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ミラノサローネ特集 2009
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LEXUS レポーター

日本産業デザイン振興会
秋元淳
会期/2009年4月22日(水)〜27日(月)
会場/ミラノ・トリエンナーレ
(La Triennale of Milano/Galleria Architectture B + Corridoio B)
総合ディレクター:喜多俊之
主催:財団法人 日本産業デザイン振興会
http://www.g-mark.org/milano2009/
日本産業デザイン振興会 JAPAN DESIGN SELECTION 2009



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週末と平日を問わず、会期中つねに来場者が途切れることのないミラノ・トリエンナーレの会場で、5〜6名のグループ客が興味ぶかそうに眺めるのはパソコンと接続してDJプレイが可能なUSBターンテーブル。とあるカップルが嬉々として試しているのは、独特な三次元形状を描く新潟産のアルミ製ステッキ。

日本企業が生み出すプロダクトデザインをテーマに、ミラノ・サローネでの三回目の展覧会となった「ジャパンデザインセレクション」展。今回初めて、大手企業とともに中小企業やベンチャー企業がこの企画に参加した。90点以上の出展品の中にはケータイやデジカメ、自動車、インテリア用品などに加え、高齢者向けの歩行補助車や建設用測量機器、監視カメラといった、ミラノ・サローネの舞台にはなかなか上がりにくいであろうカテゴリーの製品が数多く含まれ、来場者の注目を大いに引いていた。

今年のミラノ・サローネでは、ここ数年来の流れを継承して、エコロジーとデザインの関わりを打ち出す姿勢が随所でみられた。しかし「ジャパンデザインセレクション」展はそれとは異なるスタンスから、デザインがいまの社会で成しえる可能性を示すことに挑んだ。





50年近い伝統を誇るミラノ・サローネに日本企業が本格的に参加するようになって10年にも満たないが、インテリア分野の枠を超えて、デザインが私たちの暮らしのあらゆる場面で重要な役割を担っていることを伝えるのに、サローネで日本企業が果たしてきた役割は大きい。

椅子の新しいバリエーションを発表するヨーロッパの一流デザイナーがいる一方で、新しい使い勝手の家電製品を提唱する日本企業のデザイン部がある。そうした構図のもと、次代の生活シーン創造に向けたデザインのエナジーを日本から世界へ発信すべく、今回のべ54社の参加を得て「ジャパンデザインセレクション」展が開催された。

この54社には、先述のようにグローバルに活動する大手企業はもとより、全国各地で事業を展開する中小企業が数多く含まれている。それぞれに、得意とする分野で長年にわたり製品開発を手がける企業もあれば、近年になって新たに参入した企業もあり、その守備範囲も多岐にわたっている。それらいずれにも共通するのは、いかなる領域であっても、デザインを重視することで企業ブランドを明確に打ち出し、世界のマーケットで優位性を獲得しようとする姿勢だ。「ジャパンデザインセレクション」展では、それをデザインの“イノベーション&トラディション”というテーマで表現した。




たとえば、今回出展された製品の中でも来場者から多くの関心を集めたエレコムのUSBハブ[ 写真5 ]。複数の機器を接続できるUSBハブを視覚的にもわかりやすい形状に表している。実際に機器を接続した際には、それぞれのコネクタのサイズが多少異なっていても干渉しない合理的なつくりで、使い勝手に優れる。こうした理にかなった設計が、ユーザーの直感に訴えるウイットに富んだデザインでまとめあげられている点で、多くの人に使いやすさを予感させたのだろう。




さらに、寺岡精工の業務用はかり「ルクシード」[ 写真6 ]は、クラス感のある店舗などでの使用を想定しており、外形だけでなくデジタル表示されるフォントまでもトータルにコーディネートされたデザインがやはり多くの来場者の関心を得ていた。

このようにパーソナルユース、業務用途を問わず、その製品がターゲットとする層に対してどれだけ充実したデザインのアプローチが取られているか、そのことに対して来場者はビビッドに反応する。言い換えれば、暮らし中のどのようなシチュエーションで真価を発揮するデザインであるか、人々はきわめて注視しているのだ。 だから商品だけでなく、コンセプトデザインに対する関心も高い([ 写真7 ]は富士通のコンセプトモデル "STYLE FREE, SELECT FREE")

ミラノ・サローネといえば家具やインテリアデザインがメインで語られることが多いが、日々の生活を構成するシーンは千差万別であって、それぞれの局面でデザインが効果を発揮することで、総体としてのライフスタイルが充実するという視点は、私たち日本人がもっと学んでよい姿勢であるように思う。




そういった中で、私たちが今回ミラノ・サローネでの反響を特に注目していた出展品のひとつに「ANOBAR」[ 写真8 ]があった。これは、インターネット上のさまざまなコンテンツをディスプレイにスクロール表示できる情報機器で、おもにホームユースを想定されている。

通常、私たちがインターネットのコンテンツを見るツールはPCかケータイが多いが、「ANOBAR」はリビングルームで使われることを前提に、テレビと並んで設置される機器としてインテリアライクに仕立てられたプロダクトだ。機能面では、2ちゃんねるのコンテンツをテレビと同期させながら視聴できるなど、ある種日本的な成り立ちが特徴だが、この「ANOBAR」は今回の「ジャパンデザインセレクション」展が国外で初のお披露目であり、果たしてミラノの場でどのようなリアクションがあるのか、大いに関心をもっていた。

とはいえ、これまでにない新しいタイプの製品に対する具体的な反応を得るには、一週間足らずの展示期間では時間が不足していることは論を待たず、ここで結論めいたことまでは言えない。しかし、インターネットと個人との関わり方に新しい提案を投げかける「ANOBAR」のようなプロダクトが、ミラノ・サローネを舞台にその存在意義をアピールしたことに対して、当事者として不思議な興奮を覚えたのは事実である。
「ANOBAR」に限らず、こうした攻めの姿勢こそ、日本のデザインがこれからさらにミラノで発揮していくべきなのではないだろうか。




「ジャパンデザインセレクション」展は、6日間の開催期間で30,000人近い来場者を数え、好評のうちに終了した。現代日本のカルチャーシーンに対する関心が依然として高いミラノで、日本の日常のデザインをリアルにつかみ取れる企画として反響を呼び、来場者は日を重ねるとともに目に見えて増加した。

私たちが日ごろ日本であたりまえのように接している製品の数々も、外の人々には実はまったく目新しい対象であるものが多い。それらをまとまった規模でプレゼンテーションすることは、文化的・ビジネス的な意味で効果が大きいだけでなく、ミラノ・サローネという国際舞台のもと、日本のデザインが生活のあらゆる場面に対して有効な提案を行えるだけの潜在力と実効力をもっていることを世界にアピールしていく挑戦にほかならない。こうした挑戦は、時の経済状況にいたずらに左右されることなく継続していくことが重要だろう。

さらに今後は、それぞれのデザインを生み出す企業の経営者やデザイナーの存在と、彼らの考え方を直に伝えられる場を、ミラノ・サローネで設けることも充分意義があるように思われる。

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