エモーショナルなツールとしての携帯電話を提案
── 佐藤氏がNECの携帯電話に関わったのはドコモN903i、鮮やかなバーミリオンオレンジ色が印象的なシリーズから。
コンセプトに始まり形状のデザインを統括するのはもちろん、プロモーションのテレビCMやポスター撮影にも立ち会う日々を送っている。
「NECの携帯電話としてこれから大切にしたいのは“感じ”、そして“感じさせること”。作る側は市場を感じなきゃいけないし、作ったものを市場に感じさせないといけない。技術もデザインもその他関係部署が力を連携させないと良いものはできません。
そのためにたとえば機種ごとに、“ユニバーサリティ、ハピネス、トレンド、エモーション、エコロジー”といったキーワードを設定し、定めた方向性を守りぬけるよう、キーワードをマトリクス化したマップに置き換え、各機種のカテゴリーを明確化します。そういった、営業や企画、現場の人、トップの経営陣とも共有認識をもてるような仕掛けをデザイン側から行うことが必要です」
── 具体例を挙げると、2007年に発売したN705i、N705iμ、N905i、N905iμは “リッチ・ファッション・ウェアラブル”と“カラー・マテリアル・フィニッシュ”を軸にとったマップ上で、それぞれのテイストを住み分けているのがわかる。
「今年発売したシリーズでは、ターゲットを20代へ下げ、これまでやってこなかったストリート、スポーティ系を意識したキーワードを中心に、N906i、N906iμを展開、アパレルやインテリアブランドとのコラボレーションによる機種も充実させています。
また新たにソフトバンクからは、30代男性をターゲットにメタルの素材感を重視したハイエンド薄型タイプの820N、20代女性をターゲットにしたカラフルで柔らかい印象の821Nを発表しました。1世代前のメタル感とは違うセグメントをきちんとおさえる領域を狙った結論です」
── どちらも久々となるソフトバンクへのNEC参入を強くアピールしている。さらに9月には女性雑誌『グラマラス』とのコラボレート機種も発売予定だ。
「モデル数は多々ありますが、デザインでいかに意外性や異なるイメージを生み出せるかが鍵で、それはより安定したビジネスにつながるはずです。
アーティストと違い、インハウスデザイナーである僕らは企業としてのソリューションを十分理解した上でデザインによって答えをどう出すかが求められている。コンピュータやネットワークの会社であるNECだからこそ望める技術を、デザインでも生かせると確信していますから」
── クリエイティブスタジオは発足当初の5人から現在は30人に増員。
なんと、修学旅行や社会科見学がクリエイティブスタジオを訪れたり、佐藤氏が出向き、中学生や高校生に直接授業を行うこともあるという。
「PC98からのユーザーもいれば、携帯電話Nシリーズの愛用者もいますが、それ以下の世代、つまり10代のユーザーを今後獲得していくために何をするかが課題となっています。デザイン部門だけれど、企業の可能性を上げられるのであれば様々なトライをしていきたいですよね。
同様に、モックアップの制作でも一流の技術をもった工房に依頼したり、ファッションの流行分析や動画制作会社など、アウトソーシングを上手に利用することで、関わってくれる人たちの力を存分に発揮してもらうことも仕事のひとつです」
開発中には各現場を奔走するため快適なオフィスに留まってばかりもいられず、新機種発表のキャンペーンが始まれば休日もお構いなし。しかし、そうして佐藤氏がフットワーク軽く動き回ることが、周囲のデザイナーや技術者の意識を引き上げる大きな牽引力となっているに違いない。