ミラノサローネ特集 さまざまな企業やデザイナーの出展情報や見どころを紹介

キヤノン NEOREAL IN THE FOREST

キヤノン NEOREAL IN THE FOREST

中村竜治・ミントデザインズ・志村信裕がつくりだす、森の「静」と「動」

2012/03/21

JDN編集部

イタリア・ミラノで開催される世界最大規模の見本市「ミラノサローネ」が、今年も4月17日から22日まで開催される。2008年より継続して「NEOREAL」をテーマに出展を続けるキヤノンより、今年の詳細が発表された。キヤノンは過去4年、石上純也氏や平田晃久氏、トラフ建築設計事務所など若手クリエイターを起用したインスタレーションで、国内外から話題を集めてきた。「NEOREAL」は、キヤノンの技術をアピールする場であると同時に、日本の若き才能が世界の舞台にたつ貴重な機会となっている。

今年のテーマは「大地に広がる森林」

キヤノンが今年のテーマに掲げるのは「NEOREAL IN THE FOREST」。森林にひそむ神秘性や生命力を、「静」と「動」を感じさせる二作品で展開する。建築家の中村竜治氏と、ファッションデザイナーのミントデザインズが手掛ける二つの立体スクリーンに、志村信裕氏の映像作品を投影するインスタレーションとなる。
4月の本番に先駆けて事前プレゼンテーションが行われ、その世界観の一部を体験することができた。

中村竜治× 志村信裕「spring」

1つめの作品は、中村竜治氏と志村信裕氏による「spring」だ。ふたりで名付けたという「spring」の名称は、“春=始まり”や“湧き上がる”の意味を持つ。

中村氏が手掛ける立体スクリーンは、直径0.3mm・総延長約25kmのピアノ線が均質な格子状に組まれた、幅8m、奥行5m、高さ2mの自立する設計だ。中村氏は「希薄だが、密な構造体となる。面ではなく空間で光を受け止めたい」と語る。

中村氏は今までにも、繊細なエレメントが複雑に交わる独特の空間やプロダクトを発表し、注目を集めてきた。2010 年に東京国立近代美術館で開催された「建築はどこにあるの?」展での作品を見たNEOREAL総合プロデューサーの桐山登士樹氏が、この世界観をNEOREALでさらに追及したいと考え、今回クリエイターとしての参加を依頼した。

投写する映像は、気鋭の映像作家・志村信裕氏が手掛ける。志村氏は「NHK デジスタ・アワード2007」グランプリ受賞で頭角を現し、アーティストとして多数の展覧会、アートプロジェクトに参加してきた。ヨコハマトリエンナーレ期間中の黄金町バザールでの作品が桐山氏の目に留まり、今回のクリエイターに抜擢された。

志村氏は今回、自然の営みを映像に具現化するうえで「木」の構造に着目。種、根・枝、葉をそれぞれ、点・線・面に見立て、三つの要素で映像を作り上げる。被写体には、日常の規格品を用いる。均一な線材を反復させることで自然の秩序や生命力を表現する中村氏の構造体に対し、映し出す映像にも同様の概念を持ち込んだ。無機質なものを大量に集め動きを与えることで、生命力を感じる映像を目指す。

幅8m、奥行5m、高さ2m の自立する設計
幅8m、奥行5m、高さ2m の自立する設計
直径0.3mm のピアノ線が格子状に組まれている
直径0.3mm のピアノ線が格子状に組まれている
志村氏の映像イメージスケッチ
志村氏の映像イメージスケッチ

ミントデザインズ× 志村信裕「Fall in Pop」

2つ目の作品「Fall in Pop」は、ファッションデザイナーのミントデザインズが構造体を手掛ける。映像は「spring」同様、志村氏が担当する。

NEOREAL において、構造体をファッションデザイナーが手掛けるのは初めての試みだ。ミントデザインズは、2010 年に毎日ファッション大賞を受賞し、ファッション業界以外にもその名を広く知られることとなった。2009 年のミラノサローネでは、原研哉氏プロデュースの「TOKYO FIBER」で様々な領域のクリエイターとともに作品を発表。また昨年は建築コンペに参加するなど“ファッション”の概念を狭めることのない幅広い活動を展開している。

