりでした。プロダクトを担当した立場としてもスムーズに受け入れられ、感激したのを覚えています。」
浜氏 「特に今回、テーマをデザインの中だけで完結させないで、社内の商品企画やマーケティングの人間まで全員が共有できていたことは大きいでしょう。デザイナーも設計担当者も同じ立場で議論できる環境にあれば、同じゴールに向かって進んでいくことができます。社内組織でいうと、全員がユーザー・エクスペリエンスのクリエイティブに関わる大きな部署に所属して、ひとつの機種をつくっていくところで対等な立場にあることが良かったと思います」
── 「僕らは最後の手描き世代」と自嘲気味に語るお二人だが、常に進化する技術を取り入れ、新しい発想を製品としての具現化に結び付けてきたバックボーンには、しなやかな柔軟性が感じられる。彼らの後ろに続くデザイナーへは何を期待しているだろうか。
鈴木氏 「デザイナーは考えをビジュアライズできる技術をもった人たちだと思うので、自分が思ったことを自由に形にしてほしいと思います。そのためには、日常のなかの些細なこと、当たり前だと思われていることについても、これでいいんだっけ?という疑問や意識をもちながら生活してほしいですね。そうしたことに気付くのが大事で、そこには新しいものが発想できる可能性がたくさん潜んでいるかと思うんです。
たとえば同じことをする場合でも、ほんの少し考え方をかえるだけで、ものすごく楽しいことに生まれ変わるのかもしれない。携帯電話に限らず、生活のなかすべてのものに目を向けて、何をどう変えたら心地よくなるか…新しい発想はそんなものの見方から始まると思います。
それと、常にユーザー目線に立って、その人たちがどう楽しんでくれるかを考えること。なので、僕はできるだけ人の観察をするよう心がけてますね。あまり意識し過ぎて歩いていると変わった人間に見えてしまうのが玉にキズですけど(笑)…そういう意味では学ぶスタイルなんかも、著名なデザイナーを知り、そこから学ぶのも当然大切なことなんですが、目指しているようなデザイナーにあまり固執しすぎると、真似事に陥ってしまう危険性がありますよね。むしろ、自分の目の前にあるものがなぜその形になったのか、というような背景を見抜く力のほうが大事かもしれません。普段の生活にたくさん転がっている創作のヒントを自分なりの切り口で磨きあげる、僕はそんな考え方でデザインしています」
浜氏 「GUIの場合では特に何でも実現できるソフトがそろっていますから、自分で描いたデザインがそのまま画面に表示されるし、色もそのまま再現されます。その中でじゃあいったい何をやりたいのか、はっきりした方向性を自覚していることが大切。たとえば、日頃、携帯電話を使っていて気に入らない部分があったとしたら、こう変えてみようというのを自分で描いて動かせるくらい、自由にできています。だからこそ、自分の思うようなGUIをどんどんつくっていくのが楽しいと思える人には向いている世界かもしれません。まずは、自分の手を動かしてみてほしいですね」