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12カ月のパリ
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第14回
La nuit blanche 白夜

 update 2003.11.12
レポート : 浦田 薫 / アート&デザインジャーナリスト 




土曜の夜から日曜の早朝まで、夜通しパリの各所でイベントが開催された10月4日。パリが眠らないのなら、パリジャンもあくびをしながらでも徹夜に専念せざるを得ない。パリ市の発案で、2002年から始まったイベント La nuit blanche (白夜)は、去年の反省点を改善して、今年は6名のアートディレクターが、6つの散策コースを提供した。 【写真 1】


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【 1 】 9月中旬以降から、街の各所に貼りだされたイベントポスター
去年は、初回で順路も準備されなかったこともあり、どこの場所も入場が殺到し、夜中の交通渋滞もあったほどである。多くの観衆が、興味本意に行列を試みたが、待ち時間が2〜3時間と、東京ディズニーランドがオープンした当初の人気アトラクション並みで、結局、街中の人混みにもまれただけで帰宅し、悔しさと疲労感を感じたことに違いない。

筆者も、会場内で開催されたイベントには、一箇所も入場することができずに、喉が渇いても、近所のカフェやレストランが賛同して営業時間を延長する訳でもなかったため、「こんなイベントは、パリ市による計画性の無い企画にしか過ぎず、2度と開催されないだろう」と思ったほどだ。さらに昨年のイベントでは、パリ市長であるドラノエ氏がイベント訪問中に刺傷される事件が起きたので、尚更、今年はやらないだろう、と確信していた。

しかし、メディアや一般人からの評価は思いのほか好評であったようであり、今年の模様を見ていると、今後もますます力量を発揮していくかのようである。 【写真 2・3】


2003年10月5日(日)零時を回る頃、パリ市が提供した資料によると、市内には100万人が繰り出していた。

「物騒な世の中と言われる昨今、こうして市民たちと楽しむ時間を設けることで、社会は和むと思われます。普段、芸術に疎遠であったり、アクセスしたくても時間や金銭的な余裕が無い人々に、パリ市は無料で各所を開放します」という、選挙演説のようなドラノエ市長の説明はあまり納得できないが、一晩だけのわがままであるのなら、素直に耳を貸した方がいいのかもしれない。

ただ、こうした一般大衆を相手にした文化イベントが増えている中で、才能ある芸術家たちの存在が薄れていく傾向も感じられる。パリ市の文化予算から支出される内訳に、大衆を相手にした本イベントや、夏に開催されるセーヌ川沿いを浜辺風に演出する「パリ・プラージュ」などには、短期間で膨大な金額が費やされている。その一方で、パリ市美術館での展示会への予算が抑制されている事実を隠す訳にはいかない。芸術は、無料にして多くの人々が詰め掛けるから価値が出るものではない。価値が分かる人間が集まるから、価値があるのである。芸術から、そうした純粋な価値観を奪ってしまったら、何も残らないと思われる。

もちろん、パリ市もその点はお見通しであると願うので、割り切った観点から大衆を尊重しようとする姿勢でいるのだろう。


冒頭から、厳しい観点を述べたが、今年の散策ルートをご紹介することにしよう。夕方から冷え込み始め、小雨も降り出したので、近所のイベントを覗いてみることにした。6つのコース:東、西、南、北、右岸中央、左岸中央の中の、西ルートを辿ってみた。

エッフェル塔を眺めるのに、絶好の場所でもあるトロカデロ広場の階段下では、フランクフルト・バレエ団の振付師、ウィリアム・フォーサイスの作品「City of Abstracts」が上演された。この作品は、画面の前に集まった観衆が備え付けのカメラに納められ、数秒すると画面に映るという仕組だが、単純に映し出されるのではなく、波打つようにデフォルメされた容姿である。「見る」「見られる」を意識した都会のダンスでもある。 【写真 4〜7】






【 2 】 2002年の白夜より、パリ市19区近辺

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【 3 】 同、パリ市13区近辺

【 4 】 ウィリアム・フォーサイスの作品 「City of Abstracts」。静止した画像から変化が生じる

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【 5 】 ゆっくりと波打つように変容していく様子

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【 6 】 自分の姿が映し出されるまで動かない観衆

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【 7 】 その後に見たエッフェル塔も変容している!?




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