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好きなこと、興味のあることだけに一生を費やした男「開館20周年記念 植草甚一スクラップ・ブック」

好きなこと、興味のあることだけに一生を費やした男「開館20周年記念 植草甚一スクラップ・ブック」

病床でも書くこと、創造することをやめようとしなかった姿勢

2015/06/24

JDN編集部

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<ライフスタイル>それが何か売っている場所でないと散歩する気が起こらない

映画や文学、音楽にコラージュなど様々な分野の仕事をしていた植草。エッセイの導入において自身の身辺雑記についてもしばしば綴っていた。その最たるものが全集「植草甚一のスクラップ・ブック」の月報などにも掲載された日記だ。身辺雑記の内容にも関わらず、魅力的な読み物として成立している理由の一つは、どこで何をいくらで買ったか、その内容と道程が細かく記され、そのまま散歩の記録となっていることにある。会場では生前愛用していた服やネクタイ、蒐集していた切手のコレクションや名刺のスクラップ、住所録なども展示されている。

実際に着用していたスーツやネクタイ
実際に着用していたスーツやネクタイ
名刺スクラップには名刺を渡された際のエピソードも書かれている
名刺スクラップには名刺を渡された際のエピソードも書かれている

<三歩屋(さんぽや)>幻の古書店

植草は1979年2月、70歳の時に心筋梗塞と脳梗塞のため入院する。奇跡的な回復を遂げ、リハビリのために静岡の病院に入院するが、その日々は病気との戦いというよりもむしろ「退屈」との戦いだった。そこで、脳裏に去来する様々な空想や思い出に「妄草の刈り入れ」、「退屈の利用法」といったユーモアあふれる題名を付して、文章化するようになった。そうした空想の一つに、自身の蔵書を元手にした古書店「三歩屋(さんぽや)」があった。下北沢に開店することを夢見ていたこの店は実現することはなかったが、本展では開店することのなかった「三歩屋」を会場にオープンした。アイデアとして描いていた三角形のテーブルや、植草が好きだった本などを店内に再現。40年余りの時を経て「三歩屋」が再現された。

  • 三歩屋
    三歩屋
  • 奥に積まれた本には本人の旧蔵書も含まれている
    奥に積まれた本には本人の旧蔵書も含まれている
  • 各本には植草氏が書いたコメントがついている
    各本には植草氏が書いたコメントがついている

20代後半の筆者は「植草甚一」という人物を知らなかったが、数々のスクラップ・ブックや原稿、蔵書やコラージュを見ていると植草氏にぜひ人生の師匠になってほしいという気持ちになった。様々な分野への興味と愛情で埋め尽くされた人生、自分の心の赴くままにまっすぐと歩いた様子が伝わってくる展示。彼のように買い物のついでに散歩するように訪れてみてほしい。会期は7月5日(日)までなのでお早めに。

以下、本文中で伝えきれなかった写真を掲載する。

  • ミステリー小説関連のスクラップ・ブックと旧蔵書
    ミステリー小説関連のスクラップ・ブックと旧蔵書
  • コラージュ素材一式(一部)
    コラージュ素材一式(一部)
  • 1960年~1970年頃につくられた作品
    1960年~1970年頃につくられた作品
  • 原稿の締切りに追われる日々の中で作成していた手書きのスケジュール表
    原稿の締切りに追われる日々の中で作成していた手書きのスケジュール表
  • ニューヨークで購入した、カエルとエイの形のカードクリップ
    ニューヨークで購入した、カエルとエイの形のカードクリップ
  • 三歩屋内の机には本人が吸っていたタバコなども再現されている
    三歩屋内の机には本人が吸っていたタバコなども再現されている

公式ホームページ
http://www.setabun.or.jp/