東京オペラシティ | 篠山紀信の写真力　美術館を舞台にした新たな挑戦 (3)

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篠山紀信の写真力　美術館を舞台にした新たな挑戦

篠山紀信の写真力
美術館を舞台にした新たな挑戦

2012/10/31 UPDATE

Vol.3写真力VS空間力

これまで美術館での写真展にあまり意欲的ではなかった篠山氏。額縁の中に写真を入れて「これは芸術ですから鑑賞してください」という従来の見せ方が「作品の死体置き場」のようで違和感を感じていたという。なぜなら「写真はもっと生々しくイキイキしているものだから」。
ではなぜ今回の個展を開催することにしたのか。そこには「美術館という大きな非日常の空間に、写真力を対峙させたらどうなるのか」という篠山氏自身の純粋な好奇心と本展の企画協力者である後藤繁雄氏からの提案の後押しがあったという。新しい挑戦への興味が、回顧展でも傑作選でもない、展示全体で写真が持っている力を見せる「写真の力」そのものをテーマとする今回の個展へとつながった。

篠山紀信氏と後藤繁雄氏による記者会見

天井高6M、大きな2つのホワイトキューブからなるアートギャラリーを5つのテーマで区切った今回の展覧会。入り口の黒い暗幕を潜り抜けると、最初の空間「GOD」（鬼籍に入られた人々）だ。

まず一歩足を踏み入れた瞬間、巨大な写真と緻密に計算された空間の力に衝撃を受けることだろう。黒い壁に柔らかな暖色系の照明。大きく引き伸ばされた写真はまるで一枚プリントのように繊細に処理されているが、もちろん数枚の張り合わせなので、その筋が光らないよう、照明のあて方や角度、光源にもこだわった。写真同士の位置関係から生じる印象、少し見上げるような高さなど、随所に工夫が施されている。被写体となっているすでに亡くなった方々の面影をより深く表現した空間構成だ。写真の力と空間の力を戦わせた今回の試みを早くも全身で感じることとなるだろう。

「GOD」（鬼籍に入られた人々）
「STAR」（すべての人々に知られる有名人）

次のセクション「STAR」（すべての人々に知られる有名人）への切り替えの対比も効果的だ。続く「SPECTACLE」（私たちを異次元に連れ出す夢の世界）、「BODY」（裸の肉体、美とエロスと闘い）、「ACCIDENTS」（2011年3月11日、東日本大震災で被災された人々の肖像）と5つのセクションで展開される選び抜かれた写真の数々。この写真展のために撮った写真は一枚もない。

全体を通して、ダイナミックに引き伸ばされた写真に圧倒されるが、写真を大きくすれば写真力が生まれるわけではない。どの写真にもその時代を代弁し、喚起するような時空を超えた力が宿っている。だからこそ大きく引き伸ばしても耐えうるし、写真が語りかけてくるのだ。被写体の個性や魅力、時代の空気感、写真から呼び起される個人的な記憶、写真同士の位置関係による対峙、空間の力、様々な要因が複雑に絡み合って、100人が見たら100通りの異なる印象を生む展覧会になっているのではないか。それはこれまでの写真展の常識を塗り替える試みといえるだろう。篠山氏が何度も口にする「写真は生々しいもの」という言葉が印象に残った。

「SPECTACLE」（私たちを異次元に連れ出す夢の世界）の写真の前で語る篠山氏

「ACCIDENTS」（2011年3月11日、東日本大震災で被災された人々の肖像）

写真提供：Kishin Shinoyama Studio

[ 篠山紀信プロフィール ]
1940年東京生まれ。61年日本大学在学中に広告制作会社ライトパブリシティ写真部入社、第一回日本広告写真家協会展公募部門APA賞受賞。68年ライトパブリシティを退社後フリーに。70年代に山口百恵らを取り続けた「激写」シリーズ、80年代は複数のカメラを並べて同時に撮る「シノラマ」、2000年代には「degi+KISHIN」など、常に時代と共に新しい表現を開拓。73年講談社出版文化賞、98年国際写真フェスティバル金賞受賞ほか、受賞歴多数。

篠山紀信展写真力 THE PEOPLE by KISHIN

開催期間	2012年10月3日（水）～12月24日（月・祝）
時間	11:00～19:00 （金、土曜は20:00まで／最終入場は閉館30分前まで）
入場料	一般1,000円　大学・高校生800円中学・小学生600円
会場	東京オペラシティアートギャラリー　ギャラリー 1&2 東京都新宿区西新宿 3-20-2