デザイナーのこれからのキャリア

デザイナーのこれからのキャリア
第2回:DELTRO代表/アートディレクター/デザイナー 坂本政則氏

2015/04/15 UPDATE

Vol.3想像力・観察力・洞察力がデザインを決める
「審美眼だけではモノは作れない。まずは貪欲に手を動かす」

― 坂本さんの作品作りの、根源的なところはどういうところでしょうか?

坂本:法則性から生まれる美しさがどうやら好きみたいです(笑)。人工的、建築的、量産による連続複製、アルゴリズム…。幼少時に見たプラモデルのパッケージやカセットレタリング、ビンテージカーやプロダクトに見る、ディテールの複合体として密結合しているモノの完成度だったり。フォントも言ってみれば、直線と美しい曲線のエレメントの組み合わせでグリフが完成し、言葉にすることで複合体になる。

あとは“ないものは作る精神”でしょうか。僕は家具を自作したりもするのですが、せっかく作るのであれば売り物にできるレベルのモノが作りたい。どうするのかというとひたすら調べるのです。スチールやアルミの規格鋼材の種類、樹種による仕上がりの変化、巾ハギという成材方法、世の中の量産家具の多くは突板とパーティクルボードを合板処理した面材を使っているとか、突板のロール巻が10m単位で買えるぞとか、表面の仕上げのウレタンニスってどういうものだとか、ワックスの種類は?などなど。これらの調査と並行してデザインを起こして各部材を発注し、サンダーや電動ドリルなどを駆使して組み立てるのです。言ってしまえば、“ディテールまで含めて自分が納得できるモノ”を見てみたい/触れてみたいっていう想いの強さでしょうか(笑)。フォント制作も同じですね。

Intel® The Museum of Me - Website / Planning, Art Direction, Design, Logotype, Typeface, Programming
Intel® The Museum of Me - Website / Planning, Art Direction, Design, Logotype, Typeface, Programming
iida UI for INFOBAR A03 - Typeface / Design
iida UI for INFOBAR A03 - Typeface / Design

もう1つの特性として、風景や映像、プロダクトに至るまで、見てきた/触れてきたものはわりと細部まで記憶に残っていたりするんです。

― それは、坂本さんの特異能力ですね。

坂本:はい(笑)。これはつまり実際のモノづくりに直面した際にどこまで想像が及ぶか? ということにも直結し、ディテールにすごく大きく影響する部分だったりします。

以前に関わらせていただいた「Intel® The Museum of Me」もですが、「TOYOTA FV2」では、想像の産物のオンパレードでした。映像内に登場するシンボリックな建築物やその内部構造、サインシステム、体感ゲーム用の筐体デザインのアートディレクション、コンセプトカーの操作系UIなど多岐にわたりました。

この場合にもまず調査から入り、それらの情報を元にさらに設定を追い込んで想像していくことで、より詳細な部位に及んだデザインができるようになります。

映像上表示される機会があるかどうかわからない部分だったとしても、制作プロセスの成り行き上作ってしまうことがよくあります(笑)。

坂本政則 (7)

― 坂本さんの場合、自分自身が納得いくまで突き詰めることで様々な課題を突破してきたと思うんですが、デザイナーさんの中には「大体これくらい」と自分にキャップを被せてしまうことで、表現の幅を乗り越えられない人が多くいます。そのような人たちに、何かアドバイスはありますか?

坂本:え? そもそもそういう人は乗り越えているかどうかっていう自覚自体がなくないですか? 乗り越えられないことを苦悩したりはしてるのですかね?

