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12カ月のパリ
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 12カ月のパリ
 


第12回
Maison de l'Outil et de la pensée ouvrière
道具館 〜職人の考え〜

 update 2003.09.10
レポート : 浦田 薫 / アート&デザインジャーナリスト 




シャンパーニュ地方の肥沃な土地の恩恵を受けて、古来から発展した町Troyes(トロワ)は、パリから南東へ150Kmに位置する。産業では、繊維業が活発でメリヤス業者が多いことでも知られる。史跡では、中世やルネッサンス時代の建造物も保存されており、13世紀から17世紀に建立された私邸も今日でも数多く残る。

世界でも貴重なコレクションを納めているといわれる道具館に訪れてみた。正に、道具の宝物箱である。17世紀から19世紀にかけて利用された道具は、2万点に及び、そのうち、加工や細工に使用されたと思われる道具は、凡そ8千点あるといわれる。
当美術館の建物は、1556年に建立されたもので、その当時は商人として業を成した夫妻が所有していた。死後、遺書に記述されたとおりに、孤児院のための教育の場として開放されたが、1630年には慈善事業だけでの維持が困難になった結果、メリヤス業者の活動を普及させた。後に、町の最も重要な工場となる。1974年に、美術館として一般に開放され、ルネッサンス時代のスタイルを残した建物は、今日では史跡建造物として登録されている。
創立者であるポール・フェレール氏は、職人組合の職業訓練を見本とした。2002年には、同氏のセンターも設けられ、研究家のために職業伝達理論を紹介している。

展示会室には、61のショーケースが2層にわたり配置されている。豊富なコレクションは、用途別、職業別、機能別に区分してある。入場料を支払う受付で、分厚いクリアーファイルの資料を貸し出してくれるので、それを参照しながら見学をすれば、知識を深めることが可能だろう。

一歩、展示会場に足を踏み入れると、ショーケースの中に吊るされている道具の数にまず圧倒される。そして、段々と目が慣れてくると、次に、道具の大切さが伝わってくる。職業の技術や事情が理解できなくても、一人の職人が、ある製品を完成させるまでに関わる道具は、どんな細かい作業でも、それを無くしては成立しない。だからこそ、一層道具を労わり愛着を持つのであろう。自らの道具にイニシャルを彫っている場合もある。もしくは、使い勝手のいいように、工夫を施したと思われるものもある。完成した製品の完璧度と同様に、道具にも同じ愛情が注がれていたのであろう。
一輪の車輪にしても、樽、椅子、籠などの生活必需品は、戦前までは全て手仕事で生産されていた。会場で、樽作りのビデオを流していた。男性の体と同じサイズほどの樽を仕上げていく作業は、火をくすぶらせている上で、要所に定型リングをはめて、立体のバランスをとり、熱加工を施しながら曲木をする。極めて早業である。隣りのショーケースの中の道具と見比べながら、底を仕上げる部分を大変興味深く待っていたのだが、ビデオは肝心なところを記録していなかった。少し残念である。

親方見習いで、一人前になるまでには長い道のりである。職人のお供をした道具には、それぞれの物語があったことだろう。

時代背景や社会情勢が異なる時代の「モノの価値観」には、単なる「モノ」へのこだわりではなく、生産過程の全てに気持ちが投入されていたことを感じずにはいられない。







美術館ポスター


美術館エントランス
正面右側の壁面にあるロゴ入りプレートは、指定建造物の意味でフランス国内共通する


近年に新設された館内の本屋 職人連盟に関する書籍が主



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