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第18回
“もし、飛立ちたいなら、幸せを考えるだけでいいよ”

 update 2003.07.16
レポート : 佐藤 充 / 建築デザイナー  


今回のレポートは、繊細で内気なイタリア人アーティストの個展をご紹介します。この個展は彼の誕生日に行われました。アーティストはマッシミリアーノ・チェッコリーニ。普段はバーで働いています。なぜ今回私がこのまだ無名のアーティストを題材として取り上げたかと言いますと、彼の作品を通じて、その隣にある現実が見えてくるような気がしたからです。
アートに限らず、今のご時世は肩書き社会と言え、○○のアカデミーを卒業して、○○のコンテストで入賞、などという事が重要視されているように思います。このことは、ある側面ではとても重要にも思えますが、それだけでは判断できない部分があることも事実です。美術学校に通って、芸術に正面から向い、勉強して様々なテクニックを身につけて、自分を表現するなり新たな境地を開拓する。こうのような正攻法だけが芸術なのでしょうか? 前置きはこれ位にして実際に彼の作品を見ていきましょう。

彼の作品には題名がないので、作品の古い順にお見せします。












作品の解説はあえてしません。また、作成された年月日も書けません。これは、作品に年月日やタイトル、サインなどが入ってないからです。

これらの作品を見て、皆さんはどう思われましたか? 少しバックグランドのお話しをします。

まず、皆さんも気付かれたこととは思いますが、彼は美術学校には通ったことはなく、基本技術がありません。そして、彼の作品はとてもキッチュです。作品を良く見ると、既製の物を使用して作品を作り上げている事が見てとれます。キャラクターのコピーや、市販されているサクランボの模型や、有名人の写真、等々。これらは一歩間違うと著作権に引っ掛かるような物もあります。しかし彼はこれらの既製品を使いながらも、既成概念に捕われない自由な感覚で表現しています。これは見方を大きく捉えると、色鉛筆や絵の具などを使って絵を描くことと変わりがないと見ることが出来ます。

芸術、デザイン、音楽、など様々なジャンルにおいて、“コピー”、もっと極端にいえば“パクリ”というものが存在します。もちろん、パクリは良くないことだと思いますが、余りにタブー視されるが故に自由な制作まで制限されてしまう可能性もあります(これらはひとえに、特許や著作権というお金に関わるものがあるからだと思いますが)。

ある雑誌で見たのですが、ニューヨークでアーティストが“本物の排泄物”(もちろん大きい方)を作る、長さ10メートルもある機械を作成した、と載っていました。着眼点や“排泄物”を作り出す過程は、確かに“アート”であり、ユニークで楽しいとは思いますが、その機械から作り出された物はどうするのでしょうか…。 きっとこの他にもたくさんの奇を狙ったアートが山ほどあるでしょう。人と異なる事をして注目をしてもらいたいのでしょうか? それともそれを表現したかったのでしょうか?

彼の作品は、それらのどれにも当てはまらず、ごく私的な感情、ごく内向的な表現に過ぎない作品です。それは彼がこの作品達を全く売る気がないことや、作品名や年月日、サインがないことにも象徴されていると思います。また、この個展も個展としてではなく、彼の誕生日会に飾る、という、最も個人的な事で他の人の目に触れたに過ぎません。このように全くの個人的な活動にも関わらず、この個展では多くの人が彼の作品を評価していました(お友達的な評価は全く抜きで)。その中でも、“緑に囲まれた所にいるてんとう虫”と“サクランボの木”は、やはり多くの人に評価されていました。私は美術の専門的評価は分かりませんが、私も個人的にこの2つの作品はとてもいいと思います。専門家がこれらの作品をどのように評価するのか、とても興味があります。

理屈を抜きにした一番根源的な美術の評価である、“この絵か好きだ”とか、“綺麗だ”という要素を、彼の作品のいくつかは持っているように思えます。もちろん、これは全くの個人的感覚であり、各人によってその評価の仕方が異なることも事実です。ただ、“何処の誰々が評価し、たくさんの人が欲しがるこの世にただ一つのもの”という、プレミアとしての評価、すわち、投資としての美術評価ではなく、もっとシンプルに美術品を評価できる環境、土台も必要なのでは、と思います。

最後に、レポート冒頭の写真は誕生日ケーキの上に書かれた詩です。“もし、飛立ちたいなら、幸せを考えるだけでいいよ”。とてもシンプルでありながら、意味合いの深い言葉に聞こえてなりません。

今、彼は映画のシナリオ作りに夢中になっています。これまた全くの個人的映画で彼に起ったラブストーリーを書いています。



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