ちょっと想定外な思考の人物像を例にした質問なので、この認識であっているか不安ではありますが、手を入れる余地があることを自分自身が認識しているにも関わらず、ある一定のラインで手を止め、それで乗り越えられないと悩んでいるのなら、納得いくまで触ればいいって話ですし、乗り越えているかどうかの自覚自体がなかったとしたら、これから関わっていくプロジェクトの制作プロセスのなかで、作ったモノへのフィードバックという形で気づかされると思いますけど。

― 意外とドライ!(笑)

坂本:そうですかね(笑)。探究心や貪欲さがないと作るモノの完成度は一向に上がらないんじゃないかと。実際作ってみると直面するのが、なんとなくの完成イメージを持っているのに、作ってみたら全く及ばないという状態。審美眼も大事ですけど、それだけでは良いモノは作れないんです。

レイアウト力、造形力など、ほぼ全てにおいて、余計なことを考えずにひたすら手を動かしてトライし続けることでしか突破口は開かれないんですよね。例えばフォントやピクトグラムなどを作っていると、直線と曲線の接合部分の違和感や、気持ちよくないカーブに直面することが多々あります。その際、該当部位とだけ延々格闘したりします。そうすると“身の回りのただの曲線”に対する解像度がやたら上がるんです。「このカーブはキレイだけど、こっちのカーブは汚い」とか(笑)。

モノづくりをする上で必要な素養は、探究心、審美眼の強化、腕力、観察力、洞察力、想像力と色々ありますが、自分にとって何が足りてないのかを自覚することが第一歩ではないでしょうか。

坂本政則氏 (8)

― デザイナーが言葉にならない良さを伝える時、何が大事だと思いますか?

坂本:デザインには明確な目的があるので大半は説明ができてしまいますよね。ディテールの複合体として密結合しているモノの良さは、各部位の精度もさることながら、その全体像が自然と物語りますよね。ディテールの中のディテールすぎてもはや認識不能な部分まで見えているのがデザイナーの目力だったりするので、そのあたりまでくると説明の必要がないですし。

一方、ある特定のカルチャーでの事象に偏ったコンテンツの場合、その時代性やにおいの漂わせ方に良さがあることが多いと感じます。

どちらの場合にも、制作対象への解像度を高めたうえで、制作者の手癖やブームもいくらか混じり合いながらその時のアウトプットが生まれる。

後者の場合でもそのカルチャーに精通している人に対してきちんと届くモノになっていて、当然説明ができます。精通していない人が見た時の良し悪しの解釈はその人の解像度に依存しますから、「なんか気になる…」と感じている場合は、興味がなかったけど引っかかり始めの前兆だったりするのではないかなと。無意識下に響く気持ちよさや中毒性を持っているコトもありますね。この場合も部位を特定しての説明はできなくもない…か(笑)。

― 最後に、これからのデザイナーのキャリアについて必要なことなど、何かアドバイスがあれば。

坂本:作り手として大事だなと感じていることですが、自分という個体は、長い時間をかけて見てきた/触れてきた/経験してきたことによって、形成/熟成された唯一無二の存在ですから、その人生のなかで蓄積してきた印象的な事々から“本気で夢中になれること”を見いだし、存分に作るモノに練り込んだら良いと思います。我の強さはモノづくりにおいて強烈な武器になりますし、体裁を気にして他人と似たようなモノを作ったとしても、きっとそこには自分が存在しないはずなのです。

またここ数年で、表現のフィールドも多様化し、平面、立体、映像、UI、UX、ブランディング…と、ビジュアル思考に長けたアートディレクター/デザイナーの活動エリアは、自身にリミッターさえかけなければ多岐にわたって統合的なディレクションが可能です。未知の領域に臆せず、ぐいぐい前に出て行くことで少しずつ自分の通れる道を拡張していったら、きっと今とは違う視点でモノが見れるようになるはずですから。

小島幸代(株式会社ベンチ 代表取締役)

インタビューアー
小島幸代(株式会社ベンチ 代表取締役)

美大でデザインを学んだ後、米国法人リクルーティングエージェンシーにてクリエイティブに特化した採用を8年経験。クリエイティブフィールドで戦うプレイヤーをベンチサイドから様々な角度でサポートしたいという思いから2012年に株式会社ベンチを設立。キャリアコーチングは国内外1.000名以上、雇用契約は400件以上にのぼる。近年は企業のクリエイター採用におけるブランディング、手法のコンサルに従事している。BAPA 運営、TWDW主催。

転職・キャリア相談はこちら info@bench.jp

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独学で突っ走ったWeb黎明期からDELTORO設立に至るまで

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