篠山紀信の写真力 美術館を舞台にした新たな挑戦

篠山紀信の写真力
美術館を舞台にした新たな挑戦

2012/09/19 UPDATE

Vol.1巨大ポートレイトが放つ圧倒的なパワー

東京オペラシティアートギャラリーで開催される「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」。篠山紀信が美術館で大規模な個展を行うのは、国内ではこれが初となる。そのテーマに掲げられたものは「写真力」。篠山氏が提唱する写真力とは「写真の力が漲った写真」であり、撮られた者も、撮った者も、それを見る人々も、唖然とするような「尊い写真」のこと。本展覧会で図録等の印刷物のアートディレクターを務めた中島英樹氏はその見どころについて「作品の大きさ」をあげる。

巨大な展示作品の前に立つ篠山紀信氏/写真提供:東京オペラシティ アートギャラリー
巨大な展示作品の前に立つ篠山紀信氏/写真提供:東京オペラシティ アートギャラリー

「今回の展示作品は、驚くほど巨大です。だから視界に作品全体が入り切らず、観る側は作品の中に吸い込まれそうになります。篠山さんご自身も、全部計算した上で撮影してきたはずなのに、大きく伸ばしたことで見えてきたものに出会い“ここまで計算して撮影していたとは”と驚いていました」

50年に渡って撮影されてきた作品の中から厳選される珠玉の120点。それらが映し出すものは、主として時代を象徴する人物だ。俳優、歌舞伎役者、ダンサー、アイドル、ヌードモデル、被災者の姿など。到底ひとりの写真家が対峙してきたとは思えないほどのバリエーションが、展示空間を支配する。篠山氏を語る上で欠かせないのが、この「全方位的」なスタンス。言葉を変えると「余りにも幅広すぎてつかみどころがない」ともいえるあり方。このカテゴライズ自体を拒絶するかのようなスタンスは、篠山紀信を批評の文脈からも遠ざけてきた。

「普通、特定の世界で成功したスタイルを見いだしたら、それを追求して特定の分野の人になっていきます。しかし、篠山さんは決してそれをやらない。発表後、周囲が話題にしはじめた頃には、すでに次の新しい遊び場にいる。篠山さん自身が常に変わっていく、これこそが篠山さんの特徴の一つと感じています。」
時代の一番いいタイミングで、一番いい場所から、一番いい写真を撮る。これは、時代を敏感に感じ取り、時代のファーストランナーであり続けてきた篠山氏を形容する代表的な言葉だ。それを支えるのは「抜群の嗅覚」。どん欲なだけでは、到底「一番に」はかなわない。加えて「広く浅く」ではないこともポイントだ。堂々と全方位で渡り合える背景には、被写体に対する確かなリスペクト、そして地道な努力がある。
「歌舞伎の作品を観るとよくわかりますが“この物語で、この役者は、この場所から見たときが最高”というポイントを完全に理解している。それは、きちんと物語を把握した上で、あらかじめ舞台を調べて尽くしているからこそ。クリエイターやフォトグラファーなら、この展覧会からそういった篠山さんの姿勢も、楽しんでほしいと感じます。」

市川海老蔵 『船弁慶』平知盛の霊(2007年)
市川海老蔵 『船弁慶』平知盛の霊(2007年)

東京オペラシティ アートギャラリー

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巨大ポートレイトが放つ圧倒的なパワー

VOL.1

巨大ポートレイトが放つ圧倒的なパワー

選りすぐりの120点からにじみ出る「写真愛」

VOL.2

選りすぐりの120点からにじみ出る「写真愛」

写真力 VS 空間力

VOL.3

写真力 VS 空間力

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