「Fall in Pop」は、プリーツ加工を施したポリエステルのグラスオーガンジーを素材に、滝の流れのようなドレープを描く高さ5m の立体スクリーンだ。テキスタイルに精通したミントデザインズならではの作品だ。

今回、プリーツの折り目の伸縮で重なりの密度に変化が生じることで、映し出される映像が多彩な表情をみせる効果を狙う。スクリーンの内部から360°に映像を投写するため、構造体自体が光を発しているかのような現象を想定している。

ミントデザインズは「まるで光のメリーゴーランドを見ている様な、または万華鏡の中に紛れ込んだ様な気分になれるでしょう」と語る。

「投写する映像は、光を反射する身近なものをモチーフにします。マクロレンズを用いた接写撮影で、肉眼では捉えることのできない光を映し出したい。」と志村氏。

高さ5mの柔らかな半透明スクリーン
高さ5mの柔らかな半透明スクリーン
プリーツの特製である「伸びる、畳む」により映像も表情を変える
プリーツの特製である「伸びる、畳む」により映像も表情を変える
ミントデザインズの立体スクリーンイメージスケッチ
ミントデザインズの立体スクリーンイメージスケッチ

その他にも、キヤノン総合デザインセンターが、入力から出力まで高精細な機材を使用して、自然を題材とした空間を再現する。会場設計は、ミラノを拠点に活動する森ひかる氏が例年に引き続き担当する。サウンドデザインを畑中正人氏、アートディレクション・グラフィックデザインを山野英之氏と、各分野のスペシャリストでプロジェクトチームが編成されている。
昨年の「NEOREAL WONDER」は6万7千人の来場記録を打ち立てた。さらにサローネ、フォーリサローネ全てのイベントを対象に審査される「エリータ・デザインアワード」のグランプリを受賞している。年々、進化をとげていくキヤノン「NEOREAL」。今年はどのような世界観をみせてくれるのか、4月の開催に期待が高まる。

■ キヤノン NEOREAL IN THE FOREST 開催概要
開催期間 2012年4月17日(火)~22日(日)10:00~21:00
<プレスプレビュー>4月16日(月)15:00~20:00
<オープニングレセプション>4月17日(火)18:30~21:00
会場 スーパースタジオ・ピュー 内 アートポイントSuperstudio Più ART POINT
住所 Via Tortona 27, Milan(トルトーナ地区)
公式サイト http://canon.jp/milano2012/exhibition/

参加クリエイター

中村竜治

中村竜治/Nakamura Ryuji

1972年長野県生まれ。東京芸術大学大学院修士課程修了後、青木淳建築計画事務所を経て、2004年中村竜治建築設計事務所を設立。主なプロジェクトとして、2005 年「へちま」(椅子)、2009 年「空気のような舞台」(新国立劇場オペラ「ル・グラン・マカーブル」舞台美術)、2010 年「とうもろこし畑」(東京国立近代美術館「建築はどこにあるの?7つのインスタレーション」)他。2006 年「グッドデザイン賞」。2007 年「THE GREAT INDOORS AWARD」(オランダ)、「JCD デザインアワード」大賞他、多数の受賞歴がある。

ミントデザインズ

ミントデザインズ/mintdesignds

勝井北斗と八木奈央により、2001年ミントデザインズを設立。2003年春夏より東京コレクションに参加。2008年春夏サンパウロコレクション。2009年「to be someone」(ミラノサローネ「TOKYO FIBER 2009」)、2011年個展「ハッピーミステイク/パターン・オンパターン」(台北現代美術館)他。2005年「第7回モエ・エ・シャンドン新人デザイナー賞」受賞。2010年「第28回毎日ファッション大賞」受賞。

志村信裕

志村信裕/Shimura Nobuhiro

1982年東京都生まれ。2007年武蔵野美術大学大学院映像コース修了後よりアーティストとして多数の展覧会、アートプロジェクトに参加。主な展覧会に「黄金町バザール2009-2011」(横浜)、「あいちトリエンナーレ2010」(名古屋)など。2007年「NHK デジスタ・アウォード2007 インタラクティブ/インスタレーション部門」グランプリ、2011年「地域が選ぶ黄金町バザール賞」。近年では台北での個展、グループ展で作品発表するなど活躍の場を広げている。

会場設計:森 ひかる、サウンドデザイン:畑中正人、アートディレクション:山野英之