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デザインのチカラ

デジタルスケープ

ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ株式会社
Design Producer 鈴木茂章氏/Alignment Art Director 浜達也氏

ソニー・エリクソンのAndroid携帯「Xperia™」

左:鈴木氏、右:浜氏
左:鈴木茂章氏、右:浜達也氏

── ソニー・エリクソンが2009年、同社初のAndroid携帯電話「Xperia」を発表した。日本市場での発売開始は2010年4月1日。新年度早々、大きな注目を集めている。
 新しいユーザー・エクスペリエンスを提案する端末として注目されるアプリケーション「Timescape™」と「Mediascape」は、同社がデザインコンセプトから一環して取り組むUX(ユーザー・エクスペリエンス)の体現にほかならない。また、コンパクトなボディには4.0インチワイド液晶を採用。手にフィットするフォルムは、細部にまで美しい曲線が意識されている。
 鈴木氏は主に外観をデザイン、浜氏はGUIデザインの実装に特化して、モデル企画時からプロジェクトに関わってきた。同期入社のふたりは「premini®(ドコモ)」「URBANO BARONE(au)」などを、共に手がけた仲だ。
 ソニー・エリクソンは、本社機能こそイギリスに拠点を置くが、デザインを含めた開発はスウェーデンのルンド、アメリカのサンフランシスコ、中国の北京、そして日本の東京という4カ所にあり、それぞれにデザイナーが在籍している。2010年に発表する製品群も、デザインセンター全体でスタディを重ね、どの機種でもデザインランゲージが揃うよう、拠点を横断してデザイン開発する土壌ができている。

 鈴木氏 「今回のXperiaについては、我々日本チームが主体的な役割を果たしましたが、グローバルなメンバー全員ですべてのデザイン開発を行いました。我々は東京にいるから日本向けの製品デザインだけしているということではなく、定期的に交流を図りながら、デザインランゲージやデザインの方向性を詰めていきます。ですから、デザイン審議にグローバルのメンバーが加わることもあります。具体的には、通常デザインが決定していくまでに経る、モックアップやUIの画面について、電話会議を行うスタイルで審議が繰り返されました」

浜氏

 浜氏 「サンフランシスコで先行して作られたGUIのコンセプトは、実装段階になってくると電話だけではお互い伝わらないこともあるので、向こうに行ったり、逆に日本へ来てもらったりというやりとりを繰り返して、実装に結び付けています」

── プロダクトデザイン面では、2010年のデザインフレームワークを構築することから始まった。まず‘Form Follows Function(形態は機能に従う)’という定説に立ち戻り、そこにもう少しエモーショナルな要素として‘desire(欲望)’をプラス。このふたつを組み合わせて構築するのが、常に人が中心にいる‘Human Centric Design(ヒューマンセントリック・デザイン)’。明快で心地良く、かつエモーショナルに訴えかけるデザインを目指した。
 そのなかで2010年のテーマとしてかかげたものが、‘Human Curvature(人間的な曲線/ヒューマン・カーヴァチャー)’と‘Precision by Tension(緊張感による精密さ/プレシジョンバイテンション)’。外観およびUIにもいかされるデザインコンセプトとして、4拠点のデザイナーが各々のアイデアを具現化する基本に据えた。一例をあげるならば、Xperia本体背面のS字カーブとフラットな液晶面がそれぞれ、Human CurvatureとPrecision by Tensionを表現している。

Xperia
Xperia

 鈴木氏 「プロダクトデザインでは、グローバル市場に展開するからといって特別な意識はありません。大前提となるコンセプトのHuman Centric Designについて、今回はHuman Curvatureをより深め、手にしたときの心地よさなどを追求して形状のスタディを重ねています。検討用モデルを各国でつくることもあれば、デザイン拠点であるルンドでディスカッションすることもあります。Xperiaは、当初のデザイン案からそれほど大きく修正した点はなく、設定したターゲットにどこまで近付けるか、という検討が中心だったと思います。

 もちろん各国デザイナーで感覚には差があります。ヨーロッパのデザイナーは非常に細部のデザインに気を配る、繊細な視点をもっていますし、逆に日本のデザイナーは、このデザインで何を表現したいのかというコアな部分を大切にする傾向があるんじゃないでしょうか。幅広い視野での意見が交わされますし、お互いが気づかなかった面が明確になるので、非常におもしろいですね。だからこそ、最初のテーマ設定を大切にする価値があるともいえます」

── カラーについては、デザイントレンドや社会情勢からキーワードを抽出してカラーに反映したトレンドチャートを、毎年、作成している。今回のXperiaはハイエンドな機種に位置づけられることから‘Connoisser(目利き/コノーサー)’というテーマが付加された。

 鈴木氏 「たとえば、優れた手技をもつ職人がつくる上質な靴のように、見る人が見ればその良さが分かるというようなレベルを目指そうということです。その文脈で決定したカラーが黒と白の2種類で、背面だけしっとりとした質感に仕上げた黒「センシヤスブラック」と、「ラスターホワイト」という白。今回はアンドロイドOSを採用しているため、非常にさまざまな新しい経験ができるということもあり、何もないピュアな白と、すべての色が混ざりあってできる黒、その両極を抽出し、それぞれで目指せる上質さを求めました。

鈴木氏

 カラーも東京からいくつか推薦案をスウェーデンにもっていったのですが、色が違ってみえるんですよ。欧米人は眼球の色が違うから日本人とは見える色も違うようですし、空気のせいか僕ら自身も東京で見ていた色と違って見えるのを実感します。室内の照明などという単純な問題ではなくて、空気や光そのものが違うんですね。

 僕自身もデザイン段階でスウェーデンにいき、実際にディスカッションしながらスケッチを描いて細かい部分を検討したり、実際にモックを制作してみたりしました。次のステップではそこに設計者も加わって実際にボタンを押してみた感触はどうなのか、という議論もします。液晶画面以外はフラット面がなく、すべて3次元曲線で構成されているので、一部分がデザイン変更になると設計はすべて変更しなくてはならなくなるんです。お互いに相当苦労しましたが、Human Curvatureを、より強調できたと実感しています」

Xperia
Xperia側面
Xperia
カラー「センシヤスブラック」
Xperia
カラー「ラスターホワイト」

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