WEBマガジン「WIRED CREATIVE HACK AWARD 2013」スペシャルコラボ企画 石田祐康(アニメーター)

新人クリエイターがチャンスをつかんだきっかけ
石田祐康(アニメーター)

2013/06/26 UPDATE

Vol.2アニメーターとしてのこだわり

アニメーション制作に込めた想い

現在、「スタジオコロリド」に所属しながらアニメーターとして、オリジナル作品の制作に励んでいる石田祐康さん。商業アニメーションという世界でクリエイティブワークを行ううえで目標に置いていることがあるという。

「独りよがりな、自分が表現したいことだけに終始するような作品にはしたくないです。完璧に表現できるようになるには、まだまだ僕は未熟です。これから、アニメーターとしての技術を磨き、社会人としての経験を積んで、ゆくゆくは、時代の空気をきちんと表現したアニメーションをつくることができたらと思っています」

「いろいろな体験をして引き出しを増やし、時代の空気をきちんと表現したアニメーションを作っていきたい」
「いろいろな体験をして引き出しを増やし、時代の空気をきちんと表現したアニメーションを作っていきたい」

想像力の引き出しを増やして、思ったことや感じたこと、時代背景に流行、普遍性。これらの要素が一つのアニメーションに詰まっていてこそ、長く、多くの人に喜んでもらえるエンターテインメントになると考えているのだ。

作画の精度を上げるためのツール

石田さんが語る時代の空気感をとらえたアニメーションを実現するために、実際の制作では、どんなことを意識しているのだろう。

「動きのあるシーンとそうでないシーンとのバランスをとることで、作品全体に緩急のメリハリを感じさせることを常に心がけています。“静”と“動”。どちらかだけでは飽きてしまいますからね」

また、ストーリーはもちろんのこと、キャラクターの細かいディテールや線の捉え方などの細部にこだわり、作画のクオリティを上げていくことにも妥協はない。思い通りの表現で描くために、愛用しているツールは液晶ペンタブレット“Cintiq”だ。

キャラクターの細かいディテールなど作画の精度を上げるため、液晶ペンタブレットを愛用
キャラクターの細かいディテールなど作画の精度を上げるため、液晶ペンタブレットを愛用

「大学時代からCintiqを愛用しているのですが、直接描画ができる液晶ペンタブレットは特に何枚もの絵を描くアニメーション制作ではアナログよりも作業効率がよく、欠かせないツールになっていますね。とくにキャラクターの細かい描写は、通常のペンタブレットよりも、微妙なディテールのタッチも描きだせるので作画の精度を上げることができています」

線を重視したキャラクターを画面にそのまま描画できたり、カンバスのように角度を調整できるCintiqは、石田さんのクリエイティブワークに欠かせないアイテムのようだ。

現在、プロになって初の監督作品『陽なたのアオシグレ』(2013年公開予定)の作業の真っ只中。『フミコの告白』が海外から多くの反響があったように、今作も世界中から大きな期待が寄せられている。しかし、石田さんは、特に海外を意識しながら作品をつくっているわけではないと、いたって自然体だ。

商業アニメーションが進化するには
石田さんが企画立案から脚本、監督まで担当する『陽なたのアオシグレ』(2013年公開予定)
石田さんが企画立案から脚本、監督まで担当する『陽なたのアオシグレ』(2013年公開予定)

「学生の時、海外に強い刺激を受けたことがありました。アニメーションを学んでいる海外の学生が、YouTubeで発表している短編作品の技術レベルの高さに驚きました。でも、彼らの奥行のある映像を見ていると、明らかに日本の影響を受けているんですよね」

それは単なる真似ではない。日本のアニメをうまく咀嚼し、欧米的なデザインセンスや色使いでアレンジし、見事に彼らの世界観につくりかえている。代表的な例として、『超時空要塞マクロス』でアニメーターの板野一郎氏が生み出した立体的なアクションシーンの演出、通称「板野サーカス」がある。それまでに見られなかった、スピード感溢れる迫力ある戦闘シーンを表現し、以降の作品に多大な影響を与えている技法だ。海外のアニメーターが、こうした日本人の生み出した技法を自由に取り入れて、新しい世界を巧みに表現していることに、時には、はがゆさを感じてしまうこともあるという。

「日本のアニメーションがより面白い作品を生み出していくには、海外のアニメーターが日本に影響されながら自由奔放につくっているように、もっと自由に制作ができる環境になっていけばいいと思います。例えば、昔からあるつくり方の手順や納品システムなど、長年積み上げられてきた慣習にがんじがらめになってしまったり。今までになかったクリエイティブなことに挑戦しようとしても、あきらめざるを得ない状況があるとしたら、それはもったいないことだと思います」

日本でしかできないもの、日本ならではのもの。さらに欧米のアニメーターが真似したくなるような技術を生み出し続けていくことこそが、日本の商業アニメーションの発展につながっていくのではないか。そんな秘めたる熱い想いが、石田さんの言葉から伝わってきた。

[ 石田祐康 プロフィール ]
1988年愛知県生まれ。京都精華大学アニメーション学科卒業。高校時代からアニメーションの自主制作をはじめる。2009年制作のアニメーション作品『フミコの告白』が、東京国際アニメフェア2010学生部門優秀作品賞をはじめ、YouTubeビデオアワード2010 アニメーション部門賞、オタワ国際アニメーションフェスティバル学生部門特別賞、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞などを受賞。また2011年に大学の卒業制作として発表した作品『rain town』 も文化庁メディア芸術祭の新人賞など数多くの賞を受賞。現在は最新作『陽なたのアオシグレ』(2013年公開予定)を制作中。 http://colorido.co.jp/

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プロのアニメーターになるまで

VOL.1

プロのアニメーターになるまで

アニメーターとしてのこだわり

VOL.2

アニメーターとしてのこだわり

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