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“ウィンドーショッピング” ─ お店の前に立ち止まり、ショーウィンドーを眺めながら中にディスプレイされている商品についてあれこれと思索する。日本では、ショーウィンドーの前に立ち止まって中を覗き込む人の姿をあまり見かけることがないかもしれない。ここイタリアでは、人々は皆ウィンドーショッピングが大好きである。ショーウィンドーを眺めることはもちろん、立ち止まって覗き込むように見ることさえもタブーなことではなく、普段ごく当たり前にどこにいても目にする光景である。洋服のお店に限らず、靴屋、食料品店、パティスチェリア(お菓子屋)、お肉屋の前でさえもショーウィンドーの中にある商品を見つめている。ショーケースに並べてあるお肉を食いるように眺める姿には、「いったい何を考えて見ているのか?」の文字が浮かぶのだけれど。お客はウィンドーに飾られている商品を充分吟味して、お店のドアを開け中へ入っていくわけである。それ故、ショーウィンドーはお店の一番大切な広告塔。とりわけディスプレイにも力が入ることになる。
前置きが長くなってしまったが、今回はミラノの中の高級ショッピングストリートとして有名なモンテナポレオーネ通り、スピーガ通り、その通りをつなぐサン・アンドレア通りに面するお店のショーウィンドーディスプレイから、ミラノのモード情報をお届けする。ちょっとミーハ−ではあるが、ガイドブックでお馴染みの地区である。実はミラノに住んでいながらこのあたりに行くのは、日本から友人が来た時くらいである。その為久々に出かけたのだが、ウィンドーの洋服にくぎ付けになってしまった。もちろん、簡単に手の出る金額ではないため、まさにウィンドーショッピングになったのであるが・・・。
それぞれのブランドイメージを凝縮したようなショーウィンドーであるが、とりわけ今回はヴァレンティノのウィンドーに興味を惹かれる 【 写真 1〜3 】 。それぞれのウィンドーのコーナーに、洋服をまとった妖精が舞い降りたかのようである。蝶の羽の背中部分とブルーのグラデーションのついたバックパネルの組み合わせがなんとも素晴らしい。妖精の世界に入り込んだかのような錯覚を覚えるディスプレイ。ため息の出るとはこのことかと思わせる、その洋服の色とカッティングの美のバランス。『真夏の夜の夢』の世界である。その他のお店は映像でお楽しみを。
今回撮影するため、辺りが暗くなる頃に出かけた。今はサマータイムのため、暗くなるのは夜9時半頃。昼間の人通りはすっかり消え、まばらに歩く人の姿が見えるくらいである。その中に食事へこれから行くのか、ドレスアップしたご夫婦が仲良くショーウィンドーを眺めている。眺めるその先には白のディオールのノースリーブドレスがあった。ご婦人にはちょっとモード過ぎるのではと思うドレスであったが、その横にいる紳士の顔は真剣に吟味している。微笑ましく思うと同時に、二人が洋服のデザインについて議論している姿に驚かされる。ミラノはヨーロッパの中の京都とでも言うべきところ。着る物に関しては人一倍気を使うイタリア人。その人一倍洋服にうるさい人達に選んでもらう洋服を、ショーウィンドーで見せる訳である。
一晩の食事のための洋服を真剣に選ぶ。その洋服になるためにデザイナーがデザインする。それをショーウィンドーに飾る。選ぶべき洋服として見てもらえるようにディスプレイする。立ち止まって見てもらえるようにウィンドーに飾る。ショーウィンドーの中には、そのお店のとっておきと、また同時にアドバイスが潜んでいる。全ての人がショーウィンドーの中のものを買うことは出来ないだろうが、そのセンスは得ることが出来る。今回ショーウィンドーを見ながら、私は想像の中のショートトリップを満喫することが出来た。
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【 1 】
VALENTINO〈ヴァレンチノ〉


【 2 】
VALENTINO〈ヴァレンチノ〉


【 3 】
VALENTINO〈ヴァレンチノ〉

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